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大問題
しおりを挟む その頃、ギルドからの報告を受けた特務室長のレガーは頭を抱えていた。
「こんなものをどうしろと言うのか……」
そのふざけた数字が並べられている報告書を前に彼は眉間に深いシワを寄せ顎髭をゴリゴリと音がするまで強く掻いていた。
これから本格的にラセルの調査を開始しようかと考えていた矢先、ギルドの方から報告が来て初めは喜んでいたのだが……。
「何かの間違いであってほしいものだ」
それで久しぶりに変装をして彼自らがギルドに出向き真相を確かめることにした。
「久しいなテッド」
その日、旅人風にダークな帽子とマントで装ったレガーはギルドのカウンターに赴き、懐から下げた特務室長のバッジをチラリとギルマスに見せた。
「室長自らお出でとは……」
「シー!名を出さぬように頼む」
「はい、それで……いえ、お越しになった理由はわかってます」
「それならば話は早い、あれは計器の故障ではないのか?」
「いえ、なんど試しても故障とは断定出来ませんでした」
「……まさか、真なる値であると?」
「他には説明のしようがありません、詳しいお話は裏で致します」
二人が事務所に入りソファーに座ると、カウンター嬢がやや緊張した面持ちでお茶のセット運んで来て去っていった。
「スキャン」
レガーが懐からペンダントを取り出すと一言スキルを発動した。
「ここでは盗聴の類はありません」
ギルマスのテッドが真面目な顔でいう。
「そのようだな、では本題に入ろうか……」
「はい、私も彼の数値は異常であると思い何度も確認してみたものの、計器の異常ではありません、ただ……」
「ただ?」
「呪いのアイテムを使っている為なのだと、彼自身から聞かされました」
「なに?……それはおかしな話ではないか」
「ええ、それも訊きましたが……呪いの指輪をスキルで自在につけ外しでき、呪いの効果を逆に利用できるのだと……」
「なんと?!」
「まあ、半信半疑で聞いてましたが」
「……そんな事がありえるのだろうか」
それはレガー自身の自問自答であった。
「だが……仮に可能とすれば……呪いの指輪の類は装備者の何らかの能力を高める反面主たる能力を1/10に落とす闇アイテムであったハズだが」
レガーは髭を擦りながら推測した。
「はい、おっしゃる通りです」
「逆に利用とは、主たる能力を10倍増すると言う……まさかそんな事が……」
「この数値を見る限り、その推測はほぼ当たっているかと思われます」
テッドは少し前に計測したラセルの数値と、指輪装着後の数値の比較をニ枚の紙に並べて示した。
「……なるほど、それならば推測通りか……」
レガーはもう良いと言って全ての資料をしまわせた。
眉間のシワはより一層深くなり、レガーは髭を擦るのを止めた。
「良いか、これは大問題なのだ……まずその資料を全て燃やせ」
「はい……」
テッドはレガーがなぜ苛ついているのかピンとこない。
「それからこのことを知っている者に他に漏らさぬようにせよ」
「はぁ……私の知る限りではギルドでは私だけであります」
「それは良かった……だが……」
「広く知られたらどうなりますか?」
「恐らく……彼は世界の敵になるだろう」
「え?そんな……悪い奴ではないのですが」
「判らぬか?世界はどこまでも力の均衡で成り立っているのだ」
「彼がそれを破壊すると?」
「彼にその意志が無くとも周りが恐怖すれば同じ事になる」
「具体的には……どの程度の力であるのでしょう?」
「ざっくり計算すると王国軍の半分に近いだろう」
「……」
テッドはレガーの推測に唖然とする他無かった。
「今現在であればだ、今後さらに強化する方法を編み出したら……」
「まさか……国を滅ぼすような?」
「出来るか出来ないかに依らず、各権力者はそのように恐怖するかもしれない」
「恐怖心とは厄介ですな」
「その通り、権力者の恐怖心こそ平和の最大の妨げとなり得るのだ……」
「ではどうすれば宜しいのでしょうか?」
「……無かったことにする他ない」
「握りつぶすのですか?」
「うむ……この私の身命にかけて握りつぶす」
その決意表明はテッドの心を打つのに十分であった。
