寝起きで語る小話

沖田ねおき

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不鮮明な悪夢

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悪夢を見るときはいつも決まり事があった

まるで何かに引っ張り込まれていくような、底なし沼に深く沈んでいくかのような、そんな感覚

それと同時に恐ろしい呻き声に似た耳鳴りが頭の中で低く響く

怖い。聞きたくないと思っていても手足どころか指一本でさえ自由に動かせない

必死に目を覚まそうとしても瞼は固く閉じられ、開けよう開けようと藻掻けども一向にこちらの意思を反映しない

何とか重い瞼を上に押し上げたところで強烈な睡魔が押し潰すかのように伸し掛り、強制的に夢に引きずり込まれるのだ

何処も彼処もノイズで乱れ何一つ鮮明に見えない映像
頭に鳴り響く雑音

砂嵐を映し出すブラウン管テレビに飛び込んでしまったのではないかというほどだ

突然、さっきまで白黒だったはずの目の前が色とりどりにチカチカと光り出す

ノイズは相変わらずで、くすみきった色彩が代わる代わる点滅している

とにかく夢の中は曖昧だ
すぐ目の前にいるというのに酷いノイズのせいか、シルエットだけが浮かび上がっているようで顔も背格好もまるで分からない

ただ何となく、そのシルエットが少年だと認識をしていた
そして顔が全く見えないのにも関わらず、にっこりと笑顔を浮かべていると…

くすんだ色彩が飛び交っているせいかとても無邪気で明るいものに見えた

そのはずなのに

その笑顔を見た瞬間に私は背筋が凍りつき、手足が痺れる感覚に陥った────


* * *


パッと目が覚めるときは決まって寝覚めが良かった

何かに起こされるのではなく、自然と目が覚めるスッキリとした感覚と同時に若干の喪失感があり、それは目が覚める瞬間まで夢を見ていたからだということに気付く

内容は思い出せない
だが、知らない少年が出てきた気がする…

自然に笑いかけていた…のだろうか
顔など思い出せそうにないが、確かに口元には笑みが浮かべられていた

何故だかそれだけはハッキリと覚えていたのだ


* * *


悪夢といっても内容は大したことがない
特別怖いものが出てくるわけでも、怖い体験をするわけでもないから

だからといって見たいわけではない
大したことはなくとも、夢を見ている間は常に恐怖を抱いているのだから

悪夢から目を覚ましたとき、心臓は早鐘を打ち、うっすらと汗をかいている

あぁ怖かった、夢から覚めて良かったと安心する

最近になってこういうことが増えた気がする
これは何かの予兆なんだろうか

何か嫌なことが起こる予兆…
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