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邂逅
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その日、夜が明ける前にラセル達は旅に出た。
「街中にはダークエルフ族はいないんだな」
「まぁ、滅多に見ないだろうな」
ラセルが朝の帝都の中を歩きながらそれとなく訊くと王子もそう答える。
「僕はダークエルフをこの前初めて魔境で見たんだよね」
「イシュタルはどうか知らないが、帝国では奴隷市場で時々見るようだぞ」
「ふーん」
「抱くエルフってなガハハ」
「あはは……」
後ろのミレーネが呆れているのがラセルには超知覚でわかる。
王子のブラックジョークを聞きながら歩いていると、ラセルはなにか不思議な感じを味わっていた。
その違和感の原因をツラツラと考えて気がついた。
それは、王子が自分と勝負した時とはまるで別人のように穏やかであることだ。
彼が「親離れ」したからと考えてもしっくり来ない程の変化に思える。
王子の釣り上がってる太い眉毛も下がって見える程である。
「ええーい退けどけーい!!」
ドドドドドドド……
その時、朝市の混雑している帝都の大通りを帝国の騎馬隊が逆方向から走ってきた。
王子がサッとショートシールドで顔を隠す。
「あれは、トルドーの叔父貴の遊撃隊だな……帝都警備隊から昨晩の襲撃の連絡が行ったのだろうよ」
三人で道の脇に避けてやり過ごすと、その一団を見た王子が呟いた。
王子の言葉を聞いたラセルは気になっていた事を訊ねる。
「訊いて良いかな?」
「なんだ?」
「これから……帝国はどうなっていくんだろう」
「帝宮は壊滅したからな、それを確認した叔父貴達がどうするか俺にはわからん、ただ……」
「ただ?」
「一度崩壊したバランスがもとに戻るまでには暫く隣国を巻き込んで戦争になるかもしれんな」
王子は初めて軍師のような見解を言う。
「隣国というと?」
「そうだな、内戦化するかどうかにもよるが帝宮の秘密兵器が粉砕されたのを確認されたら皇国がまず動くだろう」
「侵略?」
「実際に目に見える形をとるかどうかは判らんがな」
「へぇ……」
「スパイは何処にでもいるものだ」
王子はなにか意味深に言う。
「ま、そんな事より飯にしようか」
王子は深刻になりかけた表情を和らげて……腹が減ったという。
世界的な謀略や争いの話しより、美味い飯のほうが今の三人には必要だった。
それで、朝市のそばで開店している飯屋に三人で入った。
三人でテーブルを囲む姿はまるで冒険者そのものである。
誰も王子の素顔などは知らないので、傍目には見知らぬ三人の冒険者が朝食をとっているとしか思われない。
が、そんな食事中に意外な声がかかった。
「ラセル!」
ラセルはその声で振り向くまでもなく、それがリーナのものであることが判った。
リーナは少しやつれた様子で、なぜかラセルのタワーシールドを担いでいた。
「……リーナ」
一瞬、ラセルはリーナの真意を計りかねて口籠る。
……リーナはなぜ帝国まで来ているのか?一人で来ているのか?
……僕をつけて来たとしか思えないが、それはやはり暗殺者を手引きするためなのか……?
「あれ?この方達は?」
リーナは見慣れない二人を見てラセルに訊ねた。
その声には特に害意があるわけでは無いことをラセルの超知覚が教えてくれる。
リーナは純粋に、ラセルと同席している見慣れない二人を見て驚いているだけのようだ。
それでラセルは一旦リーナがやってきた理由は置いといて、彼女に二人を紹介することにした。
「二人は僕の旅仲間で、こちらはダリウ……」
「俺はダリューだ、お嬢さんはラセルの知り合いかい?よろしくな」
ラセルがうっかり王子の名前を出しそうになると、王子はダリューと名乗った。
「そう、こっちがダリューで隣の彼女はミレーネだ、そして彼女は僕の幼馴染のリーナだよ」
「これはご挨拶が遅れました私ミレーネと申します、幼馴染のリーナさん」
ラセルに紹介されてからミレーネが自己紹介をしたが、その言葉には何か棘があるように感じた。
それはリーナにも通じたようで彼女の顔が少し引き攣る。
そんな顔をするリーナを初めて見たラセルは少し驚いて吹き出しそうになる。
「……リーナです……」
リーナは居心地が悪そうにそういうと、ラセルは助け舟を出してやることにした。
「こっちの席に座りなよ、一緒にご飯を食べよう?」
ラセルはリーナに四人席の空席、ダリューの隣を手で指して勧めた。
「そ、それじゃお邪魔しちゃおうかしら」
いつもの軽薄な調子が空回りしてリーナが言った。
「おう、朝から賑やかになって良いな、旅はこうでなくちゃな」
