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43 ホットミルク
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「ここに着替えとタオル置いておくから。あ、下着があったほうがいいよな。ちょっと買ってくるわ。多分コンビニにも売ってるだろうし。色とか柄とかは選べないだろうけど、俺なるべく見ないように買うから……その……」
「うん、ありがとう……。色々と、ごめんね」
「いいから、気にすんな。あぁ、あとシャンプーとかトリートメントとかあるやつ適当に使っていいから。あ、ねーちゃんがもらってる試供品とか確か、ここに……」
「ふふ、そこまで気にしなくていいよ。ありがとう、きーくん。入ってくるね」
「あぁ、おう。もし俺がいなかったら、買い出し行ってるだけだから。すぐ戻るから」
「うん、わかった」
浴室に天音が入ったことを確認すると、そのままリビングへ向かう。
すると、すぐさま目の前に式神さんが姿を現した。
だが、その表情はとても険しいものだった。
「一体、何があったのですか」
「……天音が、暴漢に襲われて……」
「! 相手は?」
まるで自分のことのように、苦虫を噛み潰したような表情をする式神さん。
霊力が沸々と滾っているのがわかるほどで、今までになく相当に怒っていることがわかる。
「わからねぇ。ただ、黒ずくめで中年のおっさんで、俺が脇腹に木刀当てたから骨は折れてるかも」
あのとき、とどめを……とも思ったが、確かにあの時の俺は頭に血が昇りすぎていて、状況や天音のことを考えていなかった。
天音のことだ、俺がもし殺人をしてしまったらきっと自分を怨むのだろう。……彼女はそういう子である。
だから、そんな想いはさせたくなかった。
「なるほど、承知致しました。私、少々野暮用を思い出してのでお暇させていただきます。ちなみに、下着や服類は既に用意してありますので、脱衣所にご用意して差し上げてください」
「相変わらず色々と早いね、式神さん」
「ストックは怠らないタイプなので。って、そんなことはどうでもいいのですが、とにかく少々席を外します。気になることもありますので。あと、天音様にはホットミルクでも作ってあげてください。作り方は……」
「さすがにホットミルクくらいは作れるよ。とりあえず、気をつけていってらっしゃい」
「はい、では行ってまいります。あと、彼女のそばから離れないであげてください」
ふっと風が起こり、そのまま姿を消す式神さん。
何をするかは定かではないが、とにかく野暮用と言うのだから野暮用なのだろう。
多分俺に言えない何かをするつもりのようだが、あえて言及しなかった。
「って、天音が出てくる前に脱衣所に行かなきゃ」
コンコン、とノックするも返事はない。
鉢合わせるリスクを恐れながらも、中に入るとまだ天音は入浴しているようで、急いでカゴに新しい着替えやドライヤーを置いておく。
そして、すぐさま脱衣所を出ると今度はキッチンに向かってホットミルクの準備をする。
さすがに今すぐ用意したら冷めてしまうだろうから、天音が出るまで手持ち無沙汰なので筋トレをしておくことにした。
今できることといえば、プランクや腕立て、バイシクルクランチに素振りくらいだろうか。
下手にスクワットして明日の登山に響いても困る、ととりあえずプランクや腕立てから始め出す。
「……何、やってるの?」
「うぉ! もう出てきたのか!」
「あ、うん。お邪魔だった?」
「いやいや、手持ち無沙汰だったから筋トレやってただけだし」
あまりにも筋トレに夢中になりすぎて、全く気配に鈍感になっていたなんてなんたる不覚。
とりあえずホットミルクを作らねば、と慌てて立ち上がり、キッチンでゴソゴソと作業を始める。
「お風呂ありがとう。おかげさまでサッパリした。下着とか服とかもありがとう」
「あー、うん。てか、服とか下着とかは新品だから。ほら、ねーちゃん、ストックたくさんするタイプだから」
「そっか。確かに、つむちゃんって昔から同じもの3つとか買って何かあったときに対処できるように、ってするタイプだったもんね。カバンの中からいつも必要なもの出てきて、4次元ポケットかと思ったときもあったし。……つむちゃんにも感謝しなきゃだね」
「そういえば、そんなこと俺も思ってたわ。いつもねーちゃんに言えばすぐに物が出てきてたし」
ねーちゃんの話をしててなんだか懐かしくなる。
そういえば、式神さんもそうだけど、ねーちゃんもやたらと用意がよかったなぁ、と天音に指摘されて思い出した。
「あの、きーくん。私どこにいたほうがいい?」
「あぁ、適当にその辺座ってて。あ、床でなくてソファとかでいいから」
そろりそろりとゆっくりとソファに座る天音は、どこかぎこちない。
その姿はまるで借りられた猫のようだった。
「あ、うん。なんか考えてみたらきーくんのおうち来るのも久しぶりだね」
「あー、そうだな。なかなか最近まで結構俺達同じ学校なのに、すれ違ってばっかだったもんな」
実際、お互い部活部活で忙しくしていたから、最近まで幼馴染みとはいえあまり接点がなかったように思う。
というか、最近も天音がコンタクトを取ってくれているから接しているだけであって、俺からあまりコンタクトを取ってなかったような気がする。
「きーくんは色々大変だったもんね」
「あぁ、そうだな」
「つむちゃんのこともあったしね」
「ん? ねーちゃんの留学のこと? まぁ、確かにバタバタだったからなぁ」
「あー、うん。そうそう、つむちゃんいないから、一人暮らし大変だもんね」
