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シニタクナイ
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走る、走る、走る。
もう脚の感覚はない。だが、振り返れば未だに追いかけてくる謎の液体。これに触れることは死を意味していて、逃れるためにはただ走り続けるしかなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
息はとうに上がっている。汗も全身から噴き出していた。顔にかかる汗を拭う気力すらなく、ただ足を動かすことだけを必死で考える。
そもそもここはどこなのだ。そして、一体私は誰なのだ。
訳も分からないまま、ただ私は走り続けた。
周りにいた、ほとんど同じ顔。私と同じ迫り来る液体から逃れようとする者はみるみる数が減っていた。
液体に触れた者はどろりと姿を失くし、そこに確かに存在していた者はあっという間に消えていった。悲鳴が頭の中で木霊する。あの絶望的な顔が脳裏に浮かんで離れない。
「死にたくない……っ!」
ただその一心でひたすら走るが、そろそろ自分の限界も近づいてくる。
「あ」
ほんの一瞬だった。もつれた足が、上手く動かず身体が地面に沈む。顔を上げれば、液体がすぐそこまで迫っていた。
「あ、……っあぁぁ……っ!」
ふっと視界が黒くなる。そのまま私は意識を失っていた。
「……んっ、……あれ、私……」
「気がついた?」
私の顔を覗き込むように、同じ顔をした男がこちらをみていた。あまりの近さに、思わず「ひっ」と小さく悲鳴を上げてしまった。
「あぁ、ごめんごめん。驚かせるつもりはなかったんだ」
「ごめんなさい。あの、私……生きてるの?」
「うん、君は生きているよ」
生きている、という事実にホッと胸を撫で下ろす。安心したせいか、ドッと疲れが重くのしかかる。
「あの、ここがどこか知ってる?」
いきなり聞かれて困るかもしれないだろうけど、とにかくまずは情報が欲しかった。
「いや、僕も分からない。ただ、同じ顔をした人がたくさんいるのと、あの液体に触れてもある程度耐性がある人がいるということ。それと、この世界から脱出するには脱出艇に乗らないといけない、ということは知ってるよ」
まさかダメ元で聞いたのに、そんなにたくさんの情報が得られると思わず、萎えてた心が少しだけ上向く。
「すごい、そんなに知ってるだなんて……」
「僕も色々な人から聞いたんだ。ほとんどその人達もいなくなっちゃったけど」
「そう。……とにかく脱出艇に乗らなきゃなら、そこに行かなきゃだね」
(もしかしたら、脱出できるかもしれない)
そう思うと、自然と力が湧いてくる。我ながら単純だと思うが、希望さえあれば、それが原動力となって、折れかけた心を奮い立たせてくれた。
身体をゆっくりと起こす。自分に液体の耐性があって良かった、と安堵すると共に、次々といなくなっていった同じ顔の人々のことを思うと胸が痛む。
「変なことを聞いてもいい?」
「何だい?」
「私も……顔、同じなの?」
素朴な疑問だった。こうも皆一様に同じ顔をしているとなると、私もその顔なのか、と。自分では己の顔を見る術がないから、聞くしかなかった。
「あぁ、君もみんなとほとんど同じ顔をしてるよ。きっと僕もそうだろう?」
頷くと彼は苦笑する。
自分もやはり例外ではなく、彼らと同じ姿だというのはなんとなく想像はついていたが、ほぼ同じ顔の相手と話すというのは違和感を感じざるを得ない。
そもそも私は誰なのか、何なのか、ここはどこなのか、何でこんなところにいるのかなど分からないことだらけだ。
だが、ただ1つ言えることとすれば、それはただ「生きたい」ということのみだ。
「さぁ、ここも安全とは限らない。脱出艇は不安定でいつなくなるか分からないらしい。だから、急いで向かわないと」
「うん、急ごう」
果たしてこちらの道で合っているのかさえ分からないが、とにかく私は進むしかなかった。
