上 下
94 / 95

第九十三話 エピローグ②

しおりを挟む
「でも出産に備えて程々に運動しとけって言われたのになー」

 程々にというから、ちょっとばかり魔物討伐(物理)しておこうと思ったのに。

 妊娠中は魔力が暴発する可能性があるらしく、魔法禁止令が出てるため、最近は専ら近所の村や街で加護を授けるばかり。そのせいか、身体が鈍ってしまっている。
 とはいえ他にやることもないし、どうしたものか。

「暇すぎてつまらないよねー?」

 お腹にいる我が子に尋ねると、ぐいーっと中からお腹を蹴られる。私の言葉ちゃんと聞いて理解してるの、凄い! と生まれてもないのに親バカになりながらも、仕方ないので王城に戻ることにした。

「ヴィルは疲れて帰ってくるだろうから、料理作って待っておこうかな。あとお風呂も沸かしておかないと。グルーには特別にブラッシングしてあげて……それから」

 そんなものメイドに頼めばいいじゃないか、とヴィルに言われることを想像しつつも、これくらいなら尽くすうちに入らないし、メイドの手を煩わせるのもなぁと考えながら歩いていると不意に見覚えのある顔が目に入る。

 あれは、えっと……

「シオン! あぁ、よかった! やっと見つけた!」
「え、何でここにいるの?」

 そこにいたのはかつての彼氏。ヴィルとの冒険の前に彼方へ転移させた元カレがそこにいた。

「聞いてくれよ、シオン! あのあと命からがら戻ってきたというのに彼女、浮気してたんだよ! 信じられるか!? お腹の子もオレの子じゃなかったんだ!」
「へーそうだったの。浮気したあんたも人のこと言えないけどね」
「酷いと思わないか!? だから、シオンとやり直そうと思ってずっと探してたんだ」
「いや、私もう結婚したし」
「は!? 嘘だろ!? シオンなんかが結婚できるわけがないだろ」
「いや、普通に失礼すぎるし。てか、このお腹。どう見ても赤ちゃんいるのわかるでしょ」

 どーんと張り出したお腹を突き出す。すると、元カレはあわあわとしたあと「あぁ! そういうことか!」と言い出した。

「オレの子か! そうだろう!?」
「はい?」
「隠さなくてもいいぜ。そうか、オレが彼女のとこに行ったから一人で産もうとしてたのか。悪かったな」
「いや、違うから」
「ずっと結婚したがってたもんな。でももう大丈夫だ! オレがパパとしてシオンと一緒になる」
「だから話聞いてってば」

 思い込みでどんどんとあらぬ方向に話が進んでいく。しかも腕を掴まれて、逃げるに逃げられなかった。

「もう安心しろ。オレがついてる」
「いやいやいやいや。もうとっくに別れたでしょ。そもそも貴方の子じゃないってば!」
「ま、まさかシオン。浮気してたのか!?」
「だから何でそうなるの! 別れてからどんだけ経ってると思ってるの!? というか、先にそっちが浮気したくせに、言いがかりつけるのやめて!」
「オレだけが好きだって言ってたのは嘘だったのか!?」

 あーダメだ。話が通じない。

 あまりに話が通じなさすぎて、魔物と話している気分になる。いや、ここまでだと魔物のほうがまだ話が通じる気がする。

 もう一回転移させる? でも、魔法使っちゃダメって言われてるし。いっそ拘束の魔道具で拘束したいけど、さすがに聖女で王子の妻が一般市民を無意味に拘束したら世間的にイメージ良くないよね。

 魔法もダメ。物理もダメ。

 ヴィルと結婚できて妊娠して嬉しい反面、今までに比べて行動が制限されてしまって歯痒い。今までだったらどうにかできたことでも、身分や体調のせいで思うように行動できなくて、自分の無力さに打ちのめされる。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...