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カレンの決断

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「魔、魔人って?」

 唖然となったカレンが訊く。

「ギーグは魔人だった、僕の鑑定に間違いはない」
「本当なの?」

 僕が断言するとリーサも訊く。

「ああ、絶対だ、けど今までなぜ気が付かなかったのだろう……」
「それは……違うのだ」

 僕がおかしいと言うとカレンがそうではないと言う。

「どういう事だ?」
「あれは……おそらく帝国のせいだ」

 カレンが拳を握りしめて言った。

「帝国がゴーストだとか言う……」

 その後、カレンは今までの経緯を話した。ギーグはその薬のせいで壊れて魔人に転生したのだという事らしい。僕が鑑定で視た、ギーグ死亡はその転生の瞬間だったようだ。

「ごめんなさい、あたし、そんな事になるなんて知らなくて……」

 リーサが後悔の念で泣きそうになっていた。

「魔人などになると判っていたらこの手で始末してやったものを……」

 カレンが偉そうに言う。

「カレンのせいだ」

 僕が決めつける。

「なに!?」

 責任を負わずに逃げようとするその態度にムカついて、僕はカレンを責めた。

「カレンが僕を帝国に売り飛ばそうとしなければこんな事にならなかったはずだ」
「だが、しかし……」
「パーティーの損害は全部リーダーであるカレンの責任だろう」
「ぐ……」
「ニースちゃん、もうやめて」

 僕がカレンを追い詰めるといつものようにリーサが仲裁に入る。

「僕はカレンを許さない」
「……」
「ダメ、許してあげて」
「どうしてもというのなら条件がある」
「!?」

 カレンが俯いた顔を上げて僕をみた。

「僕のシモベになる事だ」
「な!?」
「ええ!」

 カレンが口を開けて驚き、リーサは両手で口を押えていた。
 僕がまさかそんな事を言い出すなんて思っても居なかったのだろう。

「カレンは散々僕を下僕扱いしてきたじゃないか?」
「……それは」
「だから今度はカレンが僕のシモベになる番だ」
「そんな、ダメよニースちゃん」

「それが僕がカレンを許す条件だ」
「……そうか」

 そういうとカレンは踵を返し、少し離れたところに転がるサイファの遺体を抱き上げて馬車に乗せた。

「おい!行くぞリーサ」

 カレンはいつも通りイケメンボイスで号令をかける。

「ニースちゃん……」

 リーサは僕を寂しそうに見つめながら馬車に戻り、そして馬車はUターンして帝国に戻っていった。



 帝国に戻ったカレンが作戦の失敗報告をすると軍師セニアの顔色が変わった。

「それでおめおめと帰って来たのか!?」
「申し訳ございません」

 セニアの叱責をカレンは何処か他人事で聞いていた。未だに、ニースにシモベになれと言われた事が堪えていたのだ。

「申し訳ございませんでは済まんのだ!」
「と申しますと?」
「死刑だ」

 セニアは自分の事を言っていた。このままでは間違いなく冷酷な皇帝ゼルに処刑される。

「死刑……」

 それはカレンにとって凡そ実感のない言葉であった。いくら作戦が失敗したと言ってもたかがニース一人の確保に失敗しただけである。何万人の部下を敗戦で失ったわけではないのだ。

「ああ……あああ……このままでは」

 セニアは狼狽えて、それで何かを思いついたように言う。

「そうだ!その死亡したお前の仲間を使って逃れるのだ!」
「はぁ?」

 カレンはその言葉でキレていた。いくらなんでもそれは元仲間の死に対する冒とくが過ぎる。

「失礼する!」

 カレンは報告途中であったが、魔人化したギーグの事を報告せずにその場を立ち去った。

「おい!待て!待つのだ!」

 セニアが絶叫するなか皇帝宮を早歩きでマントを翻し、カレンは歩き去った。

 カレンは帝国にとことん嫌気がさしてしまっていた。だが、このままでは逃亡罪で死刑であることも判っている。

「おい、リーサ!行くぞ!」

 カレンは外で待っていたリーサに声を掛けて馬車に乗り込んだ。

 カレンが御者をして急いで帝都を南下し、旧街道を使って王国を目指した。

 公国も、獣人国も皇帝の手先がウヨウヨいて、逃げ込んでもいずれ捕縛されるのは時間の問題だと判っていたので王国に逃げ込む事にしたのだ。

「カレン、どこに行くの?この道だと王国方面よ?」
「……王国に行く」

 カレンはニースから言われた言葉が胸に刺さっていた。パーティーの全責任はリーダーにある。
 それはその通りであり、今はリーサをどうしても守らなければならないと感じていたのだ。

「本当!」
「勿論だ」

 カレンの言葉でリーサが喜んだ。それはニースにまた会えるからだったが、カレンは気が重かった。

「ニースちゃんに謝ればきっと許してくれるわよ」
「だと良いな」

 リーサが楽観的な事を言い、カレンは一応それに乗る事に決めた。

 ”悩んで居ても仕方がない、出たとこ勝負”

 それはカレンの生きざまだったのだ。
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