95 / 95
第九十四話 エピローグ③
しおりを挟む
「とにかく、ここで話しても埒が明かないから家に来い!」
「やだっ! 離してってば!」
元カレが私の腕を引っ張り無理矢理連れて行かれそうになる。必死に抵抗するも、お腹を庇っているため上手く逃げ出せなかった。
恐い。恐い。恐い。恐い。
今まで味わったことのない恐怖。最強だったからこそ、こんなにも一方的にされるがままなことがなくて、どうしたらいいのかわからなかった。
「いい加減にしろっ!」
「……やだっ、ヴィル……っ!」
「うわっ!? あっちぃ!!」
ヴィルの名を呼ぶと突然元カレが私の腕を離し、慌てふためき始める。よく見るとお尻に火がついていた。訳がわからず混乱していると、何者かにギュッと抱きしめられる。
「オレの妻に何をする!」
顔を上げるとそこには額に汗を滲ませつつも凛々しい顔をしたヴィルがいた。
「あち、あちちち! は? 妻!?」
「貴様! 彼女は我が国の聖女。そして我がマルデリア王国王子、ヴィデルハルトの妻と知っての狼藉か!?」
「せ、聖女で、王子の妻……!? いや、オレは、えっと、その、勘違いというか」
「不審者として貴様を拘束する! グルー!」
「……不届者ニハ相応ノ罰ヲ与エネバナ」
「ひぃ!」
グルーが普段の大きさで魔物らしく凄むと、そのまま白目を剥いて意識を失う元カレ。それを「なんじゃ、情けないのう。ではちと近衛兵達のとこへ連れて行くとするか」と呆れながらグルーは元カレの首根っこを咥えてそのまま飛んで行った。
「無事か、シオン」
「ヴィル。ありがとう助かった」
ギュッとしがみつくと強く抱きしめられる。そこで初めて自分が震えていたことに気づいた。
「間に合ってよかった」
「ごめん、心配かけて」
「シオンが無事ならそれでいい」
上向くとそのまま唇が重なる。何度か重ねるとだんだんと気持ちも落ち着いてきた。
「でも、あんな手荒な真似して大丈夫だったの? あいつも一応国民なわけだし」
「ふんっ、シオンに手を出すやつは国民だろうがなんだろうが許すわけないだろ」
「そうなの?」
「そうだ。シオンはオレにとって大切な存在だからな」
「……ありがとう」
微笑むと再び何度も口づけられる。ヴィルは思ったより執着が強いらしい。
「こら、ヴィル。しすぎ」
「好きなんだからいいだろ」
「そうだけどさー」
「シオン。愛してる」
「私も」
愛されていると実感する。
愛してくれたのは、結婚、子供、家族とずっとずっと欲しかったものをくれて、こんなダメダメな私を守って諭してくれる人。
誰よりも私のことを大事にしてくれる人と結婚できて、私は最強で最高に幸せな聖女だ。
終
「やだっ! 離してってば!」
元カレが私の腕を引っ張り無理矢理連れて行かれそうになる。必死に抵抗するも、お腹を庇っているため上手く逃げ出せなかった。
恐い。恐い。恐い。恐い。
今まで味わったことのない恐怖。最強だったからこそ、こんなにも一方的にされるがままなことがなくて、どうしたらいいのかわからなかった。
「いい加減にしろっ!」
「……やだっ、ヴィル……っ!」
「うわっ!? あっちぃ!!」
ヴィルの名を呼ぶと突然元カレが私の腕を離し、慌てふためき始める。よく見るとお尻に火がついていた。訳がわからず混乱していると、何者かにギュッと抱きしめられる。
「オレの妻に何をする!」
顔を上げるとそこには額に汗を滲ませつつも凛々しい顔をしたヴィルがいた。
「あち、あちちち! は? 妻!?」
「貴様! 彼女は我が国の聖女。そして我がマルデリア王国王子、ヴィデルハルトの妻と知っての狼藉か!?」
「せ、聖女で、王子の妻……!? いや、オレは、えっと、その、勘違いというか」
「不審者として貴様を拘束する! グルー!」
「……不届者ニハ相応ノ罰ヲ与エネバナ」
「ひぃ!」
グルーが普段の大きさで魔物らしく凄むと、そのまま白目を剥いて意識を失う元カレ。それを「なんじゃ、情けないのう。ではちと近衛兵達のとこへ連れて行くとするか」と呆れながらグルーは元カレの首根っこを咥えてそのまま飛んで行った。
「無事か、シオン」
「ヴィル。ありがとう助かった」
ギュッとしがみつくと強く抱きしめられる。そこで初めて自分が震えていたことに気づいた。
「間に合ってよかった」
「ごめん、心配かけて」
「シオンが無事ならそれでいい」
上向くとそのまま唇が重なる。何度か重ねるとだんだんと気持ちも落ち着いてきた。
「でも、あんな手荒な真似して大丈夫だったの? あいつも一応国民なわけだし」
「ふんっ、シオンに手を出すやつは国民だろうがなんだろうが許すわけないだろ」
「そうなの?」
「そうだ。シオンはオレにとって大切な存在だからな」
「……ありがとう」
微笑むと再び何度も口づけられる。ヴィルは思ったより執着が強いらしい。
「こら、ヴィル。しすぎ」
「好きなんだからいいだろ」
「そうだけどさー」
「シオン。愛してる」
「私も」
愛されていると実感する。
愛してくれたのは、結婚、子供、家族とずっとずっと欲しかったものをくれて、こんなダメダメな私を守って諭してくれる人。
誰よりも私のことを大事にしてくれる人と結婚できて、私は最強で最高に幸せな聖女だ。
終
0
お気に入りに追加
90
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(7件)
あなたにおすすめの小説

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ダメンズ設定好きなので投票しました。
投票ありがとうございます〜!
労いのお言葉どうもありがとうございます!
そして面白いとおっしゃっていただけてとても嬉しいです!!
グルーが絶対面倒見させられること間違いなしですね笑
めっちゃ乗られたり悪戯されたりして、シオンとヴィルに助けてくれーって言ってそうw
どうぞどうぞ!
元カレはぜひ一発ぶん殴ってやってくだせぇ笑
感想どうもありがとうございます!
面白いとおっしゃっていただけてとても嬉しいです!!
ありがとうございます〜!
もう一度吹っ飛ばされるのがいいか、塀にぶち込まれるのがいいか笑
吹っ切れた二人はイチャイチャらぶらぶですが、若干シオンのほうは引き気味かもですねw
このまま末永く幸せに、楽しい家族パーティーで世界平和に貢献すると思います笑