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71 呼び方
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「大丈夫にゃ?」
猫又が心配そうに覗き込んでくる。
視界が途切れるほど、だいぶ離れたところまで走ってきたが、駆けたことによる息切れだけでなく、どうにもわだかまりが自分の中でモヤモヤと思いしこりのように残っていた。
……モヤモヤして、気持ち悪い。
だが、俺が大嶽丸を倒せばこの全てがなかったことにできるのだと思うと、やはり俺は頑張らねばならないのだと思う。
すん、と無意識に鼻をすすればツンと奥で痛みが走る。
いつの間にか、もらい泣きをしてたようで、薄らと視界が滲むのを、グッと手の甲で拭った。
……深青を取り戻す。
そして、負の連鎖を断ち切る。
深青だけでなく、ねーちゃんも。
「大丈夫。急に走ってごめん。そういえば、聞きそびれてたけど、猫又のこと俺なんて呼べばいいの? さすがに外で猫又って呼ぶのも変だよね」
うっかりその辺を確認するのを忘れてたことを思い出す。
神原さんは転校生としての手続きは済ませている、と言っていたからさすがに「猫又」という名前ではないと思うのだが。
「あちきは猫田真奈という名前を司っちにもらったにゃ。ちなみに、間違えて猫又って呼んでもあだ名ってことでノープロブレム、って司っちが言ってたにゃ!」
ふふん、と胸を張って言い張る猫又。
確かに、その名前ならあだ名で押し通せる気がする。
神原さんが自分が考えるよりも先の先回りしていることが凄すぎて、畏怖すら覚えるほどだ。
よくあんな人がねーちゃんと付き合ってるなぁ、とも思うが、一体どういう出会いやらきっかけがあったのかとちょっと気になる。
「そかそか、わかった。じゃあ、俺は猫又って変わらず呼ぶことにする」
「それでいいにゃ! あちきはこうやって自由にしてるけど、キョウのことはしっかり守るからそのつもりでいるにゃ!」
「キョウ? もしかして、キョウって俺のこと?」
「キオって言いにくいにゃ。だからキョウにゃ! 苗字とも合っててちょうどいいにゃ!」
「あ、あぁ、苗字。なるほど」
「希生ーーーーーー!!」
そんなことを話していると、思いきり後ろから衝撃が来る。
新手の襲撃か!? と思えば、そこにいたのは輝だった。
「輝、どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも……っ! 体調大丈夫なのかよ!? 入院したって聞いたぞ! 見舞い行こうにも親戚のいる遠方でってはぐらかされて行けなかったし、電波届かないって連絡もつかないしで心配したんだぞ!!」
「あ、うん、ごめん。ちょっと検査もかねて入院してたんだ。今はもう元気だよ! 心配かけてごめんな」
まさか輝がここまで自分の心配をしてくれたとは思わず、勝手ながら嬉しくなる。
こうして気にかけてくれる存在というのはとてもありがたかった。
「本当心配させやがって! でも無事で良かった。……てか、そっちの可愛い子誰だよ? 彼女か?」
相変わらずの目敏さで、猫又をじろじろと見る輝。
「あちきは、いそーろーの猫田真奈にゃ! キョウの家で下宿中なのにゃ! よろしくお願いするにゃ!!」
「にゃに、猫ちゃん系? かわいーねー!! 俺、羽生田輝! よろしくね!!」
「おいおい、輝。またそんなこと言ってたら水戸さんに怒られるぞ」
「……俺、杏ちゃんとはもう別れたんだ」
今なんて……?
