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29 練習試合

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 カン、カカ、バシ、どん……っ、カンカン、ガガガ、どん、どどん……っ!!

 激しい打ち合い。
 お互い息つく暇もなく踏み込みつつ、打ち合っていく。
 打ち、避け、下がり、踏み込み、と状況を読みながらもついていくので精一杯だった。

「めーーーーーん!!」

 一本! と審判の声に、ハッと我に返り定位置に戻り礼をする。
 その後、休憩の号令がかかったので、足早に試合場から出ると端に向かい、お互い腰を下ろしてから面を外した。

「ふぅ……。あー、ぐわんぐわんする。相変わらず強いな、真島は」
「そうか? 京極も足治ってからにしてはだいぶ動けるようになってると思うけど」
「んー、まぁ、そうかもしれないけど」

 足が治ってから先日から部活に復帰していたが、今日は久々の練習試合だった。
 今度の大会に向けて、レギュラーを決めるためのもので、今回は早々に真島との対戦だったが、相変わらず強い。
 隙がないし、そもそも動きが俊敏で、気づいたときには既に距離を詰められていることが多い。
 俺は防ぐので精一杯で、下手に距離を開けるとそのまま一本取られてしまうので、この微妙な距離感を維持しようと試みるのだがそれが非常に難しかった。
 攻めに転じようとしても、真島は立ち回りが上手くてどうやっても後手後手に回ってしまう。
 最近は鍛錬でだいぶ能力が上がってきているというのに、それでもどうにも勝てなかった。

「真島って普段どんな練習してんの?」
「何だよ、いきなり」
「いや、真島ってめっちゃ強いからさ」

 素直に真島を褒めると「そういうとこストレートだよな、京極って」とちょっぴり照れながら頬を掻いている。
 俺としてはそういうことは言ってなんぼだと思うというか、純粋にすごいと思うし尊敬しているからこそなのだが、みんなは違うのだろうか。

「んー、俺は基本的に基礎練習することが多いんだよな」
「基礎? 基礎をひたすらやってるってこと?」
「そそ。まずは基礎がしっかりしてないと、やっぱり動きに隙ができるっていうか、どうしてもムラが出てきちゃって、そこが弱点になるんだよな」
「弱点……」

 弱点ってそういう部分も弱点になるのか。
 ふむふむ、なるほど、と勉強になる。
 確かに、基礎がしっかりできてなければ動いたときに弱い部分が露呈するというのは納得できる。
 今まで俺は足が遅いなら腕をその分早く、小回りが利かないなら大立ち回りをしてカバーする、などと考えていたが、結局のところそういう部分がバレていたら不利になり、必然的に弱点となってしまうのだろう。
 ということは、やはり弱点を補うという考えではなく、弱点を克服するというのがいいのかもしれない。

「それと、あれだな。先を視る目があるのがいいよ」
「何それ、先を視る目? なんかカッコいいじゃん!」
「そういうんじゃないんだけどなー。なんつーか、相手の一歩先を考えるんだよ」
「というと?」
「動作に合わせて相手の意図を読むんだよ。剣先けんせんが上を向いたら、面が来るからしゃがみ込んで胴打ちを狙おうとか。ここで半歩下がったということは間合いをとって引き技使ってきそうだな、ってわざと詰めるとか」
「すげぇな……真島」

 思わず感心してしまう。
 あの一瞬でその判断をして、さらに実行できるというのが凄い。
 ここまでしっかりとこなしているということは、それだけの鍛錬と共に冷静に判断できるほどの余裕があるということの証左だろう。
 そりゃ勝てないな、と素直に思った。

「まぁ、そのぶん……イレギュラーな動きには弱いけどな。まぁ、そこもカバーしていきたいとは思ってるけど」
「まだまだ高みを目指すのか……」
「そりゃそうだろ。てか、京極だって十分強いし。ってか、そもそもいきなりなんなんだよ。どういう風の吹きまわしだ?」
「あー、いやー、なんか強くなりたいなぁ……って」
「なんだそれ。……あ、それって天音ちゃん絡み?」
「は!?」

 突然ニヤニヤとにやけ出す真島。
 絶対何か勘違いしているようだが、天音は俺じゃなくてお前のことが好きなんだよ! と言いたくても、そんなプライベートなこと勝手に言えるはずもなく、グッと我慢する。

「別に、そんなんじゃねーし」
「ふぅん?」
「何だよ、何が言いたいんだよ!」
「べっつにぃー? いやぁ、青春っていいよね!」
「だから、そんなんじゃねーから!!」
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