「判りました、私もできる限り協力します」
「うむ……頼む」
「こんなものをどうしろと言うのか……」
そのふざけた数字が並べられている報告書を前に彼は眉間に深いシワを寄せ顎髭をゴリゴリと音がするまで強く掻いていた。
これから本格的にラセルの調査を開始しようかと考えていた矢先、ギルドの方から報告が来て初めは喜んでいたのだが……。
「何かの間違いであってほしいものだ」
それで久しぶりに変装をして彼自らがギルドに出向き真相を確かめることにした。
「久しいなテッド」
その日、旅人風にダークな帽子とマントで装ったレガーはギルドのカウンターに赴き、懐から下げた特務室長のバッジをチラリとギルマスに見せた。
「室長自らお出でとは……」
「シー!名を出さぬように頼む」
「はい、それで……いえ、お越しになった理由はわかってます」
「それならば話は早い、あれは計器の故障ではないのか?」
「いえ、なんど試しても故障とは断定出来ませんでした」
「……まさか、真なる値であると?」
「他には説明のしようがありません、詳しいお話は裏で致します」
二人が事務所に入りソファーに座ると、カウンター嬢がやや緊張した面持ちでお茶のセット運んで来て去っていった。
「スキャン」
レガーが懐からペンダントを取り出すと一言スキルを発動した。
「ここでは盗聴の類はありません」
ギルマスのテッドが真面目な顔でいう。
「そのようだな、では本題に入ろうか……」
「はい、私も彼の数値は異常であると思い何度も確認してみたものの、計器の異常ではありません、ただ……」
「ただ?」
「呪いのアイテムを使っている為なのだと、彼自身から聞かされました」
「なに?……それはおかしな話ではないか」
「ええ、それも訊きましたが……呪いの指輪をスキルで自在につけ外しでき、呪いの効果を逆に利用できるのだと……」
「なんと?!」
「まあ、半信半疑で聞いてましたが」
「……そんな事がありえるのだろうか」
それはレガー自身の自問自答であった。
「だが……仮に可能とすれば……呪いの指輪の類は装備者の何らかの能力を高める反面主たる能力を1/10に落とす闇アイテムであったハズだが」
レガーは髭を擦りながら推測した。
「はい、おっしゃる通りです」
「逆に利用とは、主たる能力を10倍増すると言う……まさかそんな事が……」
「この数値を見る限り、その推測はほぼ当たっているかと思われます」
テッドは少し前に計測したラセルの数値と、指輪装着後の数値の比較をニ枚の紙に並べて示した。
「……なるほど、それならば推測通りか……」
レガーはもう良いと言って全ての資料をしまわせた。
眉間のシワはより一層深くなり、レガーは髭を擦るのを止めた。
「良いか、これは大問題なのだ……まずその資料を全て燃やせ」
「はい……」
テッドはレガーがなぜ苛ついているのかピンとこない。
「それからこのことを知っている者に他に漏らさぬようにせよ」
「はぁ……私の知る限りではギルドでは私だけであります」
「それは良かった……だが……」
「広く知られたらどうなりますか?」
「恐らく……彼は世界の敵になるだろう」
「え?そんな……悪い奴ではないのですが」
「判らぬか?世界はどこまでも力の均衡で成り立っているのだ」
「彼がそれを破壊すると?」
「彼にその意志が無くとも周りが恐怖すれば同じ事になる」
「具体的には……どの程度の力であるのでしょう?」
「ざっくり計算すると王国軍の半分に近いだろう」
「……」
テッドはレガーの推測に唖然とする他無かった。
「今現在であればだ、今後さらに強化する方法を編み出したら……」
「まさか……国を滅ぼすような?」
「出来るか出来ないかに依らず、各権力者はそのように恐怖するかもしれない」
「恐怖心とは厄介ですな」
「その通り、権力者の恐怖心こそ平和の最大の妨げとなり得るのだ……」
「ではどうすれば宜しいのでしょうか?」
「……無かったことにする他ない」
「握りつぶすのですか?」
「うむ……この私の身命にかけて握りつぶす」
その決意表明はテッドの心を打つのに十分であった。
「判りました、私もできる限り協力します」
「うむ……頼む」
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