と自分で聞いた言葉が信じられなくて、頭の中で何度もオウム返しする。
そして、何度も言い聞かせるように脳内でぐるぐるとその言葉を咀嚼してからやっと認識した。
「は……え!? 何で!??」
「知らないよー。急に……俺とはもう無理って……っ」
先程までの明るいテンションはどこへやら。
途端に目元を滲ませる輝。
言われてみれば、いつもそれなりにはきちんと着れている制服もどこかよれよれで、髪はグシャグシャ、の酷いありさまだった。
てか、明らかにみんなのテンションがおかしいし、何かしらの因果関係があるのかもしれない。
でなければ、いきなり別れると言われないだろう、多分。
いよいよ今までの不貞もどきに愛想を尽かされたという可能性もなくはないが、そこはあえて考えないようにする。
「とにかく学校で話聞くわ」
「希生~! 俺にはもう希生しかいない~!!」
「はいはい、わかったから。とにかくシャンとしろ。服よれよれだし、寝癖も酷いぞ」
「うー……。いつもは杏ちゃんが迎えに来て、世話してくれたから……」
「それはそれでダメだろ。とりあえず行くぞ」
あまりにもダメンズすぎて愛想つかされた可能性がさらに上がったが、とにもかくにもまずは話を聞かねばと輝の身なりを整え、学校へと急ぐのだった。
猫又が心配そうに覗き込んでくる。
視界が途切れるほど、だいぶ離れたところまで走ってきたが、駆けたことによる息切れだけでなく、どうにもわだかまりが自分の中でモヤモヤと思いしこりのように残っていた。
……モヤモヤして、気持ち悪い。
だが、俺が大嶽丸を倒せばこの全てがなかったことにできるのだと思うと、やはり俺は頑張らねばならないのだと思う。
すん、と無意識に鼻をすすればツンと奥で痛みが走る。
いつの間にか、もらい泣きをしてたようで、薄らと視界が滲むのを、グッと手の甲で拭った。
……深青を取り戻す。
そして、負の連鎖を断ち切る。
深青だけでなく、ねーちゃんも。
「大丈夫。急に走ってごめん。そういえば、聞きそびれてたけど、猫又のこと俺なんて呼べばいいの? さすがに外で猫又って呼ぶのも変だよね」
うっかりその辺を確認するのを忘れてたことを思い出す。
神原さんは転校生としての手続きは済ませている、と言っていたからさすがに「猫又」という名前ではないと思うのだが。
「あちきは猫田真奈という名前を司っちにもらったにゃ。ちなみに、間違えて猫又って呼んでもあだ名ってことでノープロブレム、って司っちが言ってたにゃ!」
ふふん、と胸を張って言い張る猫又。
確かに、その名前ならあだ名で押し通せる気がする。
神原さんが自分が考えるよりも先の先回りしていることが凄すぎて、畏怖すら覚えるほどだ。
よくあんな人がねーちゃんと付き合ってるなぁ、とも思うが、一体どういう出会いやらきっかけがあったのかとちょっと気になる。
「そかそか、わかった。じゃあ、俺は猫又って変わらず呼ぶことにする」
「それでいいにゃ! あちきはこうやって自由にしてるけど、キョウのことはしっかり守るからそのつもりでいるにゃ!」
「キョウ? もしかして、キョウって俺のこと?」
「キオって言いにくいにゃ。だからキョウにゃ! 苗字とも合っててちょうどいいにゃ!」
「あ、あぁ、苗字。なるほど」
「希生ーーーーーー!!」
そんなことを話していると、思いきり後ろから衝撃が来る。
新手の襲撃か!? と思えば、そこにいたのは輝だった。
「輝、どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも……っ! 体調大丈夫なのかよ!? 入院したって聞いたぞ! 見舞い行こうにも親戚のいる遠方でってはぐらかされて行けなかったし、電波届かないって連絡もつかないしで心配したんだぞ!!」
「あ、うん、ごめん。ちょっと検査もかねて入院してたんだ。今はもう元気だよ! 心配かけてごめんな」
まさか輝がここまで自分の心配をしてくれたとは思わず、勝手ながら嬉しくなる。
こうして気にかけてくれる存在というのはとてもありがたかった。
「本当心配させやがって! でも無事で良かった。……てか、そっちの可愛い子誰だよ? 彼女か?」
相変わらずの目敏さで、猫又をじろじろと見る輝。
「あちきは、いそーろーの猫田真奈にゃ! キョウの家で下宿中なのにゃ! よろしくお願いするにゃ!!」
「にゃに、猫ちゃん系? かわいーねー!! 俺、羽生田輝! よろしくね!!」
「おいおい、輝。またそんなこと言ってたら水戸さんに怒られるぞ」
「……俺、杏ちゃんとはもう別れたんだ」
今なんて……?
と自分で聞いた言葉が信じられなくて、頭の中で何度もオウム返しする。
そして、何度も言い聞かせるように脳内でぐるぐるとその言葉を咀嚼してからやっと認識した。
「は……え!? 何で!??」
「知らないよー。急に……俺とはもう無理って……っ」
先程までの明るいテンションはどこへやら。
途端に目元を滲ませる輝。
言われてみれば、いつもそれなりにはきちんと着れている制服もどこかよれよれで、髪はグシャグシャ、の酷いありさまだった。
てか、明らかにみんなのテンションがおかしいし、何かしらの因果関係があるのかもしれない。
でなければ、いきなり別れると言われないだろう、多分。
いよいよ今までの不貞もどきに愛想を尽かされたという可能性もなくはないが、そこはあえて考えないようにする。
「とにかく学校で話聞くわ」
「希生~! 俺にはもう希生しかいない~!!」
「はいはい、わかったから。とにかくシャンとしろ。服よれよれだし、寝癖も酷いぞ」
「うー……。いつもは杏ちゃんが迎えに来て、世話してくれたから……」
「それはそれでダメだろ。とりあえず行くぞ」
あまりにもダメンズすぎて愛想つかされた可能性がさらに上がったが、とにもかくにもまずは話を聞かねばと輝の身なりを整え、学校へと急ぐのだった。
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