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34 デートの約束

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「登山って私、初めてなんだけど靴とか買ったほうがいいかな?」
「あー、それはあったほうがいいかも。あと、上着とか? 結構山って冷えるからねー! ある程度装備はしっかりしてたほうがいいよ」

 役割分担もすんなり決まり、あとはちょっとした雑談タイム。
 登山は俺と天音以外はみんな経験したことがあるらしく、輝や女子達の情報は色々とためになった。

「具体的に何を用意したほうがいいんだ?」
「んー、靴と服と鞄は必須じゃね? てか、希生も天音ちゃんも持ってないなら一緒に買いに行けばいいじゃん」
「あー、いいねそれ。一緒に買いに行っちゃいなよ!」

 やたらとニヤニヤしながらこちらを見る3人。明らかに人をからかっているのがよくわかる。

「そんなん、天音だって困るだろ。俺とだなんて……、なぁ?」
「私は、きーくんとなら別にいいけど……」
「そーだよなぁ、ほら……って、うぇぇえ!? い、いいのか? 俺と……?」

 まさか俺と一緒に行くと言い出すとは思わず、思いきり二度見してしまった。
 すると、顔を赤らめつつも上目遣いで「……いいよ?」と追撃されるように言われてしまって、俺は何も言えずに口をパクパクとさせる。
 いやいやいやいや、待てよ、俺。
 勘違いしてはダメだ! これは実はトラップか、本当はみんなで行こうっていう伏線とかきっとそういうやつなはずだ! エイプリルフールはとっくに過ぎたが、新手の冗談に決まっている。
 何せ、天音と2人っきりだぞ? 休日に、街中でショッピング。
 思春期の年頃の男女が一緒に出かけるという行為、これはもはやデートだろう。
 そんなのをわざわざ俺とだなんて……っ!
 再び天音を見れば、「ダメかな?」とダメ押しの一手を打たれる。

「おいおい、希生~! 女の子にここまで言わせちゃダメだろ~?」
「そうだよ、ねぇ? ミオも言ってるんだし、京極くん今週末は空いてるの?」
「あー、特に予定は……ない、かと……思われ……マス」
「だったら決まりだね! ミオちゃん良かったね!」
「うん」

 なんだか勝手に話が進んでいっている。
 いや、それが嫌とかそんなわけではないが、それでも本当に良かったのだろうか、と不安になるが「今週末よろしくね」と言われたら「あぁ、うん。よろしく」としか返しようがなかった。


 ◇


「まぁ! 天音様とデート!」
「だーかーらー! 違うって! ただ遠足の登山の装備を買いに行くだけだから!!」

 家に帰り、なんの気なしに今週末の予定を話せば式神さんがニヤニヤし始める。
 本当この人、俺と天音のことになるとテンションが上がっている気がする。

「またまたぁ、そんなことをおっしゃって。あ、では当日までにお洋服をご用意せねばですね。週末までに間に合うかしら……」

 なぜか俺よりもそわそわし始める式神さん。
 俺をからかったり心配したりと忙しいな、と思いつつ、当日の洋服とか全然気にしてなかったから、そんなことまで考えなきゃいけないのか、とちょっとげんなりした。

「別に、適当な服でいいだろ」
「何をおっしゃいますか! デートのためにはきちんとした身なりで行くのがマナーですよ! 一緒に歩くのに、隣にダサい格好の異性がいたら萎えるではありませんか!」

 キッと鋭い眼差しで詰め寄られ、思わずたじろぐ。……なんなんだ、この気迫は。
 てか、やけに食いつきよすぎるし、そんなに俺が天音と出かけるのを喜んでいるのだろうか。
 というか、式神さんやけに現世のデート事情というか、人の色恋とかに詳しいな……。
 式神さんはきっと高尚な妖怪だって毬じいが言ってたけど、案外そうでもないのだろうか。

「なんかヤケにリアルなこと言ってない? 式神さん、経験あるの?」
「い、いえ! あくまで一般論を申し上げているだけです。女性にとってファッションは大事ですからね。とにかく、デート前に服を見繕いますから!」

 なんだか、またはぐらかされた気がする。
 まぁ、あまり突っ込んだところで上手く煙に巻かれるだけだろうし、深追いするのはやめた。

「じゃあ、お願いしようかな」
「いやいやいや、何をおっしゃいますか! ズルはダメです。ご自身で選んでください。今はインターネットも普及してるんですから」
「そうは言っても……」
「そんな情けないことをおっしゃらないでください。今後も大事なことですし。私もある程度助言させていただきますから!」

 正直服なんてこだわりがないから、極論着れさえすればいいのだが、そういうわけにはいかないらしい。
 ここ最近自分で買った服なんてあったかな、と思い返して、ほとんどねーちゃんから買ってもらってばっかなことに気づいて、さすがに我ながら情けないとも思う。
 世のマザコン、シスコンをバカにできない現状に、ちょっと焦りが生まれる。

「わかったよ。とりあえず、見てみる」
「すぐですよ? 配送遅延で当日間に合わなかったら困りますから。今日は月曜日ですし、きっと今なら間に合います! リミットは本日中ですからね! くれぐれも遅れることのないように!!」
「あー、はいはい。わかったよ。何で式神さんがそんなにはりきってるんだか……」
「そりゃ、希生様の初デートですからね。気合も入りますよ。あ、注文する前に私に確認してからなさってくださいね」

 めちゃくちゃ面倒だな……と思いながらも、自分で選んで酷いコーディネートをするのも嫌なので、とりあえず頷いておく。

「夕飯準備が終わりましたらお呼び致しますから、それまでぜひお探しください。あぁ、サイトは『洋服の森』とかオススメですよ」
「はーい」
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