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グランドロード
しおりを挟む今夜24時、王宮裏口。
王宮の密偵が僕を呼ぶのなら、それは王宮関連であるのは間違いないだろう。
逃げ隠れしても仕方がないので僕はその指示通りに参上する事に決めた。
王宮の裏口に行くと門番が立っていたので彼に紙切れを手渡す。
門番は僕を一瞥したあとに「ついてこい」と言って既に開錠済みのゲートを開けて僕を通し、先導して建物の中に入る。
「来ました」
建物に入って直ぐの警備室のような所に入ると、事前に察知していた通り密偵の男が事務所の奥に立っていて、もう一人の男がソファーに腰を掛けていた。
それで警備兵は扉を閉めて去ると、部屋には僕と密偵と男の3人が押し黙っていた。
「鑑定」
その男は王宮の調査室の管理官だった。密偵とその上司という事だろう。
「ニース君だね、座り給え」
「どうも」
その管理官がソファーに座れと言うので、軽く会釈して素直に従う。
管理官はおもむろに懐からシガーケースを取り出し、葉巻をつまんで口にくわえた。
すると魔法のように片方の手から着火アイテムを取り出してそれに火を点ける。
管理官もただの男ではないようだ。
「私は王宮の裏の仕事を任されている者だが、君が偶然手に入れたそれを返してもらいたい」
「返すというと、何をですか?」
それが何を指すのか解って居たが、僕はあえてすっとぼけた。
「その土の精霊の指輪はこの王宮から盗み出された物なのだよ」
予想していた通りだった。
「その前に、どうして僕がこれを持っていると判ったのですか?」
「アルカを小国と見くびってもらっては困る、我々も調査に関してはプロなのでね……君がその力を使えばすぐに判るというものだ」
「そうですか、ではこれをどうやって返却すれば良いでしょうか?」
僕はそう言いながら指の入れ墨のように溶け込んだ精霊の指輪を見せる。
「な!……」
僕の指を見た管理官は動揺して言葉を失っていた。
「まさか、そんな……」
次いでため息を漏らすように言う。
「精霊が君を気に入ったという事は……君がこの時代の……」
今度は火を点けたばかりの葉巻を急いでテーブルの灰皿に押し付け消し、ソファーから立ち上がって頭を下げた。
「グランドロードよ、是非王家に仕えて頂きたい」
「は?」
いきなり態度が真逆に変わり僕は狼狽えた。
「その指輪は自らの主を選ぶのだ」
密偵の男が補足してくれる。
つまり、僕は土の精霊に選ばれた土の主、グランドロードという事らしい。
「申し遅れました、私は王宮調査室管理官のセスです」
今度は彼はにこにこして僕に握手を求め手を差し出し、僕は特に拒む理由もないのでそれに応じた。
「ありがとうございます、良かった!さぁ、ゆっくりしていってください」
そういうとセスが目配せし、密偵の男が部屋から出て行って直ぐにお茶と茶菓子を持って戻って来た。
「え?はぁ……」
どうやら僕は懐柔されていた。
僕はこの国で成り上がろうと王宮に入る事を考えていたのに、いつの間にか向こうから招かれている。
「それは良いですが、僕にも条件があります」
「はい、なんでも仰っていただいて結構です」
「この国の資源、鉱物資源を開発したいのです」
「はぁ、鉱山ですか……」
セスは少し意外という顔をする。僕が法外な待遇を求めてくると思っていたに違いない。
それなのに、枯渇した鉱山を開発したいと言うのだ。
それでも何か腑に落ちたような顔になり頷く。
「はい、王国議会に早急に上申して鉱山の開発を進めるように全力を注ぎましょう」
「なんというか、ありがとう……結果を楽しみにしております」
急展開する中、大きな運命のようなものを感じつつ僕は一度アパートに戻る事にした。
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