ダメンズメーカー聖女 〜結婚したくて尽くしまくってたら最強の聖女になっちゃいました〜

鳥柄ささみ

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第八十一話 涙

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「こうしている間にもヴィルが……」

 気持ちはどんどん焦る一方。
 ヴィルがもし傷つけられていたら、ヴィルが死にかけてたら。時間が経てば経つほど悪いことばかりが頭に浮かんでくる。

「ヴィルが死んじゃったらどうしよう……」

 じわり、と視界が滲む。こんなこと初めてだ。
 今まで元カレから手酷くフラれても浮気されても裏切られても泣いたことなどなかったのに、ヴィルがいなくなったらと思うだけで胸が苦しくなる。

「嫌だ。ヴィルがいなくなるのなんて……っ、絶対に嫌だ。だから私は魔王に勝ってヴィルを助けないと……っ!!」

 例え力で負けていても、魔力で負けていても、何もしないままは嫌だった。

 私は決意を新たにすると、目元に溜まった涙を拭って立ち上がる。

「あー、もー、泣くなんて、私らしくもない! そもそも、普通は人質って女性がなるもんじゃないの!? 何で私が助ける設定なのよ! 勇者ならまだしも聖女が王子を救うだなんて聞いたことないんですけど!!」

 叫びながら不満を吐き出して悪い妄想を払拭する。そして同時に自分を鼓舞した。

「いいわよ、やってやろーじゃん! 人質って言うくらいだもの、きっとヴィルは生きてるはず! 私は最強の聖女なのだもの、魔王くらい倒してみせる!!」

 パチンと指を鳴らして傷だらけだった身体を治癒させ、ぶわっと風の魔法で一気に身体や服を乾かす。
 泉のおかげで魔力が満ち満ちていて、ちょっとやそっとでは減った感じがしなかった。

「というか、この泉……なんか懐かしい感じがするのよね。何でだろ」

 身に覚えはないのだが、やけにこの魔力は身体に馴染む気がする。
 さすがに一瞬で全快とまではいかなかったが、回復スピードが速く、もう魔力は満タンだ。

「おぉ、思ったよりも早く復活したようじゃな」
「グルー! おかげさまでね。てか、ここ随分とすごい泉ね! もう全快したんだけど」

 全快どころか加護まで付与されている。当分の間はちょっとした無敵状態だ。

「ここは聖女によって作られた泉だそうじゃよ。元々呪いによって毒沼だったところを彼女の力でこの魔力の泉に変換したらしい」
「へぇ、そうだったんだ。……どうりで」
「うん? 何か言ったか?」
「ううん、凄いなぁって言っただけ。てか、聖女ってそんな力もあるんだねー」
「お主も聖女を名乗るくらいならそれくらいできると思うがの。まぁ、よい。覚悟を決めたなら行くぞ」
「えぇ、もちろん! グルー、よろしく!!」
「しっかり掴まっておれよ」

 私がグルーに跨がると一気に急上昇される。あまりの高さに一瞬目が眩むも、その先にある時空の歪みを見つけて、身が引き締まった。

「こんなところに……」
「これなら人間に見つからない、というわけじゃ。ほれ、行くぞ!」
「うん、グルーよろしく!」

 私はグルーにしがみつくと、そのまま時空の歪みの中に飛び込んだ。
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