上 下
47 / 74

47 感触

しおりを挟む
 柔らかい。
 てか、初めての感触。
 しっとりとしてて、なんだか甘くて気持ちいい。
 あと、案外レモンの味とかはしないんだな。
 そして、ドキドキしすぎて口から心臓飛び出そう。
 と意外に冷静に考えるも、そもそもこんなことをぐるぐると考えている時点で冷静ではないことに気づく。
 ちゅっちゅ、と経験値が低いがゆえにキスの方法がわからず大したことはできないが、とにかく感触を味わう。
 昨日はあまりにテンパりすぎて、気づかなかったが、天音の唇って柔らかいんだな……としみじみ思いながらも、ゆっくりと離す。
 正直、もっとこう感触やらドキドキ感やらを味わいたくて唇を離すのが名残惜しかったが、これから遠足だし、登山である。
 さすがに今ここでイチャイチャし始めるわけにもいかない。
 あー、何でこのタイミングで恋人同士に、とも思うが、元を正せば自分の鈍感さが招いた自業自得なので、仕方がない。
 てか、そろそろ俺の分身が首をもたげかけているから色々とヤバい気もする。
 本当はずっとギュッとしていたかったが、少しだけ身体を離して、いっぱいいっぱいな部分を隠し、精一杯余裕ぶって見せてみた。

「……あー、行かなきゃな」
「……うん、そうだね」

 お互いぎこちなく会話する。
 けれど、天音は俺の腕を組み、身体を密着させたまま離れることはなかった。

「学校まで、こうしてていい?」
「あー……いいけど」

 内心、嬉しくてガッツポーズしたいところだが、そんな無様な姿を見せるわけにもいかないから努めて平静を装う。
 お互いの体温を感じながら、恋人っていいな、天音が好きすぎてヤバいなと思いつつ、彼女とくっつきながら学校へと向かうのだった。


 ◇


「お、希生と天音ちゃん、とうとう付き合い始めたのか?」
「やーん、ミオ! おめでとーーーー!!」
「ミオちゃん、よかったねぇ!!」

 こいつら、目敏すぎるな。
 俺らの雰囲気を察した3人のテンションが物凄く高い。
 一応校門前で、さすがにくっついてるのを見られるのは恥ずかしいよな、とお互いそっと離れたのだが、どうにも微妙な距離感に気づいたらしい3人は口々にお祝いの言葉を言ってくる。
 正直、登校早々に冷やかされるとめちゃくちゃ気まずい。
 なんか、周りからも視線を……いや、むしろ殺気をヒシヒシと感じる。

「あ、ありがとう……」
「目敏すぎるだろう、お前ら」
「いやいやいやいやー、そりゃあねぇー。ずっと2人の成り行きを見ていたわけですし?」
「そうそう。ずっとミオは京極くんの話ばっかりだし」
「本当、落ち着くべきところに落ち着いたって感じで私も嬉しい」

 なんかここまで言われると、俺鈍感通り越してアホだったんではなかろうか。
 そこまでみんなが気づくほど、天音の態度はあからさまだったのだろうか。
 それなのに、真島とのこと勘違いしてる俺って情けさすぎる。

「ってことで、じゃあ今日はバス席は恋人なりたてのお2人がお隣でね」
「お、いいねー! あ、じゃあカナちゃんとマチちゃんのとこお邪魔しよっかなー!!」
「あ、それはダメ。杏子ちゃんから釘刺されてるから」
「そ、そんなぁ……っ!!」

 すかさず女の子の間に割り込もうとする輝はある意味さすがだが、彼女である水戸さんは水戸さんで先に根回ししていたらしいとこはさすがである。
 この2人はどうやっても水戸さんのほうが一枚上手のようだ。
 そして、輝の背後に忍び寄る影と憤怒のオーラに、思わず顔が固まる。

「ふふふ、隙あらば何しようとしてるのかな? 輝くん」
「はっ! 杏ちゃん……っ!」
「個人的指導が必要かな?」
「めめめめ滅相もござい、あーーーーーー……っ!!」

 朝からお馴染みのカップルコントを披露し、連行されていく輝。
 相変わらず、騒々しいやつだな、と思いながらも、彼の無事をこっそり祈るのだった。
しおりを挟む

処理中です...