「そうだな」
本当は1人ではないが、今言うことではないと口を閉じる。
ホットミルクが出来上がり、とりあえずそれを差し出すと天音は少しだけ安堵の笑みを浮かべた。
「うん、ありがとう……。色々と、ごめんね」
「いいから、気にすんな。あぁ、あとシャンプーとかトリートメントとかあるやつ適当に使っていいから。あ、ねーちゃんがもらってる試供品とか確か、ここに……」
「ふふ、そこまで気にしなくていいよ。ありがとう、きーくん。入ってくるね」
「あぁ、おう。もし俺がいなかったら、買い出し行ってるだけだから。すぐ戻るから」
「うん、わかった」
浴室に天音が入ったことを確認すると、そのままリビングへ向かう。
すると、すぐさま目の前に式神さんが姿を現した。
だが、その表情はとても険しいものだった。
「一体、何があったのですか」
「……天音が、暴漢に襲われて……」
「! 相手は?」
まるで自分のことのように、苦虫を噛み潰したような表情をする式神さん。
霊力が沸々と滾っているのがわかるほどで、今までになく相当に怒っていることがわかる。
「わからねぇ。ただ、黒ずくめで中年のおっさんで、俺が脇腹に木刀当てたから骨は折れてるかも」
あのとき、とどめを……とも思ったが、確かにあの時の俺は頭に血が昇りすぎていて、状況や天音のことを考えていなかった。
天音のことだ、俺がもし殺人をしてしまったらきっと自分を怨むのだろう。……彼女はそういう子である。
だから、そんな想いはさせたくなかった。
「なるほど、承知致しました。私、少々野暮用を思い出してのでお暇させていただきます。ちなみに、下着や服類は既に用意してありますので、脱衣所にご用意して差し上げてください」
「相変わらず色々と早いね、式神さん」
「ストックは怠らないタイプなので。って、そんなことはどうでもいいのですが、とにかく少々席を外します。気になることもありますので。あと、天音様にはホットミルクでも作ってあげてください。作り方は……」
「さすがにホットミルクくらいは作れるよ。とりあえず、気をつけていってらっしゃい」
「はい、では行ってまいります。あと、彼女のそばから離れないであげてください」
ふっと風が起こり、そのまま姿を消す式神さん。
何をするかは定かではないが、とにかく野暮用と言うのだから野暮用なのだろう。
多分俺に言えない何かをするつもりのようだが、あえて言及しなかった。
「って、天音が出てくる前に脱衣所に行かなきゃ」
コンコン、とノックするも返事はない。
鉢合わせるリスクを恐れながらも、中に入るとまだ天音は入浴しているようで、急いでカゴに新しい着替えやドライヤーを置いておく。
そして、すぐさま脱衣所を出ると今度はキッチンに向かってホットミルクの準備をする。
さすがに今すぐ用意したら冷めてしまうだろうから、天音が出るまで手持ち無沙汰なので筋トレをしておくことにした。
今できることといえば、プランクや腕立て、バイシクルクランチに素振りくらいだろうか。
下手にスクワットして明日の登山に響いても困る、ととりあえずプランクや腕立てから始め出す。
「……何、やってるの?」
「うぉ! もう出てきたのか!」
「あ、うん。お邪魔だった?」
「いやいや、手持ち無沙汰だったから筋トレやってただけだし」
あまりにも筋トレに夢中になりすぎて、全く気配に鈍感になっていたなんてなんたる不覚。
とりあえずホットミルクを作らねば、と慌てて立ち上がり、キッチンでゴソゴソと作業を始める。
「お風呂ありがとう。おかげさまでサッパリした。下着とか服とかもありがとう」
「あー、うん。てか、服とか下着とかは新品だから。ほら、ねーちゃん、ストックたくさんするタイプだから」
「そっか。確かに、つむちゃんって昔から同じもの3つとか買って何かあったときに対処できるように、ってするタイプだったもんね。カバンの中からいつも必要なもの出てきて、4次元ポケットかと思ったときもあったし。……つむちゃんにも感謝しなきゃだね」
「そういえば、そんなこと俺も思ってたわ。いつもねーちゃんに言えばすぐに物が出てきてたし」
ねーちゃんの話をしててなんだか懐かしくなる。
そういえば、式神さんもそうだけど、ねーちゃんもやたらと用意がよかったなぁ、と天音に指摘されて思い出した。
「あの、きーくん。私どこにいたほうがいい?」
「あぁ、適当にその辺座ってて。あ、床でなくてソファとかでいいから」
そろりそろりとゆっくりとソファに座る天音は、どこかぎこちない。
その姿はまるで借りられた猫のようだった。
「あ、うん。なんか考えてみたらきーくんのおうち来るのも久しぶりだね」
「あー、そうだな。なかなか最近まで結構俺達同じ学校なのに、すれ違ってばっかだったもんな」
実際、お互い部活部活で忙しくしていたから、最近まで幼馴染みとはいえあまり接点がなかったように思う。
というか、最近も天音がコンタクトを取ってくれているから接しているだけであって、俺からあまりコンタクトを取ってなかったような気がする。
「きーくんは色々大変だったもんね」
「あぁ、そうだな」
「つむちゃんのこともあったしね」
「ん? ねーちゃんの留学のこと? まぁ、確かにバタバタだったからなぁ」
「あー、うん。そうそう、つむちゃんいないから、一人暮らし大変だもんね」
「そうだな」
本当は1人ではないが、今言うことではないと口を閉じる。
ホットミルクが出来上がり、とりあえずそれを差し出すと天音は少しだけ安堵の笑みを浮かべた。
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