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22 独り言
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「ただいまー……」
しーん、と普段はお出迎えしてくれる式神さんがいない。
どこかに行ったのかな? と、とりあえずビショビショになってしまった服を脱いで洗濯できるものはしておこうと脱衣所に向かう。
ブレザーやズボンなどの洗濯できないものはハンガーにかけ、ワイシャツや下着などはそのままポンポンと洗濯機に入れて回す。
さすがに洗濯くらいはねーちゃんから使い方を伝授されているので、これくらいならできるのだ。……まぁ、自慢できることではないが。
「さっきのべっぴんさんとは恋仲なのかのう?」
「うぉ!!? 毬じい!? 急に話しかけるなよ! びっくりするわ!!」
さて、シャワー浴びるか、と浴室に入ろうとしたとこで声をかけられて飛び上がる。
誰もいないと思っている、かつ無防備な状態で急に話しかけられるのは俺でなくても誰だってびっくりするだろう。
いや、俺は非常にビビりなほうだとは思うが。
「で? いい感じの雰囲気で帰ってきよって。いいのう、若いっちゅーのは。青春というやつよのう……」
「いや、別に天音とはそんなんじゃないし。ただの幼馴染みなだけだよ。……てか、いつの間に見てたんだよ」
油断も隙もあったもんじゃない。
朝からふらふら出掛けてたと思えば、今はこうして俺のことを見ていたりと神出鬼没である。
「ほうほう、幼馴染み。というと、あれじゃろ? 好き好き言って追いかけられたり、逆にツンデレで振り回したりする感じなんじゃろ?」
「あからさまに偏見が入ってる気がするんだが……」
一体どこのラブコメだよ、と内心ツッコみを入れる。
そんな簡単にいくなら世話ないし、生まれてこの方恋愛なんぞとは縁遠くて、自慢じゃないがそういった甘酸っぱいイベントは皆無だ。
そもそも年齢イコール彼女いない歴だと……ってこの会話さっきもしたな、と自虐する。
そして、なんだか勝手に虚しくなる。
正直、天音のことを好きかと聞かれたら答えはハッキリ出ない。
好きは好きだが、それがライクなのかラブなのか自身で判断つけようがなかった。
一緒にいすぎて、この感情が一体どういうものなのか判断できないのだ。
「とにかく、天音とはそんなんじゃねーよ。仲はいいけどな。とりあえず、俺もうシャワー浴びるから」
真っ裸のまま長話をしてたせいで、身体がぶるっと震える。
ここで下手に風邪をひいて、天音に罪悪感を持たせることだけは避けたかったので問答無用で浴室に入ると、鞠じいはそれ以上追いかけてくることはなかった。
「ふぅ、サッパリした」
風呂上がり、洗濯機はまだ回り続けているので、とりあえずリビングで茶でも飲もうと頭にタオルを被りながらリビングへと向かう。
すると、何やら話し声が聞こえてきた。
「ねーもう、話してもいいんじゃない?」
「ダメよ。まだひよっこのままだし」
「えー、でもさー。下手に隠し立てするよりも、正直に話したほうがさー」
「そもそも、どう話せってのよ。それに今、下手に話してあいつに目をつけられでもしたら……」
「確かにー、それはあるかもだけどさー……」
式神さんの声しかしないものの、話し口調的に誰かと会話しているような感じだ。
式神さんにたまにある現象なんだが、こうして会話型の独り言をしているときがたまにある。
そもそも口調も普段と違ってざっくばらんだし、俺としては新鮮ではあるのだが、そもそも式神さんは一体何のことを言っているのだろうか。
そっと様子を見ていたつもりだが、ギシッと足元が軋んで式神さんも俺も飛び上がるかのようにドキッとする。
相変わらずのビビりに、自分でも嫌になる。
「……っ、希生様。お帰りになってたんですね」
あからさまに動揺した様子だが、いつもの口調に戻っている。
リビングに入ってみても誰かいた形跡もなく、先程の会話らしきものはなんだったのだろうと疑問は持ちつつも、気にしないことにした。
「あー、うん。ただいま。さっき声かけたけど、いなかったみたいだからシャワー浴びてた」
「そうでしたか。すみません、洗濯物を取り込んでおりまして、気づきませんでした。お召し物が濡れましたか? お洗濯は……」
「洗濯は洗えるものは回してるから大丈夫だよ。あ、それと今日なんだけど……、もう夕飯は作っちゃった?」
「いえ、これからの予定ですが」
「そっか、よかった。実は天音の家で夕飯いただくことになって、だから今日は夕飯いらないんだ」
「そうでしたか、承知しました。あ、天音様のおうちにいらっしゃるのでしたら手土産を……」
言いながら、ガサゴソと戸棚を漁り始める式神さん。
どうやらいつものモードに戻ったようだ。
「これを持っていってください」
「羊羹? いつの間に……」
「いざというときのために、こういう日持ちする菓子は常備してるのですよ」
「へ、へぇ……」
いざというときってなんのときのときだ?と思いながらも聞くことができなくて、グッと飲み込む。
「天音様のお宅にお邪魔するのは久々ではありませんか?」
「あぁ、うん。そうかも」
「でしたら、楽しんで来てください」
「あー、ありがとう。多分泊まりってことはないから」
「まぁ、もし泊まるようなことがあっても私は全然構いませんから。むしろせっかくの機会ですし、天音様と親交を深めては……?」
ニコニコニコ、と頬笑みたっぷりに言われる。