彼が一体どんな人かは分からないけど、悪い人ではないと、なんとなくそう思う。
変わらない光景。ひたすら広がる赤やら桃色のつるつるとした弾力のある足元は、上手く動くことができずに余計に体力を使う。
だが、そこで文句を言っても仕方ないので、段差や坂道は足を滑らせないように気をつけながら注意深く進んでいく。
ごぷごぷごぷごぷ
聞きなれない音ともに目の前に現れるのは、自分の身の丈をゆうに超えた巨大な物体。見慣れないそれは、明らかに友好的とは思えない見た目だった。
「何、これ……」
「逃げろ……!!こいつに喰われるとマズい!!!」
口らしきものがパカっと開いたかと思うと、そのまま私達に突っ込んでくる。勢いがついたそれは、尋常じゃない速さでこちらを追いかけてくる。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ!!」
「っく、しつこい……っ」
いつのまにか巨大な物体はどんどん増え、こちらを追いかけてくる。迫ってくるそれを、緩急つけて走ることにより、何とかやり過ごす。
「きゃあああああ!」
悲鳴につられて視線を向けると、今まさに自分達同様、逃げていた人が飲み込まれる瞬間を見てしまって、思わず身体が強張る。
食べられる、というよりも最早喰われると言った表現の方が正しいと思えるほど、彼らは容赦なく足から頭から喰らっていった。
「うっ……っ」
「見ちゃダメだ!とにかく走るぞ。僕達も喰われたらひとたまりもない!!」
吐き気をもよおすのを、グッと抑えながら走り続ける。自然と涙が溢れる。
けれど、足を止めることもできず、ただ恐怖を抱えながら走り続けるしかなかった。
(どうしてこんな目に……!)
訳もわからずただ逃げ続けることに怒りを覚える。だが、どうすることもできない自分の無力さに怒りをぶつけることもできず、感情を持て余す。
怒りを原動力にして、私はただただ逃げ続けるしかなかった。
「はぁ、……っ、はぁ、……はぁ……っ」
ついた先は2手に別れた道。ここはどっちが正解なのか、それともどちらも正解ではないのか、わからないまま立ち尽くす。
「どうしよう……」
「怪物は今のところ撒いたようだけど、先を急がないと」
右か左かの2択である。
「どっちだと思う?」
「いっそ、2手に別れて行くかい?」
「そんな、ダメだよ。どっちかしか生き残れないだなんて」
究極の選択だ。どちらかは死ぬ、もしくはどちらも死ぬ。散々先程から目の当たりにしていた光景が自分にやってくるとなると、恐ろしくて仕方なかった。
再び恐怖で身体が震え出す。先程感じた希望は、簡単に崩れる。それほどまでに、恐怖が身体に蔓延って離れない。
「わかった。なら、僕を信じて。僕は右に行く」
「うん、信じる。だから、ずっと一緒だよ」
彼はそう言って手を繋ぐと、私を引っ張ってくれる。自然と彼と一緒なら大丈夫な気がした。根拠のない自信だけど、それでも少しだけ勇気が湧いた。
地面にへばりついてた足を、どうにか動かす。私にはただ動くしかなかった。……死なないために。
「な、にこれ……」
思わず絶句する。目の前に広がるのは大きな壁。悠然と聳え立つそれは、来るものを拒んでいた。
「私達、もう死ぬの……?」
ここまで来るのにだいぶ時間がかかってしまった。あとに戻るにも、通ってきたはずの道は既に閉ざされていた。
「まだだ、気をしっかり持って!この壁の向こうが脱出艇だ!壁を壊して先に進もう!」
「壁を壊す……?」
絶対的な存在感を示すこれを壊す?そんなことできるのだろうか。
「無理だよ。私にはできない!」
「ここが最後の関門だよ!君がやらないなら僕だけでもやる!!」
彼が手を離して、壁に勢いよくぶつかっていく。だが、全然びくともした様子がない。
(やっぱり無理なんだ、私死んじゃうんだ)
メソメソと涙が溢れる。何で私がこんな目に合わなくちゃならないんだ……!そう訴えたところで誰かが救ってくれるはずもない、絶望。
(あれ、段々と息が苦しく……)
息を切らしているわけでもないのに呼吸がしにくくなる。
つらい、苦しい。もう嫌だ、助けて!!
