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第二十二話 王子アピール

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「でも、そのわりには私には王子アピールするわよね」
「そ、れは……っ! ここまで王子という肩書きを無視する女は初めてだからな。文句も言いたくなる」
「いいじゃない。特別扱いしてほしくないんでしょ?」
「そうは言っても限度があるだろう!」
「えー、じゃあ王子王子ってかしずいたほうがいい?」

 もっと王子として扱えというけど短い付き合いとはいえ今更だし、接し方を変えるつもりはないが、どうしてもと言われるならやぶさかではないと提案する。
 そしてわざと上目遣いでヴィルの手をギュッと握りながら「ヴィル王子のために、私……頑張ります……っ」と言うと、ヴィルが急に黙り込む。
 その後、逡巡しているのかフリーズしたあと、突然カッと顔を赤らめて「やっぱりいい!」と断られてしまった。

 一体どんな想像をしたんだ。

「なんか、えっちなこと想像したんでしょ」
「違う! シオンに関係ないっ」
「でもいきなりその反応ってなんか怪しい」

 私が面白半分にヴィルに近づくと、たじろぎながら後退りされる。そんなに動揺するだなんて、そんなに言えないようなことを妄想していたのか? と興味をそそられて、ずずいと顔を近づけると、ヴィルは耳まで真っ赤に染めていた。

「く、来るな! もう寝る!!」
「王子、添い寝しましょうか? それとも膝枕でもしましょうか? 子守唄歌います? おやすみのキスは?」
「結構だ!」

 ふんっと鼻息荒く、がばりと勢いよく布団の中に潜りこんでしまうヴィル。

 やばい、またからかいすぎたかもしれない。
 ヴィルの反応面白いからついからかっちゃうんだよなぁ。

 先日自重しようと思ったばかりなのに、ついヴィルの反応が可愛くてからかってしまう。なんていうか、母性本能がくすぐられるのだ。

「私ももう寝よ。明日は早起きして行くからね。おやすみ、ヴィル」
「……おやすみ」

 不機嫌さは隠しきれていないが、それでも返事をしてくれるヴィル。相変わらず律儀だ。こういうタイプの男性と接する機会があまりなかったからか、元カレ達がいかに自分本位な人達だったかと思い知らされる。

 男を見る目を養わなきゃなぁ。

 そんなことを漠然と思いながら目を閉じる。
 明日はいよいよ魔物の討伐だ。あまり夜更かししては体力だけでなく美容の上でもよろしくないと、自らに回復量アップの加護のバフをかける。ついでにヴィルにも。

 凶悪な魔物、一体どんな魔物だろうか。

 人間を食べるくらいだからまぁまぁの大きさあるだろうし、さすがに父さんを食べた邪竜ってことはないだろうけど、もしそうだったら私が仇を討たないとな。

 もしも父の仇の邪竜なら、その魔物を完膚なきまでに打ちのめしてやることを心の中で誓う。
 そして、疲労した心身はあっという間に睡魔によって覆い尽くされ、私はそのまま夢の世界へと旅立っていった。
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