アイテムマイスター物語〜ゴミスキルで能無し認定された主人公はパーティーから追放され好き勝手に生きる事に決めました

すもも太郎

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宰相の悩み

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 一方、アツシリム皇国の宰相ミリアムは悩んでいた。

 悩みはいくつもあったが、今はラセルの調査ファイルを開いてため息をついていた。


 以前、緊急会議を行ないラセルの取り扱いの一切を仕切ることになってから彼の身辺調査を行なった。

 その結果、彼を知れば知るほど懐柔して皇国の所属にすべきだということが判明していたのだ。

「アッカーマンの洞察は的確だったか」

 軍師アッカーマンが初めに彼を懐柔しようと言ったのは正鵠を射ていた。

 ミリアムは軍師のスキルは侮れないと感じる。

 
 報告書によるとラセルは……


 人格は温和で能力は高いがそれを見せびらかすような事もない。

 他人とのトラブルは起こさないし、誰かを憎むような気質でもない。

 彼の人となり、これまでのキャリアを円グラフにしてミリアムは唸っていた。

「稀に見る良物件ではないか」

 だが、以前暗殺者を派遣したことで彼の行方はわからなくなっていた。

「彼の性格からして皇国に乗り込んでくるようなことはしまいが……」

 今更土下座したとしても皇国の所属になってくれるようにも思われなかった。


 パタン……

 彼のファイルをしまい、今度は逃亡した元アサシンの調査報告書を開く。

「自爆装置の感知範囲を大きく超えてしまえばどうにもならんか……」

 皇国の便利な破壊装置として活動していたアサシンも、いざ裏切れば皇国の喉元に突きつけられる危険な刃物になる。

 その件については中魔研のウィリアムからは特別なコメントが書かれていた。

「新型の開発が順調に進んでいるので例え裏切りもののシードが皇国に刃向かってきても対処できる」

 などと、言い訳じみた一文が記載されている。

 ……そもそもそのような状況を作りだしてしまう事自体が問題なのだが。

 ミリアムはこの件についてはもう完全に自分の手には負えないと感じていた。

 政治的に解決困難であれば、良くも悪くもウィリアムの研究に頼らざるをえなかった。


 パタン……

 次に半属国のイシュタルからの報告書で、イシュタルから逃亡した冒険者四名の身柄保護依頼である。

 時々近隣の弱小諸国からの亡命願いはあるので特に気にはならなかったが、唯一気になったのは記憶不全であるということだった。

 亡命自体は通常、身体が健全である場合がほとんどであるのに、全員の記憶が一部不明というのは……。


「レガーの奴だろうな」


 ミリアムは一瞬でそれを見抜いた。

 記憶を消して国外追放という処置は皇国でも時々あるので分かりやすい事例だった。

 問題なのは、記憶が一部消失しているにもかかわらず横暴な貴族のような振る舞いをして保護官を困らせているという。

 その程度であれば政治的解決も容易ではあるが、皇国の権力中枢の貴族から横槍が入り保護活動を妨害されていた。

「面倒ごとは、いっそその貴族に引き取らせるか」

 皇国の法令では一定期間は保護官による身体検査や隔離処置が必要であったが、特例として追放同然に貴族に引き渡す書類にサインをした。


 パタン……


「さてと……」

 最終報告書というファイルを開いてそこに記載されている皇位継承資格を持つミレーネ姫の消息についての書類を読む。

「やはり生死不明なままか」

 その件はなぜか調査が開始されてからわずか半月で最終報告行きとなっていて、ミリアムの眉間の皺が深くなる。

 皇国の上層部の権力闘争があったとは聞いていたが、これほど早くに捜査打ち切りになるとは思っていなかった。

 ミリアム自身も皇位継承20位に位置していたが、幼少の頃の無邪気な笑顔のミレーネを知っているだけである。

 ……上位の家系は魑魅魍魎が跋扈している。

 それを嫌でも思い知らされる事件であった。

 なにしろ、行方不明になった途端に捜査を打ち切れという暗黙の脅しがやってきたのだ。

 それでも細々と捜査を続けているうちにさまざまなところから横槍が入り、執政にすら影響が出始めて捜査は早々に打ち切りとなってしまった。


 ミリアム自身は皇位を継承する機会がほぼないので比較的気楽に仕事に没頭していられてたが、今後上位継承者と会うたびに嫌な気分になるのは避けられなかった。

 そんな事件ファイルをパタンと閉じて目をつぶる。


「やはり……どうにかして手に入れたいものだな」

 真っ先にラセルのことが目に浮かびつぶやいた。

 今のところ帝国との闘争は小康状態を維持していたが、いざ大戦となった時には絶大な戦力になるに違いないのだ。

 ……それに

「面白そうな青年じゃないか」

 ミリアムは個人的にラセルに会ってみたいという気になってきていた。

 トントン!

 ミリアムはふと指で机を叩いて影を呼び出した。

「お呼びですか」

「うむ、ラセルの調査を極秘でやってほしい」

「はい……ふふ、彼のことがお気に召したようですね」

「そうか?」

「ええ、そのように見えます」

 影が通信を切って消えた後にデスクの鏡を見て、笑顔が張り付いているのに気がついた。

「そうか……そうかもな」

 ミリアムは少し気分が良くなって部屋を出ていった。
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