心で叫ぶが、もちろん誰も助けてくれない。彼に視線を向けると、必死な様子で壁と格闘している姿が目に映る。
(あんなことしたって無駄なのに)
段々と思考が鈍ってくる。
あぁ、私はこのまま死ぬのか。何もせずに、何にもしないまま。ただ、死ぬのか。
「……嫌だ!死にたくない!!」
子供のワガママのように大声を出すと、身体に力が漲って、ダッと走り出す。
(死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない……!!)
何も行動せずに、甘んじて死を受け入れるのは嫌だった。死ぬなら何か少しでも抗いたかった。
(何か行動して、それでも死んだなら仕方がないと言えるんだから、死ぬまで足掻けるなら足掻きたい!)
がむしゃらに壁に立ち向かう。どうすれば壊れるかなんてわからない。ただ自分が持つものすべてで壁に立ち向かっていく。
「あ」
微かに開いた穴。それを目掛けてぶつかったり掻き分けたりしていく。
どんどん拡がっていく穴は、どうにか自分が通れるくらいのサイズまで拡がっていった。
「行くよ!」
そう言って彼の手を掴む。だが、彼は動こうとしなかった。
「いいよ、君だけでも行って!」
「ダメだよ、ずっと一緒だって言ったでしょ!」
「でも!もし2人乗って沈んでしまったら!」
「その時はその時だよ!死ぬ時は一緒だよ!!」
グッと彼の身体を引っ張る。そして、どぼん、と脱出艇に乗り込むと、壁はすぐに閉まった。
「どこに行くだろうね」
「さぁ、どこに行くんだろうね」
こぷこぷこぷこぷ……
薄れていく意識の中、最後まで彼の手を握り続けた。
「おぎゃあーおぎゃあー!」
「おぎゃー、おぎゃー!!」
「元気な双子の赤ちゃんですよ、おめでとうございます」
もう脚の感覚はない。だが、振り返れば未だに追いかけてくる謎の液体。これに触れることは死を意味していて、逃れるためにはただ走り続けるしかなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
息はとうに上がっている。汗も全身から噴き出していた。顔にかかる汗を拭う気力すらなく、ただ足を動かすことだけを必死で考える。
そもそもここはどこなのだ。そして、一体私は誰なのだ。
訳も分からないまま、ただ私は走り続けた。
周りにいた、ほとんど同じ顔。私と同じ迫り来る液体から逃れようとする者はみるみる数が減っていた。
液体に触れた者はどろりと姿を失くし、そこに確かに存在していた者はあっという間に消えていった。悲鳴が頭の中で木霊する。あの絶望的な顔が脳裏に浮かんで離れない。
「死にたくない……っ!」
ただその一心でひたすら走るが、そろそろ自分の限界も近づいてくる。
「あ」
ほんの一瞬だった。もつれた足が、上手く動かず身体が地面に沈む。顔を上げれば、液体がすぐそこまで迫っていた。
「あ、……っあぁぁ……っ!」
ふっと視界が黒くなる。そのまま私は意識を失っていた。
「……んっ、……あれ、私……」
「気がついた?」
私の顔を覗き込むように、同じ顔をした男がこちらをみていた。あまりの近さに、思わず「ひっ」と小さく悲鳴を上げてしまった。
「あぁ、ごめんごめん。驚かせるつもりはなかったんだ」
「ごめんなさい。あの、私……生きてるの?」
「うん、君は生きているよ」
生きている、という事実にホッと胸を撫で下ろす。安心したせいか、ドッと疲れが重くのしかかる。
「あの、ここがどこか知ってる?」
いきなり聞かれて困るかもしれないだろうけど、とにかくまずは情報が欲しかった。
