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31 姉の誕生日

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「先程は失礼致しました」
「あぁ、別にそれはいいんだけど」

 夕飯時、珍しく意気消沈している式神さん。
 外出時に何かあったのだろうか。
 もしかしたら、先程の神原さんと関係があるのかもしれないが、この様子を見るに聞くに聞けない。
 もしや、ねーちゃんと式神さんと神原さんで三角関係とか……?
 いやいや、さすがにそんなことはないだろう。
 なら、何であんなに式神さんは動揺して取り乱してたのか、……考えれば考えるほど謎である。
 てか、そもそも神原さんはどうしてねーちゃんに花束なんか……って思ったときに日付を思い出す。

「あ!!!!」
「な、なんですか、急に……っ?」
「今日、ねーちゃんの誕生日じゃん!!」

 本人がいないからすっかり忘れてたが、今日5/24はねーちゃんの23回目の誕生日だった。
 電話はできないにしても、手紙すら出し忘れるだなんてなんたる失態!

「それは、おめでとうございます」
「やべー! ねーちゃんに何もしてないわ」
「ご本人がご不在なんですから、何もしなくてもよいのでは?」
「いや、まぁ、そうなんだけど。毎年色々としてもらってる身からすると、それはそれでなんだか気まずいというか申し訳なさがあるというか……」

 よくねーちゃんにも「あんたって変なところ真面目ね」と言われていたが、こればかりはどうにも変えられない。
 良心が痛むというか、どうしてもしてもらったぶんはお返ししたくなる性分なのだ。

「でしたら、お手紙を書かれては? 私が明日出してきますから」
「遅れちゃったけど、そうしようかなぁ……。ないよりあったほうがいいだろうし」
「えぇ、きっとお喜びになると思いますよ」
「式神さんもそう思う?」
「えぇ、思います」

 ……だったら、そうしよう、と夕飯を掻き込み、急いで食事を済ませる。

「そういえば、希生様。あの毬藻が見当たらない気がするのですが……」
「え、毬じい? そういえば、式神さんがでかけたあとに散歩行くって出かけてたよ」
「さようですか、なるほど」
「?」

 何やら考え始めている式神さんに「ご馳走さまでした、今日も美味しかったよ!」と言って食器を下げると、「じゃあ、ちょっと部屋でねーちゃんに手紙書いてくる!」と自室へ向かった。

「改めて考えると、なんだかあんまり言葉が出てこないなぁ……」

 書き始めてからもう既に10分以上経っているが、書くことがない。
 というか、あるにはあるが、小っ恥ずかしくて書けない。
 今まで両親いなくても育ててくれてありがとう、とか、いつも美味しい料理ありがとう、とか感謝の気持ちはあるけど、それを伝えるとなると花束は別だ。
 直接言うでないにしろ、めちゃくちゃ恥ずかしい。
 特に手紙なんて残るもんだし!
 うーんうーん、と唸るもののすぐには出ずにとりあえず「久しぶり、元気? 誕生日おめでとう」とありきたりなことを書く。

「何を書けばいいのか……そういえば、ねーちゃんも霊力持ってたって言ってたけど、ねーちゃんも俺みたいに修行したのかな……?」

 式神さんに聞くまで、陰陽師だとか霊力だとかサッパリだったから、直接ねーちゃんにこういった話をしたことがない。
 ねーちゃんともっと話しておけばよかったな、なんて今更ながら思う。
 考えてみたら、ねーちゃんに甘えて家事でも何でも任せることが多かったし、学校の書類とかだって、俺がうっかり忘れてねーちゃんにどうしよう! と泣きつけば、文句は言いながらも全部用意してくれていた。
 式神さんがいるからそこまで不便はしていないが、こうしてねーちゃんがいないからこそわかるありがたみもあった。

「ここでギャアギャア恥ずかしがってても仕方がないし、とにかく書くか」

 俺はペンを持つと、最近の出来事や陰陽師のこと、日々の鍛錬のことや式神さんのことなどを書き始めた。
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