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インフレの朝
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お目当てのパン屋の屋台は直ぐに見つかった。
朝早かったらしく、パン屋は店を開けたばかりのようだ。
「やぁ、ロングパンを1つくれないか?」
「あいよ、銀貨3枚だよ」
「え?……銀貨3枚かい?」
聞き間違いかと思い、ラセルは復唱するように訊き返した。
無愛想な屋台の婆さんは怪訝そうにしてラセルを見返しながら返事をする。
「そうだよ買わないのかい?」
「……いつの間にそんな値段に、この間は銀貨1枚だったと思うけど」
そうこうしている間に後ろからやってきた何処かの召使い風の女性が婆さんに金貨3枚を渡して袋に入ったパンを丸ごと買い取って行った。
「はい、毎度ね」
婆さんは相変わらずニコリともせず短い挨拶の後に金をしまう。
ゴクリ…
思わずラセルはつばを飲み込み余りの値段の高さに冷や汗をかいていた。
「いつからこんなにも高くなったのだい?」
「割と最近さね、街道の商隊が相次いで襲われるようになったからね、小麦粉が手に入らないのさ……小麦粉だけじゃないがね」
「……なるほど」
そんな話をしていると更に後から後から客がやってきて婆さんから次々とパンを買っていく。
「ああ……」
「はい、今日はもう売り切れだよ」
ラセルの目の前でパンはあっという間に売り切れてしまった。
グルゥ……
空腹で腹がなる音がしてラセルを更に情けない気分にさせる。
「まさか……他の食い物も高騰してはいまいか……?」
店を畳む支度をしている婆さんにそれとなく訊くと首を左右に振る。
「そりゃそうさね、何せ大都会だからね」
「……そうなのか」
事態は思った以上に深刻なようだった。
こんなにも値段が高くなると自分のように食い物にありつけない下層の住民が沢山居るはずではないか?
「これは……」
大変だと言おうとした瞬間に別の所からその悲鳴があがった。
「大変!だれか~だれか~」
ラセルが振り向くと先程パンを袋買いしていった召使い風の女性が立ちすくんで叫んでいる様子だ。
女性の視線の先を見ると、パンの袋を担いで走り去る子供達の姿が人垣の隙間からチラチラと視界に入った。
「……なるほど」
この大都会の王都では皆生きるのに必死なのだ。
「盗みは良くないが……」
かと言って空腹の子供達を捕まえるのは気が進まなかったし、それに走って追いかけると腹が減る。
結局、朝一で何も買うことが出来ないままラセルはギルドに戻ることにした。
ギルドに戻るとニコル達の姿はもう見えなかった。
それで今度こそクエストの依頼書をカウンターに差し出して正式に依頼を請ける事にする。
「これを頼みたい」
「どれ……1人でか……?」
ギルマスはラセルに1人で大丈夫なのか?と訊いていた。
表情には表さないが明らかにラセルを心配している事が感じられる。
「多分」
そもそも今は誰とも組む気分ではない。
極度の人間不審から脱却出来ない今のラセルが信じられるのはギルマスくらいなのだ。
「そうか、あまり無理はしないこった」
ギルマスはそう言いながらクエストの依頼書に受付のサインを書き込んでラセル返した。
「分かっているさ」
相手はサンドゴーレム。
重戦士のジョブなら申し分ないが武装がアイアンタワーシールドのみというのが心もとない。
……いや、サンドゴーレムは大抵は別のサポートモンスターとつるんでいるから、寧ろそちらの方が気になる。
いざとなってられる鈍足のサンドゴーレムから逃げ切ることは容易でも囲まれてしまう危険は避けたいのだ。
「なるようになるさ」
その日、初めて前向きな言葉が口からでてラセル自身驚いた。
朝早かったらしく、パン屋は店を開けたばかりのようだ。
「やぁ、ロングパンを1つくれないか?」
「あいよ、銀貨3枚だよ」
「え?……銀貨3枚かい?」
聞き間違いかと思い、ラセルは復唱するように訊き返した。
無愛想な屋台の婆さんは怪訝そうにしてラセルを見返しながら返事をする。
「そうだよ買わないのかい?」
「……いつの間にそんな値段に、この間は銀貨1枚だったと思うけど」
そうこうしている間に後ろからやってきた何処かの召使い風の女性が婆さんに金貨3枚を渡して袋に入ったパンを丸ごと買い取って行った。
「はい、毎度ね」
婆さんは相変わらずニコリともせず短い挨拶の後に金をしまう。
ゴクリ…
思わずラセルはつばを飲み込み余りの値段の高さに冷や汗をかいていた。
「いつからこんなにも高くなったのだい?」
「割と最近さね、街道の商隊が相次いで襲われるようになったからね、小麦粉が手に入らないのさ……小麦粉だけじゃないがね」
「……なるほど」
そんな話をしていると更に後から後から客がやってきて婆さんから次々とパンを買っていく。
「ああ……」
「はい、今日はもう売り切れだよ」
ラセルの目の前でパンはあっという間に売り切れてしまった。
グルゥ……
空腹で腹がなる音がしてラセルを更に情けない気分にさせる。
「まさか……他の食い物も高騰してはいまいか……?」
店を畳む支度をしている婆さんにそれとなく訊くと首を左右に振る。
「そりゃそうさね、何せ大都会だからね」
「……そうなのか」
事態は思った以上に深刻なようだった。
こんなにも値段が高くなると自分のように食い物にありつけない下層の住民が沢山居るはずではないか?
「これは……」
大変だと言おうとした瞬間に別の所からその悲鳴があがった。
「大変!だれか~だれか~」
ラセルが振り向くと先程パンを袋買いしていった召使い風の女性が立ちすくんで叫んでいる様子だ。
女性の視線の先を見ると、パンの袋を担いで走り去る子供達の姿が人垣の隙間からチラチラと視界に入った。
「……なるほど」
この大都会の王都では皆生きるのに必死なのだ。
「盗みは良くないが……」
かと言って空腹の子供達を捕まえるのは気が進まなかったし、それに走って追いかけると腹が減る。
結局、朝一で何も買うことが出来ないままラセルはギルドに戻ることにした。
ギルドに戻るとニコル達の姿はもう見えなかった。
それで今度こそクエストの依頼書をカウンターに差し出して正式に依頼を請ける事にする。
「これを頼みたい」
「どれ……1人でか……?」
ギルマスはラセルに1人で大丈夫なのか?と訊いていた。
表情には表さないが明らかにラセルを心配している事が感じられる。
「多分」
そもそも今は誰とも組む気分ではない。
極度の人間不審から脱却出来ない今のラセルが信じられるのはギルマスくらいなのだ。
「そうか、あまり無理はしないこった」
ギルマスはそう言いながらクエストの依頼書に受付のサインを書き込んでラセル返した。
「分かっているさ」
相手はサンドゴーレム。
重戦士のジョブなら申し分ないが武装がアイアンタワーシールドのみというのが心もとない。
……いや、サンドゴーレムは大抵は別のサポートモンスターとつるんでいるから、寧ろそちらの方が気になる。
いざとなってられる鈍足のサンドゴーレムから逃げ切ることは容易でも囲まれてしまう危険は避けたいのだ。
「なるようになるさ」
その日、初めて前向きな言葉が口からでてラセル自身驚いた。
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