「いや、僕も分からない。ただ、同じ顔をした人がたくさんいるのと、あの液体に触れてもある程度耐性がある人がいるということ。それと、この世界から脱出するには脱出艇に乗らないといけない、ということは知ってるよ」
まさかダメ元で聞いたのに、そんなにたくさんの情報が得られると思わず、萎えてた心が少しだけ上向く。
「すごい、そんなに知ってるだなんて……」
「僕も色々な人から聞いたんだ。ほとんどその人達もいなくなっちゃったけど」
「そう。……とにかく脱出艇に乗らなきゃなら、そこに行かなきゃだね」
(もしかしたら、脱出できるかもしれない)
そう思うと、自然と力が湧いてくる。我ながら単純だと思うが、希望さえあれば、それが原動力となって、折れかけた心を奮い立たせてくれた。
身体をゆっくりと起こす。自分に液体の耐性があって良かった、と安堵すると共に、次々といなくなっていった同じ顔の人々のことを思うと胸が痛む。
「変なことを聞いてもいい?」
「何だい?」
「私も……顔、同じなの?」
素朴な疑問だった。こうも皆一様に同じ顔をしているとなると、私もその顔なのか、と。自分では己の顔を見る術がないから、聞くしかなかった。
「あぁ、君もみんなとほとんど同じ顔をしてるよ。きっと僕もそうだろう?」
頷くと彼は苦笑する。
自分もやはり例外ではなく、彼らと同じ姿だというのはなんとなく想像はついていたが、ほぼ同じ顔の相手と話すというのは違和感を感じざるを得ない。
そもそも私は誰なのか、何なのか、ここはどこなのか、何でこんなところにいるのかなど分からないことだらけだ。
だが、ただ1つ言えることとすれば、それはただ「生きたい」ということのみだ。
「さぁ、ここも安全とは限らない。脱出艇は不安定でいつなくなるか分からないらしい。だから、急いで向かわないと」
「うん、急ごう」
果たしてこちらの道で合っているのかさえ分からないが、とにかく私は進むしかなかった。
彼が一体どんな人かは分からないけど、悪い人ではないと、なんとなくそう思う。
変わらない光景。ひたすら広がる赤やら桃色のつるつるとした弾力のある足元は、上手く動くことができずに余計に体力を使う。
だが、そこで文句を言っても仕方ないので、段差や坂道は足を滑らせないように気をつけながら注意深く進んでいく。
ごぷごぷごぷごぷ
聞きなれない音ともに目の前に現れるのは、自分の身の丈をゆうに超えた巨大な物体。見慣れないそれは、明らかに友好的とは思えない見た目だった。
「何、これ……」
「逃げろ……!!こいつに喰われるとマズい!!!」
口らしきものがパカっと開いたかと思うと、そのまま私達に突っ込んでくる。勢いがついたそれは、尋常じゃない速さでこちらを追いかけてくる。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ!!」
「っく、しつこい……っ」
いつのまにか巨大な物体はどんどん増え、こちらを追いかけてくる。迫ってくるそれを、緩急つけて走ることにより、何とかやり過ごす。
「きゃあああああ!」
悲鳴につられて視線を向けると、今まさに自分達同様、逃げていた人が飲み込まれる瞬間を見てしまって、思わず身体が強張る。
食べられる、というよりも最早喰われると言った表現の方が正しいと思えるほど、彼らは容赦なく足から頭から喰らっていった。
「うっ……っ」
「見ちゃダメだ!とにかく走るぞ。僕達も喰われたらひとたまりもない!!」
吐き気をもよおすのを、グッと抑えながら走り続ける。自然と涙が溢れる。
けれど、足を止めることもできず、ただ恐怖を抱えながら走り続けるしかなかった。
(どうしてこんな目に……!)
