上 下
25 / 52

秘密結社バラクーダ

しおりを挟む
 その金貨を質屋で交換してもらい再度占いオババの所に行くと、既に撤収してしまって居なかった。


 「……帰ってしまったか」

 「あ、これ……」


 と言ってミューが地面に落ちている一枚の小さな紙切れに気が付いた。その紙のおかしさが気になったのだ。


 「やっぱり、これ風の魔法が掛かっています……」


 と言うと同時に手の中の紙切れはミューの風の魔力に影響されて変化した。グレーの只の紙切れに2列の数字が浮かび上がっていく。 


 ”51-931” ”82-123”


 「アキ……これ、何か数字が現れましたけど何でしょう?」

 「うむ、これは何かの暗号か‥‥‥?」


 ハッと気が付いて急いで地図を出して確認すると、その理由が判った。


 「”82-123”はここの番地だな、そして”51-931”は‥‥‥」


 それはここから南にある港の側のようだった。これはある種の賭けだった、あの占いオババを信じるかそれとも罠であるかの。だが、俺はあのオババを信じようと思った。それは初めて出会った時にミューの真実を見抜いたその能力、そして俺の勘だ。


 「面白いじゃないか、これに乗ってやろう」

 「どうするのですか?」


 「その場所に行ってみよう、大丈夫、この国では全土感知が使えるはずだ」

 「今から行きますか?」


 「その前にミュー、おなか減っただろ?俺もペコペコなんだ」


 と言ってそばの高級レストランに入った。腹が減っては仕事は捗らないし金は沢山あるのだ。俺たちはゆっくりと食事を楽しんだ後、徒歩でその港に向かった。時々全土感知を使い、害意のある誰かに追跡されていない事だけ確認できた。


 徒歩一時間程度で夕闇に沈む行くその漁師港に着くとあらかじめ全土感知で確認した通りだった。開けた砂浜に小さい漁師の仕事小屋があるのが見える。恐らくそこに来いという事だったのだ。


 砂浜にでる前に念のために俺とミューでコンビ魔法の全域調査を行った。その姿を他人が見たらラブラブなカップルが夕闇の浜辺で愛を語り合っているかのように見えただろう‥‥‥。2人を見ているのは周囲では黒猫一匹だけだった。


 調査結果、小屋に2人居て片方はオババのようだ。もう一人は男、カールという中年の料理人で風の魔法使いだった。だが、なぜかオババの名前や属性などの情報は得られなかった、少なくとも只の占い師では無いらしい。2人からは敵対する属性は感じなかったので大丈夫だろうと言う事が判った。


 「行こうか」

 「はい」


 俺たちはその扉をドキドキしながらノックする。


 「どうぞ」


 とあのオババの声が帰って来た。


 「失礼する」


 と言って扉を開けると、やはりそこは漁師の狭い農具置き場兼仕事場のようだ。中央のテーブルの上にランタンが下がり燈っていて、小さい作業用のテーブルの向こう側に男とオババが座っていた。準備万端で待っていたという感じだ。


 「よく来たね、どうぞ座って」

 「オババ、この2人が?」


 オババが座ってくれといい、カールは俺とミューをジロジロと観察している。俺の肩に乗っている風君には気が付いていない様子だった。風の魔法使いのはずなのにおかしな事もあるものだと思った。


 「初めまして、俺はアキ、こちらはミューです」


 と先に挨拶をしてから勧められるままに椅子に腰を掛けた。


 「私の事は知っているね?このガサツな男はカールじゃよ、私の仲間だから安心していいよ」

 「カールです初めまして、先ほどは失礼した、噂とはあまりにもイメージが食い違ったので‥‥‥」


 俺たちの事はもう噂になっているようだ。


 「それで、何か話があったと思うのだが」


 と俺の方から切り出した。


 「では、私からご説明しよう、我々はバラクーダという地下組織だ」


 カールは凄い秘密をべらべらと話しはじめた。どうやら政府転覆を狙う地下組織でその構成員は数百人、全員が魔法使いの能力者だという。そして、この世界に偶発的にやって来た異国人が多いとも。


 「まさか、あの黒い渦に吸い込まれて来た人が沢山いるという事なのですか?」

 「ええ、昔から居たのですが‥‥‥政府の組織に捕まってしまった人も多いのです」


 「今はどのくらいいるのですか?」


 数十人だという、その異国人の中には俺達と同郷もいるのだろうか‥‥‥。だがそれ以上に気になったのは政府転覆の理由だった。


 「政府転覆というのは何が理由なのですか?」

 「あの政府はの、世界に破壊と苦しみの闇を撒いておる‥‥‥許しておけぬのじゃ!」


 とオババが腹に据えかねているという風に答えてくれた。 


 「じゃが、未だこちらの戦力が整わず力のあるものを探しておると言う事じゃ」

 「ふ~む‥‥‥」


 俺は少し考えてから前回、管理センターを襲撃した時の話をした。そしてアルを追いかけて軍港の倉庫に作られた転移装置の事も。


 「なるほど、丁度そのくらいから政府の組織改革が始ったわけだな‥‥‥まさかあなた方2人でやってのけるとは」

 「あの建物が同じ場所であるのなら、また同じことをやるのはそれほど難しくはないと思うのですが」


 「ふむ、じゃが今は管理センターは組織改革されてより軍事的に強固な組織になったのじゃ、そして本体は地下にある事までは判って居る」

 「地下‥‥‥」


 「そうじゃ、あの辺り一帯が地下でつながっていて巨大な地下都市のようになっておるのじゃ」

 「そうですか‥‥‥」


 「それと、今は軍港は廃棄されてそこも巨大な軍事施設になっておる」

 「それは厄介そうですね」


 「ですが、こちらにも5スターズという戦力もあるのです」


 と、カールが割って入った。それが彼らのトップ5のエリート能力者だという。


 「グスタフ、メロエ、リーフ、サリナ、カイラスこの5人は我々の隠し玉なのですが、それぞれが局地戦レベルでは軍隊と同等の戦力をもっています」

 「凄いじゃないですか」


 「ですが、政府軍にも切り札があって、ダストボックスと我々は呼んでいますが、それのせいで力を発揮できないのです」

 「‥‥‥厄介ですね、どういうモノなのですか?」


 彼の説明によれば、それは黑くて表面に紋様が刻まれていて‥‥‥まるでそれは俺が遺跡で見つけた精霊気の吸引箱そっくりだった。


 「もしかして、それに触れると化け物になったりしませんか?」

 「それをご存知とは!!ええ、その通りですがそれは我々の中でもトップシークレットなのです‥‥‥」


 「実はそれと同じものを別の世界で見つけた事があるのです、何とか破壊しましたが‥‥‥」


 俺が説明するとオババとカールは顔を見合わせて唸った。


 「凄い!どうやってあれを壊したのですか?」

 「土の魔法で破壊しました」


 納得できないという様子だったので、近くにあった使い古されて放置されている漁具で実演して見せた。


 「デコンポジション」


 すると、その軽石で出来た漁具は徐々に分解還元されて砂になった。


 カールとオババはそれを見て言葉を失っていた。

しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ
ファンタジー
 シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。  あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。  テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...