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17 反省
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「えー、ここの音読は……羽生田、お前やれ」
「うぇー! 俺っすか!? 俺の美声だと、女子達が俺の声に夢中になっちゃって内容が頭に」
「いいからやれ」
授業をぼんやりと聞きながら、昨夜のことを思い出す。
俺のこの失態の敗因……それは確実に準備不足だ。
というか、我ながらよくあれで勝てたと思う。
某ゲームでさえ、最初はヒノキの棒と鍋のふたを持って戦いに挑んでいるというのに、この俺ときたら何も持たずただただこの身1つで戦いに挑んだのだ。
無計画かつ無防備。
これで毬じいを仲間にできたこと自体、奇跡である。
まぁ、式神さんに追い出されるように家を出されたから考える余裕すらなかったせいもあるだろうが。
いや、絶対にそのせいだ。
今度は必ず木刀と小石を常備しよう。
というか、前回なぜ木刀を持っていかなかったのか悔やまれる。
それなりに長年やってきたし、程々に大会で優勝するくらいには実力があるつもりなのに、昨日は綺麗さっぱり剣道のことを忘れていた。
なんだかんだでリトルリーグでピッチャーだった経験が幸いしたのは良かったものの、それがなかったら万事休すどころか死んでいたかもしれない。
あのピンチで咄嗟に動けたのは、自分が経験してきたことだから土壇場で活かせたということだろう。
そうなると、やはり俺には欠かせない木刀は必要だし、昨夜のようにいざというときには小石を投げるというのもアリである。
……というか、そもそもの話だが。
いくら未知の相手とはいえ、我ながらビビりすぎだし逃げすぎだろう、と今更ながら思う。
ビビりなのは認めよう。
正直ホラーものとか大の苦手だし、スプラッタ系はもっと苦手だ。
それなのに将来警察官目指してるのか?と言われそうだが、それもまぁ一理あるとは思う。
だが、苦手なものは苦手なのだ。
すぐさまどうこうできるもんでもない。
昨日だってよく自分チビらなかったな、とも思うし。
って、そういえば、あいつのことを調べ忘れていた。
「鬼神魔王」
毬じいがヤツと呼んでいた妖怪だ。
先生がこちらを見てないことを確認して、教科書に隠しながらスマホをつける。
そして、「鬼神魔王」というワード検索すると、出てきたのは「大嶽丸」という単語だった。
よく見てみると、大嶽丸はたくさんの鬼を従えており、妖怪の親玉だと言っていい存在と書いてあって恐れ慄く。
もし今後こんなやつと対峙しないといけない日が来たらと思うと、恐怖でおかしくなりそうだな、とどこか他人事のように思う。
まぁ、今のところこいつと会う理由もなければ、接点もないからすぐさまどうこうなることはないだろうが。
「……きー……ん、きーくん」
「ん?」
隣にいる天音から呼ばれて顔を上げれば、古典の教師がこちらをジッと見ていた。
「指名されてるよ。ここ、13ページの音読みだって」
「あ、あぁ……ぼんやりしてて気づかなかった。ありがとう、天音」
「あ、ううん。それは、別にいいんだけど……。ほら、ここ、ここの3行目」
天音が該当ページを見せて指差してくれる。
なんて優しい幼馴染みだ、ありがてぇ……と心の中で感謝する。
ページを慌ててめくり、該当箇所を探す。
授業開始初日だというのに、随分と話が進んでいることにびっくりだ。
だが、さすがに新学期2日目にして、目をつけられるのはごめんである。
「あー……、霜の降りたるは言うべきにもあらず、霜のいと白きもまたさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭もて渡るも、いとつきづきし……」
「そこまで。京極、休み明けでまだボケてるのか? しっかりしろよ。次、松本。この部分の訳はわかるか?」
どうにか一難乗り越えたようで、ホッとだ。
隣の天音を見れば、親指を立ててにっこりと微笑まれる。
なんだこいつ、可愛いな……。
急に天音が可愛く見えてきたような気がして、キュンと胸が高鳴ったのを感じて、思わず首を振った。
いやいやいやいや!
確かに天音は可愛いが、そういうんじゃない!!