訳もわからずただ逃げ続けることに怒りを覚える。だが、どうすることもできない自分の無力さに怒りをぶつけることもできず、感情を持て余す。
怒りを原動力にして、私はただただ逃げ続けるしかなかった。
「はぁ、……っ、はぁ、……はぁ……っ」
ついた先は2手に別れた道。ここはどっちが正解なのか、それともどちらも正解ではないのか、わからないまま立ち尽くす。
「どうしよう……」
「怪物は今のところ撒いたようだけど、先を急がないと」
右か左かの2択である。
「どっちだと思う?」
「いっそ、2手に別れて行くかい?」
「そんな、ダメだよ。どっちかしか生き残れないだなんて」
究極の選択だ。どちらかは死ぬ、もしくはどちらも死ぬ。散々先程から目の当たりにしていた光景が自分にやってくるとなると、恐ろしくて仕方なかった。
再び恐怖で身体が震え出す。先程感じた希望は、簡単に崩れる。それほどまでに、恐怖が身体に蔓延って離れない。
「わかった。なら、僕を信じて。僕は右に行く」
「うん、信じる。だから、ずっと一緒だよ」
彼はそう言って手を繋ぐと、私を引っ張ってくれる。自然と彼と一緒なら大丈夫な気がした。根拠のない自信だけど、それでも少しだけ勇気が湧いた。
地面にへばりついてた足を、どうにか動かす。私にはただ動くしかなかった。……死なないために。
「な、にこれ……」
思わず絶句する。目の前に広がるのは大きな壁。悠然と聳え立つそれは、来るものを拒んでいた。
「私達、もう死ぬの……?」
ここまで来るのにだいぶ時間がかかってしまった。あとに戻るにも、通ってきたはずの道は既に閉ざされていた。
「まだだ、気をしっかり持って!この壁の向こうが脱出艇だ!壁を壊して先に進もう!」
「壁を壊す……?」
絶対的な存在感を示すこれを壊す?そんなことできるのだろうか。
「無理だよ。私にはできない!」
「ここが最後の関門だよ!君がやらないなら僕だけでもやる!!」
彼が手を離して、壁に勢いよくぶつかっていく。だが、全然びくともした様子がない。
(やっぱり無理なんだ、私死んじゃうんだ)
メソメソと涙が溢れる。何で私がこんな目に合わなくちゃならないんだ……!そう訴えたところで誰かが救ってくれるはずもない、絶望。
(あれ、段々と息が苦しく……)
息を切らしているわけでもないのに呼吸がしにくくなる。
つらい、苦しい。もう嫌だ、助けて!!
心で叫ぶが、もちろん誰も助けてくれない。彼に視線を向けると、必死な様子で壁と格闘している姿が目に映る。
(あんなことしたって無駄なのに)
段々と思考が鈍ってくる。
あぁ、私はこのまま死ぬのか。何もせずに、何にもしないまま。ただ、死ぬのか。
「……嫌だ!死にたくない!!」
子供のワガママのように大声を出すと、身体に力が漲って、ダッと走り出す。
(死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない……!!)
何も行動せずに、甘んじて死を受け入れるのは嫌だった。死ぬなら何か少しでも抗いたかった。
(何か行動して、それでも死んだなら仕方がないと言えるんだから、死ぬまで足掻けるなら足掻きたい!)
がむしゃらに壁に立ち向かう。どうすれば壊れるかなんてわからない。ただ自分が持つものすべてで壁に立ち向かっていく。
「あ」
微かに開いた穴。それを目掛けてぶつかったり掻き分けたりしていく。
どんどん拡がっていく穴は、どうにか自分が通れるくらいのサイズまで拡がっていった。
「行くよ!」
そう言って彼の手を掴む。だが、彼は動こうとしなかった。
「いいよ、君だけでも行って!」
「ダメだよ、ずっと一緒だって言ったでしょ!」
「でも!もし2人乗って沈んでしまったら!」
「その時はその時だよ!死ぬ時は一緒だよ!!」
グッと彼の身体を引っ張る。そして、どぼん、と脱出艇に乗り込むと、壁はすぐに閉まった。
「どこに行くだろうね」
「さぁ、どこに行くんだろうね」
こぷこぷこぷこぷ……
薄れていく意識の中、最後まで彼の手を握り続けた。
「おぎゃあーおぎゃあー!」
「おぎゃー、おぎゃー!!」
「元気な双子の赤ちゃんですよ、おめでとうございます」
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