【完結】身代わりの男装姫

鳥柄ささみ

文字の大きさ
上 下
40 / 53

第三十七話 握手

しおりを挟む
「夏風国には武器の供給と共闘をお願いしたい」
「なにゆえ?」
「現状、春匂国と冬宵国が同盟を結んでいる状態。彼らは恐らく我が秋波国と夏風国、それぞれに機を見て攻め込んで来ることでしょう。いや、正確に言えばもう攻め込んで来ている状態だと言っても過言ではないのでは?」
「どうしてそう思うんだい?」
「この流行病は元々冬宵国から来たとか」
「すごいね。そこまで調べたんだ」

 秀英が静かに頷く。
 当初流行病は夏風国のみで流行っているとされていたが、よくよく調べてみると先に死者が出る今回の流行病が出たのは夏風国ではなく冬宵国だった。

 恐らく、冬宵国が流行病に感染した国民を夏風国に入れて感染を広げたのだろう。
 春匂国と冬宵国の情報操作で、夏風国のみで流行っているとされているらしいが。

「夏風国はあまり作物が育たないと聞いています。ですから、冬宵国は我が秋波国ではなく先に夏風国に感染を蔓延させたのでしょう。夏風国は我が国に比べて薬などの知識が少なく、病気の耐性も低いため、戦力を削ぐのに効率がいいでしょうから」
「認めたくはないが確かに事実だね。それで?」
「もし武器の供給と共闘がお願いできるのであれば、我が国は見返りに薬の生成の協力、並びに作物や薬草などをそちらに流通させましょう。これは、お互いにとって悪い話ではないと思いますが」

 秀英が花琳の言葉に黙り込む。

 どうやら思案しているらしい。
 花琳は大人しく彼の言葉を待った。

「もしその案をこちらが飲まなかったら?」
「もちろん、全てなかったことに」
「なるほど? では、今オレがもし君を人質にして、無理矢理我々の要求のみを飲んでもらうことにしたら?」

 秀英の発言に場がピリつく。
 良蘭は一瞬で険しい表情に変わって今すぐ懐刀を取り出し、飛びかかりそうになるのを花琳がスッと手で静止させた。

「残念ながら、先程申し上げました通り、私は人質になりえません。私が死んだほうが都合がいいと思っている者ばかりですから。私が死んでもこの国はただ別の者に乗っ取られるだけです。その者は国のためでも民のためでもなく、自分の益のためにしか動かぬでしょう。つまり、今後一生我が国が夏風国と同盟を組むことはありませんし、ただお互い滅ぼすだけの関係になります。ですから、秀英さまが私を殺しても夏風国にとって何の利もないかと」

 もし花琳が死んだら、間違いなく仲考の独裁政権となる。

 彼の思うままの国。

 短気で自尊心の高い彼は、恐らく自分の思い通りにならないのであれば、他国と手を結ぶことはないはずだ。

「確かに、それは一理あるな。それで、共闘と言ったが、何か考えがあるのか?」
「えぇ、もちろん。さすがに何も持ち合わせていない状態で提案するほど私も愚かではありませんので、策はあります」
「聞かせてもらおうか」
「それは、同盟が確定したあかつきに」

 花琳が駆け引きをすると、秀英は黙ったあとに破顔して声を出して笑った。
 どうやら彼は笑い上戸らしい。

「見事な豪胆さだ。天晴れというべきか。いや、面白いな君は」
「ありがとうございます。それで、前向きに検討していただけますでしょうか?」
「いいよ。同盟を結ぼうじゃないか」
「え? 王に判断していただかなくてよろしいのですか?」

 まさか即決の言葉が返ってくるとは思わず、戸惑う花琳。
 せいぜい、「一度持ち帰ってから検討するよ」などと言った定型的な言葉が返ってくると思っていた花琳にとって、その回答は予想外だった。

「兄上はそういうことに関してはオレに全権預けてくれているんだ。これでも信頼されてるもんでね」
「それは……確かに、よほど信頼されているのですね」
「ってのは半分冗談で半分当たりなのだが、実は夏風国としても秋波国と同盟を結びたいと思ってこちらにオレが出向いていたのさ。ま、一応偵察も兼ねていたのだけど」
「なるほど」

 まさかお互い同じようなことを考えていたとは思わなかったが、同盟を組む上でこのように思考が似通っているのはよい傾向だろう。
 全てが全て順風満帆とはいかないだろうが、無駄な折衝は避けられるなら避けたいのが本音である。

「では、改めて。よろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそよろしく」

 花琳が深々と頭を下げると手を出される。
 それに手を重ねると秀英の大きな手でがっしりと握手をされた。

「それにしても、オレが名を偽るとかは思わなかったのかい?」
「えぇ、そこは。秀英さまは我々を試していらっしゃるようなご様子なのはすぐにわかりましたので」
「そうか。さすがは秋王さまだな。洞察力が素晴らしい」
「恐れ入ります」

 ニコニコと花琳が対外的な笑みを浮かべながら手を引こうとするも、なぜかがっしりと掴まれて秀英は離してくれない。

 花琳が内心どうしようかと考えあぐねていると、「ねぇ」と言われて顔を上げた。

「いっそ、オレたち結婚しない?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

警察官は今日も宴会ではっちゃける

饕餮
恋愛
居酒屋に勤める私に降りかかった災難。普段はとても真面目なのに、酔うと変態になる警察官に絡まれることだった。 そんな彼に告白されて――。 居酒屋の店員と捜査一課の警察官の、とある日常を切り取った恋になるかも知れない(?)お話。 ★下品な言葉が出てきます。苦手な方はご注意ください。 ★この物語はフィクションです。実在の団体及び登場人物とは一切関係ありません。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が私への初恋を拗らせていた〜

岡崎マサムネ
恋愛
アイシャがかつて赤の大魔導師と呼ばれていた前世を思い出したのは、結婚式の当日だった。 まだ6歳ながら、神託に従い結婚することになったアイシャ。その結婚相手は、当代の大魔導師でありながら禁術に手を出して謹慎中の男、ノア。 彼は前世のアイシャの教え子でもあったのだが、どうやら初恋を拗らせまくって禁忌の蘇生術にまで手を出したようで…? え? 生き返らせようとしたのは前世の私? これは前世がバレたら、マズいことになるのでは……? 元教え子を更生させようと奮闘するちょっぴりズレた少女アイシャと、初恋相手をもはや神格化し始めた執着男ノアとの、歳の差あり、ほのぼのありのファンタジーラブコメ! ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

処理中です...