46 / 53
幕間 仲考の策略
しおりを挟む
今までにないほどの荒れようだった。
花琳がいなくなり、峰葵も部屋を出て行くと、仲考は自我を失くした獣のように荒れに荒れまくった。
目に入った女官を次々と斬りつけ、蹴りつけ、踏みつける。
そこら中におびただしい量の血や肉片を飛び散らせ、それでもなお一心不乱に刃を振るいまくった。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図が目の前で繰り広げられているが、上層部は怯えているだけで誰も声を上げることができない。
そこにいる全員が、このままでは次に殺されるのは自分だと、存在をなくしたように震えながら口を噤んだ。
誰もがこの男が王になったらこの国はどうなるのかと憂いたが、それを口にする者はいなかった。
皆、自分の命が惜しいのだ。
「何が同盟だ。ふざけるなっ!」
仲考が唸るように声を上げる。
「余計なことをしよって! つくづく気に食わぬ小娘だ! あんなものが我が物顔で好き勝手に振る舞うなどと、断じて許せぬ……っ!!」
眦をくわっと吊り上げ、憤怒に満ちた様子はまるで夜叉のようだ。
その表情は、あらゆる負の感情がないまぜになっている。
「そっちがそのつもりならまぁ、よい。……李康!」
「は、はひ!」
仲考が名を呼ぶと、李康と呼ばれた男が声を裏返しながら返事をする。
「例の件はどうなっている?」
「ば、万事抜かりなしです!」
「そうか。……奥の手として取っておくつもりであったが仕方あるまい。この国が手に入らぬというならば、いっそ一度潰してみるまでだ」
ニヤリ、と大きく口元を歪ませる仲考。
その笑みには禍々しさが滲み出ていた。
「春匂国、冬宵国双方に伝えておけ。この国の情報を全て渡す、とな。こうなったら秋波国など徹底的に潰してもらおう。ふふふふははははははは」
真っ赤な返り血を浴びながら高笑いする仲考。
あまりの異様さに上層部の面々はごくりと生唾を飲み込んだ。
このままここにいては巻き込まれる。
そう思うも彼らに選択肢はなく、仲考についていくしかなかった。
「仲考殿。恐れながら、先方にはいつ仕掛けるよう伝達を?」
「準備が整い次第とでも伝えておけ。市中に火を放ち、混乱に乗じて我々は身を隠す。あぁ、そうだ。国を占拠したあかつきには、報酬としてワシが統治する土地を確保することをゆめゆめ忘れるでないと念を押しておけ。秋波国と同等の大きさとは言わぬが、せめてこの国の半分はいただく、とな」
「もちろんでございます。そのように話は詰めておりますゆえ」
「今に見てろよ、小娘。ワシを怒らせたらどうなるか、思い知らせてやる……っ」
花琳がいなくなり、峰葵も部屋を出て行くと、仲考は自我を失くした獣のように荒れに荒れまくった。
目に入った女官を次々と斬りつけ、蹴りつけ、踏みつける。
そこら中におびただしい量の血や肉片を飛び散らせ、それでもなお一心不乱に刃を振るいまくった。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図が目の前で繰り広げられているが、上層部は怯えているだけで誰も声を上げることができない。
そこにいる全員が、このままでは次に殺されるのは自分だと、存在をなくしたように震えながら口を噤んだ。
誰もがこの男が王になったらこの国はどうなるのかと憂いたが、それを口にする者はいなかった。
皆、自分の命が惜しいのだ。
「何が同盟だ。ふざけるなっ!」
仲考が唸るように声を上げる。
「余計なことをしよって! つくづく気に食わぬ小娘だ! あんなものが我が物顔で好き勝手に振る舞うなどと、断じて許せぬ……っ!!」
眦をくわっと吊り上げ、憤怒に満ちた様子はまるで夜叉のようだ。
その表情は、あらゆる負の感情がないまぜになっている。
「そっちがそのつもりならまぁ、よい。……李康!」
「は、はひ!」
仲考が名を呼ぶと、李康と呼ばれた男が声を裏返しながら返事をする。
「例の件はどうなっている?」
「ば、万事抜かりなしです!」
「そうか。……奥の手として取っておくつもりであったが仕方あるまい。この国が手に入らぬというならば、いっそ一度潰してみるまでだ」
ニヤリ、と大きく口元を歪ませる仲考。
その笑みには禍々しさが滲み出ていた。
「春匂国、冬宵国双方に伝えておけ。この国の情報を全て渡す、とな。こうなったら秋波国など徹底的に潰してもらおう。ふふふふははははははは」
真っ赤な返り血を浴びながら高笑いする仲考。
あまりの異様さに上層部の面々はごくりと生唾を飲み込んだ。
このままここにいては巻き込まれる。
そう思うも彼らに選択肢はなく、仲考についていくしかなかった。
「仲考殿。恐れながら、先方にはいつ仕掛けるよう伝達を?」
「準備が整い次第とでも伝えておけ。市中に火を放ち、混乱に乗じて我々は身を隠す。あぁ、そうだ。国を占拠したあかつきには、報酬としてワシが統治する土地を確保することをゆめゆめ忘れるでないと念を押しておけ。秋波国と同等の大きさとは言わぬが、せめてこの国の半分はいただく、とな」
「もちろんでございます。そのように話は詰めておりますゆえ」
「今に見てろよ、小娘。ワシを怒らせたらどうなるか、思い知らせてやる……っ」
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■
警察官は今日も宴会ではっちゃける
饕餮
恋愛
居酒屋に勤める私に降りかかった災難。普段はとても真面目なのに、酔うと変態になる警察官に絡まれることだった。
そんな彼に告白されて――。
居酒屋の店員と捜査一課の警察官の、とある日常を切り取った恋になるかも知れない(?)お話。
★下品な言葉が出てきます。苦手な方はご注意ください。
★この物語はフィクションです。実在の団体及び登場人物とは一切関係ありません。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる