上 下
45 / 74

45 恋バナ

しおりを挟む
「見ちゃいましたよ~」
「うぉ! 式神さん、いつのまに!!」

 家に入れば、後ろからニヤニヤ顔をした式神さんから声をかけられ、思わず飛び上がる。

「用事はもう済んだの?」
「えぇ、はい。ちゃちゃっと済ませて参りました。で、それはいいんです。天音様とはご関係が進んだのでは……?」

 やけにニヤニヤしながらじろじろと人を見てくる式神さん。
 あからさまに、からかおうとしているのが見てわかった。
 とりあえず、「俺、風呂入るから」と色々と聞きたそうにしている式神さんを放って入浴する。
 どうせ出たらすぐ寝ればいいや、と湯船に浸かっていたのだが。

「……待ってたの?」

 風呂上がり、脱衣所を出ればすぐさま満面の笑みの式神さんがそこに立っていた。

「そりゃあ、希生様のお祝いですし? 色々とお聞きせねばなりませんからね。ふふふ、やっと天音様の恋が成就して私としては万々歳ですが」
「え、何? 式神さん、わかってたの?」
「そりゃあもう。天音様は昔から気持ちがあけすけでしたから。ちょっと前までは、私の……じゃなくて、色々と立て込んでることがあって距離を置かれておられましたが、最近の天音様のモーションのかけようは見てて……」
「待って待って。マジで言ってんの……?」

 そんなに周りから見てわかるような感じだったのか?
 確かに輝も真島も俺達が好意を持ってる前提で話をしてたし、周りからも俺が敵視されていたし……。
 全然気づかなかった俺は一体なんなんだ。

「……え? まさか自覚なかったんですか? 恥ずかしくてわざと言ってたのではなく?」
「え、そこまで引かれるレベルなの?」

 嘘でしょ、とでも言いたげな瞳で見つめてくる式神さん。
 てか、こういうときの式神さんってやたらとキャラ変してる気がするのだが、気のせいだろうか。

「てか、明日早いんだし、もう寝るからね」
「はいはい。おやすみくださいませ。明日は寝坊できないですからね。恋人としての初日なんですから!」
「そうか、ってあれ? 俺達って恋人なのか……?」
「は、はぁぁぁあああああ!??」
「ちょ、式神さん、恐い……」

 眉間に皺を寄せた式神さんが間近でガン飛ばしてくるんだが、美人だからこそなのか、非常に恐い。

「ちょっと、何言っちゃってんの? あんた、付き合うとか言ってないわけ!??」
「式神さん、ガチでキャラ変わってる」
「あ、失敬。……とにかく、明日ちゃんと交際宣言してくださいよ。わかりました?」
「わかったよ、わかった! 本当、もう寝るからね!」
「えぇ、特別にちょっと体力回復しますから、明日は早起きして天音様よりも先に玄関に出迎えるんですからね!!」

 式神さんの気迫にやられ、思わず頷くとそのまま姿を消す式神さん。
 なんかやたらと俺と天音のことに関しては首を突っ込んでくるが、そういう色恋沙汰が好きなのだろうか。

「まぁ、式神さんだって女性だし、そういうのに興味あるんだろうなぁ」
「……今、何か言いました?」
「うぎゃ! もうびっくりさせないで! 寝るから! もう寝るから!!」

 不用意な発言をしてしまった自分を内心諌めつつ、まだ先程の件で興奮が冷めやらぬ状態だが、とりあえず寝るように努めるのだった。


 ◇


 ーー連続強姦事件で指名手配中だった男が逮捕されました。逮捕当時、男は警察署の前で全裸でボロボロの状態で倒れており、また前後の記憶をなくしていたため、警察の調べでは酒に酔っていて記憶をなくしたとみています。そして、男は……

 テレビで、この辺りで強姦魔が捕まったというニュースが流れているのを流し見しながら身なりを整える。
 式神さんもいつになく無表情でテレビを見ると、俺がテレビを観ていることに気づいたのか、すぐさまテレビを消し、俺のほうに向き直った。

「では、いってらっしゃいませ」
「うん、行ってくる」
「あ、お待ちください。これを」
「ん? あの例の四角いパッケージのやつはいらないよ」

 釘を刺しながらもらえば、そこには先日もらった人型よりも立派な型紙で作られた人型があった。
 ところどころ箔押しされているのか、キラキラと光って見える。
 何か文字のようなものも書いてある気もするが、読めそうにもなかった。

「普段よりも距離がありますから、強力なものを用意させていただきました。お守りがわりに持って行ってください」
「うん、わかった。じゃあ、いってくる」
「ちゃんと交際宣言と、天音様の手を握って離さないんですよ!」
「もう、わかったから。そういうの言わないで。とにかく、いってきます!」
しおりを挟む

処理中です...