本気なのか冗談なのか定かではないが、なんか成長した子を見つめる親のような表情で見られて、なんとなく恥ずかしかった。
しーん、と普段はお出迎えしてくれる式神さんがいない。
どこかに行ったのかな? と、とりあえずビショビショになってしまった服を脱いで洗濯できるものはしておこうと脱衣所に向かう。
ブレザーやズボンなどの洗濯できないものはハンガーにかけ、ワイシャツや下着などはそのままポンポンと洗濯機に入れて回す。
さすがに洗濯くらいはねーちゃんから使い方を伝授されているので、これくらいならできるのだ。……まぁ、自慢できることではないが。
「さっきのべっぴんさんとは恋仲なのかのう?」
「うぉ!!? 毬じい!? 急に話しかけるなよ! びっくりするわ!!」
さて、シャワー浴びるか、と浴室に入ろうとしたとこで声をかけられて飛び上がる。
誰もいないと思っている、かつ無防備な状態で急に話しかけられるのは俺でなくても誰だってびっくりするだろう。
いや、俺は非常にビビりなほうだとは思うが。
「で? いい感じの雰囲気で帰ってきよって。いいのう、若いっちゅーのは。青春というやつよのう……」
「いや、別に天音とはそんなんじゃないし。ただの幼馴染みなだけだよ。……てか、いつの間に見てたんだよ」
油断も隙もあったもんじゃない。
朝からふらふら出掛けてたと思えば、今はこうして俺のことを見ていたりと神出鬼没である。
「ほうほう、幼馴染み。というと、あれじゃろ? 好き好き言って追いかけられたり、逆にツンデレで振り回したりする感じなんじゃろ?」
「あからさまに偏見が入ってる気がするんだが……」
一体どこのラブコメだよ、と内心ツッコみを入れる。
そんな簡単にいくなら世話ないし、生まれてこの方恋愛なんぞとは縁遠くて、自慢じゃないがそういった甘酸っぱいイベントは皆無だ。
そもそも年齢イコール彼女いない歴だと……ってこの会話さっきもしたな、と自虐する。
そして、なんだか勝手に虚しくなる。
正直、天音のことを好きかと聞かれたら答えはハッキリ出ない。
好きは好きだが、それがライクなのかラブなのか自身で判断つけようがなかった。
一緒にいすぎて、この感情が一体どういうものなのか判断できないのだ。
「とにかく、天音とはそんなんじゃねーよ。仲はいいけどな。とりあえず、俺もうシャワー浴びるから」
真っ裸のまま長話をしてたせいで、身体がぶるっと震える。
ここで下手に風邪をひいて、天音に罪悪感を持たせることだけは避けたかったので問答無用で浴室に入ると、鞠じいはそれ以上追いかけてくることはなかった。
「ふぅ、サッパリした」
風呂上がり、洗濯機はまだ回り続けているので、とりあえずリビングで茶でも飲もうと頭にタオルを被りながらリビングへと向かう。
すると、何やら話し声が聞こえてきた。
「ねーもう、話してもいいんじゃない?」
「ダメよ。まだひよっこのままだし」
「えー、でもさー。下手に隠し立てするよりも、正直に話したほうがさー」
「そもそも、どう話せってのよ。それに今、下手に話してあいつに目をつけられでもしたら……」
「確かにー、それはあるかもだけどさー……」
式神さんの声しかしないものの、話し口調的に誰かと会話しているような感じだ。
式神さんにたまにある現象なんだが、こうして会話型の独り言をしているときがたまにある。
そもそも口調も普段と違ってざっくばらんだし、俺としては新鮮ではあるのだが、そもそも式神さんは一体何のことを言っているのだろうか。
そっと様子を見ていたつもりだが、ギシッと足元が軋んで式神さんも俺も飛び上がるかのようにドキッとする。
相変わらずのビビりに、自分でも嫌になる。
「……っ、希生様。お帰りになってたんですね」
あからさまに動揺した様子だが、いつもの口調に戻っている。
リビングに入ってみても誰かいた形跡もなく、先程の会話らしきものはなんだったのだろうと疑問は持ちつつも、気にしないことにした。
「あー、うん。ただいま。さっき声かけたけど、いなかったみたいだからシャワー浴びてた」
「そうでしたか。すみません、洗濯物を取り込んでおりまして、気づきませんでした。お召し物が濡れましたか? お洗濯は……」
「洗濯は洗えるものは回してるから大丈夫だよ。あ、それと今日なんだけど……、もう夕飯は作っちゃった?」
「いえ、これからの予定ですが」
「そっか、よかった。実は天音の家で夕飯いただくことになって、だから今日は夕飯いらないんだ」
「そうでしたか、承知しました。あ、天音様のおうちにいらっしゃるのでしたら手土産を……」
言いながら、ガサゴソと戸棚を漁り始める式神さん。
どうやらいつものモードに戻ったようだ。
「これを持っていってください」
「羊羹? いつの間に……」
「いざというときのために、こういう日持ちする菓子は常備してるのですよ」
「へ、へぇ……」
いざというときってなんのときのときだ?と思いながらも聞くことができなくて、グッと飲み込む。
「天音様のお宅にお邪魔するのは久々ではありませんか?」
「あぁ、うん。そうかも」
「でしたら、楽しんで来てください」
「あー、ありがとう。多分泊まりってことはないから」
「まぁ、もし泊まるようなことがあっても私は全然構いませんから。むしろせっかくの機会ですし、天音様と親交を深めては……?」
ニコニコニコ、と頬笑みたっぷりに言われる。
本気なのか冗談なのか定かではないが、なんか成長した子を見つめる親のような表情で見られて、なんとなく恥ずかしかった。
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