そんなリーナの緊張を察知したかのようにダリューが気を利かせて言った。
「それで、何を食べる?」
「あ、あたしも皆んなと同じもので」
「街中にはダークエルフ族はいないんだな」
「まぁ、滅多に見ないだろうな」
ラセルが朝の帝都の中を歩きながらそれとなく訊くと王子もそう答える。
「僕はダークエルフをこの前初めて魔境で見たんだよね」
「イシュタルはどうか知らないが、帝国では奴隷市場で時々見るようだぞ」
「ふーん」
「抱くエルフってなガハハ」
「あはは……」
後ろのミレーネが呆れているのがラセルには超知覚でわかる。
王子のブラックジョークを聞きながら歩いていると、ラセルはなにか不思議な感じを味わっていた。
その違和感の原因をツラツラと考えて気がついた。
それは、王子が自分と勝負した時とはまるで別人のように穏やかであることだ。
彼が「親離れ」したからと考えてもしっくり来ない程の変化に思える。
王子の釣り上がってる太い眉毛も下がって見える程である。
「ええーい退けどけーい!!」
ドドドドドドド……
その時、朝市の混雑している帝都の大通りを帝国の騎馬隊が逆方向から走ってきた。
王子がサッとショートシールドで顔を隠す。
「あれは、トルドーの叔父貴の遊撃隊だな……帝都警備隊から昨晩の襲撃の連絡が行ったのだろうよ」
三人で道の脇に避けてやり過ごすと、その一団を見た王子が呟いた。
王子の言葉を聞いたラセルは気になっていた事を訊ねる。
「訊いて良いかな?」
「なんだ?」
「これから……帝国はどうなっていくんだろう」
「帝宮は壊滅したからな、それを確認した叔父貴達がどうするか俺にはわからん、ただ……」
「ただ?」
「一度崩壊したバランスがもとに戻るまでには暫く隣国を巻き込んで戦争になるかもしれんな」
王子は初めて軍師のような見解を言う。
「隣国というと?」
「そうだな、内戦化するかどうかにもよるが帝宮の秘密兵器が粉砕されたのを確認されたら皇国がまず動くだろう」
「侵略?」
「実際に目に見える形をとるかどうかは判らんがな」
「へぇ……」
「スパイは何処にでもいるものだ」
王子はなにか意味深に言う。
「ま、そんな事より飯にしようか」
王子は深刻になりかけた表情を和らげて……腹が減ったという。
世界的な謀略や争いの話しより、美味い飯のほうが今の三人には必要だった。
それで、朝市のそばで開店している飯屋に三人で入った。
三人でテーブルを囲む姿はまるで冒険者そのものである。
誰も王子の素顔などは知らないので、傍目には見知らぬ三人の冒険者が朝食をとっているとしか思われない。
が、そんな食事中に意外な声がかかった。
「ラセル!」
ラセルはその声で振り向くまでもなく、それがリーナのものであることが判った。
リーナは少しやつれた様子で、なぜかラセルのタワーシールドを担いでいた。
「……リーナ」
一瞬、ラセルはリーナの真意を計りかねて口籠る。
……リーナはなぜ帝国まで来ているのか?一人で来ているのか?
……僕をつけて来たとしか思えないが、それはやはり暗殺者を手引きするためなのか……?
「あれ?この方達は?」
リーナは見慣れない二人を見てラセルに訊ねた。
その声には特に害意があるわけでは無いことをラセルの超知覚が教えてくれる。
リーナは純粋に、ラセルと同席している見慣れない二人を見て驚いているだけのようだ。
それでラセルは一旦リーナがやってきた理由は置いといて、彼女に二人を紹介することにした。
「二人は僕の旅仲間で、こちらはダリウ……」
「俺はダリューだ、お嬢さんはラセルの知り合いかい?よろしくな」
ラセルがうっかり王子の名前を出しそうになると、王子はダリューと名乗った。
「そう、こっちがダリューで隣の彼女はミレーネだ、そして彼女は僕の幼馴染のリーナだよ」
「これはご挨拶が遅れました私ミレーネと申します、幼馴染のリーナさん」
ラセルに紹介されてからミレーネが自己紹介をしたが、その言葉には何か棘があるように感じた。
それはリーナにも通じたようで彼女の顔が少し引き攣る。
そんな顔をするリーナを初めて見たラセルは少し驚いて吹き出しそうになる。
「……リーナです……」
リーナは居心地が悪そうにそういうと、ラセルは助け舟を出してやることにした。
「こっちの席に座りなよ、一緒にご飯を食べよう?」
ラセルはリーナに四人席の空席、ダリューの隣を手で指して勧めた。
「そ、それじゃお邪魔しちゃおうかしら」
いつもの軽薄な調子が空回りしてリーナが言った。
「おう、朝から賑やかになって良いな、旅はこうでなくちゃな」
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