上 下
8 / 95

第八話 不敬

しおりを挟む
「シオン殿ーーーー!!」

 私の叫びに呼応するように大臣が叫ぶ。

 不敬だろうがなんだろうが、嫌なものは嫌だ。無理なものは無理なんだからしょうがないっ!!

「なぜだ。なぜダメなのか!? キミは男好きじゃないのか!? こんな、誰もが羨むほどのイケメンな息子と一緒に旅ができるのだぞ!?」
「陛下! 言い方!! もう少し婉曲に……!」
「いや、王子は確かにイケメンですけど。好みじゃないんで」
「シオン殿ーーーー!!!」

 大臣が叫びまくっている。
 ツッコミすぎてゼェゼェハァハァと身体で息しているくらい大臣は全力で叫んでいた。

「我が息子がタイプじゃない……だと……!?」
「陛下! ショック受けるのそこではありませぬ! いや、確かにそこもショックではあると思いますが!」
「いや、誰が見ても納得のイケメンだとは思いますけど、あくまで目の保養的な立ち位置で、好きになれるタイプかと聞かれたら……うーん……?」
「キミは随分と上から目線だなぁ! というか、キミが話してる相手は陛下! 目の前にいるのキミが住んでる国の王様だからね!? それと勝手にタイプじゃないとか言ってるけど、相手王子だからね!」

 大臣のツッコミがだんだん雑になってきている。

「ということで無理です」
「そんな……! あぁ、なんということだ。であれば、仕方ない。キャリーには再び聖女として……」
「いや、さすがにそれは可哀想なので引退させてください」
「だったらキミが!」
「それも無理です」

 さすがに八十のおばあちゃんには引退してもらいたいとは思うが、いくら王様の頼みと言えども無理なものは無理である。
 もし国を追放されるというのならそれはそれで甘んじて受けるしかない。
 白夜光には思い入れも強く、ギルドメンバーには申し訳ないが、ここだけは譲れない。

「そもそもなぜ無理なのだ。理由は? どうしたらキミは我が国の聖女になってくれるのだ?」
「私は結婚がしたいんです!」
「「「…………は?」」」

 国王と王子、大臣がみんな口をあんぐりとさせていた。まさか、そんな理由で? といった様子だ。

「私にとっては由々しき問題なんです! 私は結婚して家族が欲しいんです!! だから、聖女にはなれません!!!!」

 私が思いの丈を叫ぶと、シンと静まり返る謁見の間。その沈黙を破ったのは国王だった。

「であれば、特別に……ヴィルとの結婚を許可しよう!」
「ちょ、父さん!?」
「陛下!?」
「本来聖女は国との結びつきの関係上、誰とも結婚できない習わしであるが、王家の者であれば問題ないはずだ。それでどうだろうか?」
「えーっと、それはちょっと……私にも選ぶ権利があるというか……」
「シオン殿ーー! 今それ言いますか!? それと王子の気持ちも考えてあげてくだされ!!」

 今更本音を隠したところでしょうがないと素直に気持ちを吐露すれば、大臣が真っ青な顔で叫ぶ。
 そして同時に遠くで微かに「オレ、何もしてないのに勝手にフラれたことになってるんだが」とショックを受ける王子の声も聞こえてきた。

「ならば、どうすればいいのだ……! 我が国の今後のためにも聖女が必要だというのに!」
「それを私に言われましても……」
「仕方あるまい。今すぐ大司教を呼んでくれ! 彼に代案を出させよう! もしくは彼女の説得をさせよう!! 大臣!」
「承知致しました、陛下。みなの者、大司教をただちに呼んで参れ!」
「はっ!!」

 大臣が指示を出すと、大司教を呼ぶために慌ただしく出て行く騎士達。それを他人事のように見つめる。

 今更、大司教とか言う人に説得されてもねぇ……。無理なものは無理だし、気持ちは変わるわけがないわ。
 というか、大司教ってことは、私を聖女に推挙した人物ってことよね。こうなったのも全て大司教のせいじゃない……!
 大司教が来たらすぐにでも文句言って、私以外の代わりを誰か見繕ってもらおう。どうせ大袈裟に言って都合良く私を聖女に仕立てあげようとしてるだけだろうし。

 まだ見ぬ大司教に怒りを抱きつつ、どうにかこの状況を脱するにはどうすればいいかと考えていると、背後からバタバタと慌ただしい音が聞こえる。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜

蒼井美紗
ファンタジー
孤児院で代わり映えのない毎日を過ごしていたレイラの下に、突如飛び込んできたのが精霊であるフェリスだった。人間は精霊を見ることも話すこともできないのに、レイラには何故かフェリスのことが見え、二人はすぐに意気投合して仲良くなる。 レイラが働く薬屋の店主、ヴァレリアにもフェリスのことは秘密にしていたが、レイラの危機にフェリスが力を行使したことでその存在がバレてしまい…… 精霊が見えるという特殊能力を持った少女と、そんなレイラのことが大好きなちょっと訳あり迷子の精霊が送る、薬屋での異世界お仕事ファンタジーです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

悪役令嬢にならないための指南書

ムササビ
ファンタジー
ウェスペル公爵家の四姉妹が閉ざされた図書館で手に入れたのは、ご先祖さまからの『悪役令嬢にならないための指南書』。王太子と婚約をしたばかりの三女・リーリウムは、ご先祖様の経験に基づいて書かれた指南書を疑いつつも実践していく。不思議な指南書に導かれながら、四姉妹がそれぞれの幸せのために奮闘する物語。 ※不定期連載です。週2、3回は更新したいなと思っています

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...