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第三十八話 未遂

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「悪い。みっともないところを見せた」

 ヴィルはひとしきり泣いたあと、恥じ入りながら謝罪してきた。
 一応王子のプライドや男心にある程度理解があるつもりなので「大丈夫。見なかったことにするから気にしないで」と私が言えば、消え入るような声で「ありがとう。すまない」と答えるヴィル。
 服も乱れてシワが寄っていたのを綺麗に元に戻し、腫れぼったかった瞼は治癒魔法を施していつもの綺麗なヴィルに戻すと、彼はホッとしたような表情をした。

「で、どうしたの?」
「それが……何といえばいいのか。その……」

 なぜかもじもじとしてハッキリしないヴィル。言いにくいのはわかるが、短気な私は直球で「あのご令嬢に襲われたの?」と聞くと、ヴィルは一瞬面食らったような表情をして言葉を詰まらせ視線を泳がせたあと、静かに頷いた。

「夕食後にあてがわれた部屋で寝るということになったんだが、なぜか彼女がついてきて……一緒に寝ようと強引にベッドに押し倒されてしまって……」
「そのまま襲われた、と」
「あまりそこを強調しないでくれ。それに未遂だ。その、ふ、服を少し、脱がされかけただけで……」

 再び泣きそうな顔をするヴィルに「ごめん」と謝る。あまり思い出したくないらしい。
 力の差的にも相手は女性ではあるものの、あの恰幅の良さを考えると細身のヴィルなら遠慮もあって押し倒されてもおかしくないだろう。

「でもよく未遂で済んだわね」
「それは……咄嗟に火の魔法を出して彼女の前髪を焼いてしまって」
「なるほどね、それで未遂」

 いくら相手が女性とはいえ、意中ではない相手にベッドに押し倒されて服をひん剥かれたら、そりゃとっさに防衛魔法くらい出すのも無理はない。
 きっと私だったらコテンパンにして再起不能(物理)にする自信があるから、ヴィルの不可抗力はまだマシなほうだろう。
 とはいえ、ヴィルの力量的に力加減ができていないはずなので、がっつり焼いたのではないかと想像するとちょっと笑えた。

「悪い。それと、言い訳として聖女の加護で防衛魔法が働いたことにしてしまった」
「あはは、それくらい別にいいわよ。そのほうが辻褄が合うだろうし、なんだかんだで下手に手出しができない相手なんでしょ? 私はヘイトが向けられても別に困らないし。気にしないで」
「すまない」
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