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第三十九話 元婚約者候補
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げっそりとするヴィル。
ちなみに、彼女は燃えた前髪をどうにかするべく自室へと走って戻ったらしい。
前髪を直す魔法なんてあったかなーなんて思いながら、とりあえずこのまま戻ってきても困るので、この部屋に入れないようパチンと指を鳴らして鍵掛けの魔法を施しておく。
「とりあえず、これでもう彼女は入ってこないと思う」
「すまない、助かる」
「一応本当に防衛魔法もかけておこうか? 接触すると痺れて動けなくなるくらいの簡単なものだけど」
「できれば。明日も同様のことが起こらないとは限らないからな」
ヴィルがぽつりと溢す。
その気持ちはわからなくもない。一方的な感情の押しつけほど嫌なものはないだろう。
特に抗えない相手というのはかなり厄介だ。王子だから何でもできるわけではないのはちょっと意外だったけど。
「てか、そもそもあのご令嬢誰なの?」
「彼女はシェリエンヌ・ヴィヴリタス男爵令嬢。俺の元婚約者候補だった女性だ」
「元、婚約者候補……なるほど」
ヴィルの話を要約すると、彼女は国内でも一、二を争うほどの資産家の令嬢らしい。
この都市マダシの交易の要である運河などを扱っている家だそうで、潤沢な資産に目の眩んだ王家の親類が一度縁談を結ぼうとしたそうだ。
けれど、どうしてもシェリエンヌの見た目から性格から全部が好きになれず。しかもあまりに彼女は国のことも自分の家の商いのことも知らなすぎて、王妃としての器として相応しくないとの報告も含めてヴィルは縁談を断ったらしい。
ヴィルに甘い国王はそれならば致し方ないと縁談をなかったことにしたらしいのだが、どうやらそう簡単には終われなかったというわけのようだ。
「シェリエンヌはなぜかオレに執着しててな。『見合った女性になればいいのですね!』と、困ったことに前向きに捉えているんだ。だから婚約は有効になってると思い込んでいるし、ヴィヴリタス家もそのような認識らしい」
「ということはつまり、ヴィルは婚約すらした覚えがないけど、あのご令嬢は自分のことを婚約者だと思っているし、現在は王家から課せられた王妃としての能力を身につけるための準備期間で婚約中だと思っていると」
「簡単に言うとそういうことだ」
「面倒なのに目をつけられたわね」
さすがに同情せざるを得ない状況に憐れむ。タイプじゃない人物から追われて執着されるなど、想像するだけでおぞましい。
かつて同様にタイプでもない思い込みの激しい男性からストーキングされたことがあるため、その気持ちは痛いほどわかった。
ちなみに、彼女は燃えた前髪をどうにかするべく自室へと走って戻ったらしい。
前髪を直す魔法なんてあったかなーなんて思いながら、とりあえずこのまま戻ってきても困るので、この部屋に入れないようパチンと指を鳴らして鍵掛けの魔法を施しておく。
「とりあえず、これでもう彼女は入ってこないと思う」
「すまない、助かる」
「一応本当に防衛魔法もかけておこうか? 接触すると痺れて動けなくなるくらいの簡単なものだけど」
「できれば。明日も同様のことが起こらないとは限らないからな」
ヴィルがぽつりと溢す。
その気持ちはわからなくもない。一方的な感情の押しつけほど嫌なものはないだろう。
特に抗えない相手というのはかなり厄介だ。王子だから何でもできるわけではないのはちょっと意外だったけど。
「てか、そもそもあのご令嬢誰なの?」
「彼女はシェリエンヌ・ヴィヴリタス男爵令嬢。俺の元婚約者候補だった女性だ」
「元、婚約者候補……なるほど」
ヴィルの話を要約すると、彼女は国内でも一、二を争うほどの資産家の令嬢らしい。
この都市マダシの交易の要である運河などを扱っている家だそうで、潤沢な資産に目の眩んだ王家の親類が一度縁談を結ぼうとしたそうだ。
けれど、どうしてもシェリエンヌの見た目から性格から全部が好きになれず。しかもあまりに彼女は国のことも自分の家の商いのことも知らなすぎて、王妃としての器として相応しくないとの報告も含めてヴィルは縁談を断ったらしい。
ヴィルに甘い国王はそれならば致し方ないと縁談をなかったことにしたらしいのだが、どうやらそう簡単には終われなかったというわけのようだ。
「シェリエンヌはなぜかオレに執着しててな。『見合った女性になればいいのですね!』と、困ったことに前向きに捉えているんだ。だから婚約は有効になってると思い込んでいるし、ヴィヴリタス家もそのような認識らしい」
「ということはつまり、ヴィルは婚約すらした覚えがないけど、あのご令嬢は自分のことを婚約者だと思っているし、現在は王家から課せられた王妃としての能力を身につけるための準備期間で婚約中だと思っていると」
「簡単に言うとそういうことだ」
「面倒なのに目をつけられたわね」
さすがに同情せざるを得ない状況に憐れむ。タイプじゃない人物から追われて執着されるなど、想像するだけでおぞましい。
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