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リジー

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「ねぇリジーさん」
「なぁに?」

 リジーさんは高級酒を呑んですっかり上機嫌になりにこにこして訊き返す。

「帝都の冒険者ギルドにはSランクの鑑定師はいるのかい?」
「いないわね」

「……それではSランクの冒険者は何人くらい居るのかな?」
「そうね、5人くらいね」

 リジーは綺麗に手入れされた指を折って数えて言う。

「5人か……」

 それは予想よりは少なかった。もう少し居てもいいくらいなのだが。

「ねぇ、お仕事の話はよしましょう」

 リジーは酔ってトロんとした目で僕を見て言う。

 折角ギルドでの仕事を終え、息抜きで酒を飲んでいるのだから当然だった。

「ああ、ごめんね」
「あたしはニースさんの事がもっと知りたいわ」

「例えば?」
「そうねぇ、彼女とか居るのかしら?」

 その質問で元の冒険者パーティーのリーサの笑顔が浮かんでドキリとする。

 彼女を置いて走って逃げだした事が今でも胸にこたえていたのだ。

「今は、いないよ……」
「本当かしら?」

 僕の反応を見てリジーが言った。

「そもそも僕には彼女なんていう特定の相手は居なかったよ」

 僕は年中クエストに明け暮れていたし、おまけに金欠で自信もなかったのだ。

 それに比べ今は大金を手に入れ、王宮ではVIP待遇で夢見心地である……が。

「ふーん、でもその顔は今でも想い人が居るって顔ですよ」
「あはは、鑑定されちゃいましたね」
「ふふ」

 リジーに図星を突かれて茶化す。

 現に今でも誰かを好きになる……という気分ではなかったのだ。

 今でもリーサの事が頭に浮かんで胸が苦しくなる時がある。

「僕はね、帝国から流れてきたのだけど……そこでパーティーを首にされたんだ」
「あら、ごめんなさい」

「良いんだ、そこで心残りに思っている子が居てね」
「え!可愛いの?綺麗な子?」
「いやまぁ、どちらかと言うと癒し系でホンワカしている感じかな」

 リーサは美人と言うよりは普通だけど、独特のホンワカした柔らかい風貌と性格が僕の好みだったのだ。それは勇者のカレンとは正反対だったので特に強く感じていた。

 カレンは眉毛がビシっとつり上がた美貌の女勇者だけど、性格はきつくて付き合いたいタイプではなかった。

 仮にカレンと付き合ったとしても年中尻に敷かれて、罵倒されている絵が浮かぶ。

「へぇ、美人が苦手とかそういう?」
「別にリジーさんが苦手というわけではないですよ」

 一応フォローをしておく。

「お上手なのね」
「はは」

 僕はいつになく饒舌になっていた。

 大金が手に入ったことが僕を穏やかでゆとりある気分にさせていたのかもしれない。

「美人が嫌いな男は居ませんよ、ただ……」
「ただ?」

「冒険を通じて……美人かどうかよりも、胸に響くことが多々ありました」
「へぇ~~、そうかぁニースさんは癒し系が好みっと」
「はは、そうですねぇ」

 そんな他愛のない会話が今は癒しであった。

 こういう人生もあるのだなぁと感慨深く感じる。

「リジーさんはどうなのです?」
「え、あたしは……」

 リジーは言葉を濁した。

 毎晩酒場に通っている美女。

 周りの男がそんな彼女を放置しておくとも思えなかったが。

「今はいいの……」

「そうなんだ、一緒ですね」
「では、一緒記念で乾杯」

 何か良くわからない記念で乾杯をして飲み干した。

 すると、後ろから視線を感じた。精霊の感知能力でミニーだと判った。
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