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56 目覚め

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「……ん、……っここ、は。……俺、あれ……何して……っ」

 ふ、と意識が戻る。
 視界に入ってきたのは高い天井。
 立派な和室なのだろうか、大きな梁があるのをぼんやりと眺めていたら「希生!!」と大きな声で呼ばれてゆっくりとそちらを向いた。

「式神、さん……?」
「あぁあぁ、よかった! 無事で、よかった……っ!!」

 わぁわぁ、とまるで子供のように俺にしがみついて泣き始める式神さん。
 今まで見たこともない姿に戸惑う。

「こらこら、起きたばかりの彼にしがみつくんじゃない」
「……ご、ごめんなさい」

 式神さんの首根っこを引っ掴んで、俺から離す神原さん。
 なんだか手慣れているというか、式神さんの扱いに長けているというか、2人の距離感がとても親しいものに感じた。

「身体は大丈夫かい?」
「あ、はい。大丈夫です。……っつ」
「あぁ、無理に起きなくてもいいよ。だいぶ出血が酷かったし、なかなか治すのにも時間がかかってしまったからね」
「時間がかかった?」
「そう。あの時からもうかれこれ1週間は経ってるよ」
「1週間!?」

 まさかそんなに長く意識を失っていただなんて自分でもびっくりだった。
 それなら式神さんの取り乱しようもわからないではない気もする。

「そう、1週間。でもキミの中では時間軸はどうであれ、色々あったんじゃないかな?」
「な、何でそれを……」
「キミの腹に刺さった大嶽丸の腕が悪さをしていたのはわかっていたからね。幻術などもヤツは得意としているから、キミが無事に現世に戻ってこれてよかったよ」

 言われて、なるほど、先程まで見ていた夢はヤツの仕業だったのかと合点がいった。
 もし、あのまま深青に化けたヤツにいざなわれるがままに命を捨てていたら、もう俺は死んでいたのだろう。

 もしあそこで深青が助けてくれなかったらきっと……。

「あの、深青は……」

 俺が聞きたそうにしているのを悟ったのか、神原さんがぽんぽんと俺の頭を叩いてくる。
 それはまるで落ち着け、と諭しているようだった。

「さて、色々と話す前にとりあえず体力をつけよう。食事は食べられそうかな?」
「えっと……多分」

 そういえば俺、大嶽丸に腹に風穴を開けられていたんだった、と腹部を見ると綺麗に閉じられていた。
 しかも多少皮膚がよれているものの、縫った形跡もない。
 1週間で完治できるような傷ではなかったはずだが、一体どうなっているのだろうか。

「あぁ、お腹の治療は済んでいるよ。僕はこう見えても医術も得意としててね。さすがに完璧に元通り、ってわけにはいかないが、それなりには処置させてもらってるよ」
「あ、ありがとうございます」

 医術、ってこれも霊力でどうにかしているのだとしたら凄いな、と自分の身体を見下ろしながらしみじみと思う。
 そもそも、あの一戦では神原さんの一矢で毱じいを倒した辺り凄い力を持っているのだろう。
 大嶽丸も神原さんが来てから焦っていたように思うし。

「聞きたいことは山ほどあるだろうが、とりあえず食事にしよう。……紡もいいかい? 泣き止んだ?」
「もうとっくに泣き止んでるわよ」
「……え、紡? って、ねーちゃん?」

 神原さんが式神さんに向かって紡と呼んでいることに違和感を感じて訊ねるが、「その辺もちょっと複雑でね。食事のあとに色々と教えるから」とかわされてしまう。

「では僕は先に食事の支度をしてくるよ。あぁ、さすがに寝たきりだったし久々の食事だから精進料理にはなってしまうけど、それは我慢してね」
「え、あ、はい。すみません、ありがとうございます」

 頭を下げれば、ニコニコとしながら神原さんは部屋を出ていってしまう。
 残されたのは俺と、式神さんだけだった。
 変な沈黙が流れる。
 こんなことは初めてで、正直何から切り出せばいいかわからなかった。

「あの、式神さん。いや、ねーちゃんって言ったほうがいいのか?」
「そこは、任せるわ。……私は紡であり、鈴鹿だから」
「それは、一体どういう……?」
「あとで詳しくって司が言っていたでしょう? だから詳しいことは食事のあとで。順序立ててちゃんと説明するから、いい?」
「あ、……うん。わかった……」

 情報量が多すぎて訳がわからない。
 だが、身近にいた式神さんがまさかねーちゃんだったとは、と思いつつも何となく納得している自分もいて、なんだか不思議な気分だった。
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