なぜか言い訳するように自分に言い聞かせる。
どちらかと言ったら兄弟みたいな感じだし、家族みたいな枠だからそういった好きだの惚れただのの関係に当てはまる人間ではない。
そもそも、天音は一般的に見てめちゃくちゃ可愛い。
本当かどうか定かではないけど、親衛隊がいるとかなんとか聞いたこともあるくらいだ。
だから俺が万が一、億が一、気を持ったとしても相手してもらえる立場にはない。
そもそも、天音自体が俺に興味ないだろう。
うん、下手な自惚れは仇になるからな。
人生謙虚にいかねば。
特に俺みたいな一般人は。
無駄に自分で自分に何度目かの言い訳をしながら、教科書を眺める。
頭にあまり内容が入ってこないが、本分は学生だ。
古典はある程度得意とはいえ、きちんと勉学もやらねば、式神さんに怒られる。
そして、学費等を出してくれているねーちゃんにも怒られる。
俺はノートとペンを取り出すと、遅れて取り忘れた黒板の文字をノートに写し始めるのだった。
「うぇー! 俺っすか!? 俺の美声だと、女子達が俺の声に夢中になっちゃって内容が頭に」
「いいからやれ」
授業をぼんやりと聞きながら、昨夜のことを思い出す。
俺のこの失態の敗因……それは確実に準備不足だ。
というか、我ながらよくあれで勝てたと思う。
某ゲームでさえ、最初はヒノキの棒と鍋のふたを持って戦いに挑んでいるというのに、この俺ときたら何も持たずただただこの身1つで戦いに挑んだのだ。
無計画かつ無防備。
これで毬じいを仲間にできたこと自体、奇跡である。
まぁ、式神さんに追い出されるように家を出されたから考える余裕すらなかったせいもあるだろうが。
いや、絶対にそのせいだ。
今度は必ず木刀と小石を常備しよう。
というか、前回なぜ木刀を持っていかなかったのか悔やまれる。
それなりに長年やってきたし、程々に大会で優勝するくらいには実力があるつもりなのに、昨日は綺麗さっぱり剣道のことを忘れていた。
なんだかんだでリトルリーグでピッチャーだった経験が幸いしたのは良かったものの、それがなかったら万事休すどころか死んでいたかもしれない。
あのピンチで咄嗟に動けたのは、自分が経験してきたことだから土壇場で活かせたということだろう。
そうなると、やはり俺には欠かせない木刀は必要だし、昨夜のようにいざというときには小石を投げるというのもアリである。
……というか、そもそもの話だが。
いくら未知の相手とはいえ、我ながらビビりすぎだし逃げすぎだろう、と今更ながら思う。
ビビりなのは認めよう。
正直ホラーものとか大の苦手だし、スプラッタ系はもっと苦手だ。
それなのに将来警察官目指してるのか?と言われそうだが、それもまぁ一理あるとは思う。
だが、苦手なものは苦手なのだ。
すぐさまどうこうできるもんでもない。
昨日だってよく自分チビらなかったな、とも思うし。
って、そういえば、あいつのことを調べ忘れていた。
「鬼神魔王」
毬じいがヤツと呼んでいた妖怪だ。
先生がこちらを見てないことを確認して、教科書に隠しながらスマホをつける。
そして、「鬼神魔王」というワード検索すると、出てきたのは「大嶽丸」という単語だった。
よく見てみると、大嶽丸はたくさんの鬼を従えており、妖怪の親玉だと言っていい存在と書いてあって恐れ慄く。
もし今後こんなやつと対峙しないといけない日が来たらと思うと、恐怖でおかしくなりそうだな、とどこか他人事のように思う。
まぁ、今のところこいつと会う理由もなければ、接点もないからすぐさまどうこうなることはないだろうが。
「……きー……ん、きーくん」
「ん?」
隣にいる天音から呼ばれて顔を上げれば、古典の教師がこちらをジッと見ていた。
「指名されてるよ。ここ、13ページの音読みだって」
「あ、あぁ……ぼんやりしてて気づかなかった。ありがとう、天音」
「あ、ううん。それは、別にいいんだけど……。ほら、ここ、ここの3行目」
天音が該当ページを見せて指差してくれる。
なんて優しい幼馴染みだ、ありがてぇ……と心の中で感謝する。
ページを慌ててめくり、該当箇所を探す。
授業開始初日だというのに、随分と話が進んでいることにびっくりだ。
だが、さすがに新学期2日目にして、目をつけられるのはごめんである。
「あー……、霜の降りたるは言うべきにもあらず、霜のいと白きもまたさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭もて渡るも、いとつきづきし……」
「そこまで。京極、休み明けでまだボケてるのか? しっかりしろよ。次、松本。この部分の訳はわかるか?」
どうにか一難乗り越えたようで、ホッとだ。
隣の天音を見れば、親指を立ててにっこりと微笑まれる。
なんだこいつ、可愛いな……。
急に天音が可愛く見えてきたような気がして、キュンと胸が高鳴ったのを感じて、思わず首を振った。
いやいやいやいや!
確かに天音は可愛いが、そういうんじゃない!!
なぜか言い訳するように自分に言い聞かせる。
どちらかと言ったら兄弟みたいな感じだし、家族みたいな枠だからそういった好きだの惚れただのの関係に当てはまる人間ではない。
そもそも、天音は一般的に見てめちゃくちゃ可愛い。
本当かどうか定かではないけど、親衛隊がいるとかなんとか聞いたこともあるくらいだ。
だから俺が万が一、億が一、気を持ったとしても相手してもらえる立場にはない。
そもそも、天音自体が俺に興味ないだろう。
うん、下手な自惚れは仇になるからな。
人生謙虚にいかねば。
特に俺みたいな一般人は。
無駄に自分で自分に何度目かの言い訳をしながら、教科書を眺める。
頭にあまり内容が入ってこないが、本分は学生だ。
古典はある程度得意とはいえ、きちんと勉学もやらねば、式神さんに怒られる。
そして、学費等を出してくれているねーちゃんにも怒られる。
俺はノートとペンを取り出すと、遅れて取り忘れた黒板の文字をノートに写し始めるのだった。
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