いばら姫

伊崎夢玖

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日常

第三話

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保と桃が最初に出会ったのは十年前に遡る。
きっと桃は覚えていない。

保が高校二年の秋、桜井家が主催のパーティーに呼ばれた。
来賓として呼ばれたのは元華族だらけの豪華なパーティーだった。
当時の保は成績はいい方ではなく、クラスでも周りからいじられる立場にあった。
パーティーなどの華やかな場所が生来苦手な保は、本当は行きたくなかった。
行けばクラスの連中に会い、会場でいじられるような気がしたからだ。
しかし、父の付き添いとしての役目があったため、どうしても行かねばならなかった。
会場に到着し、父は顔見知りに挨拶に行ってしまった。保は一人残された。
周りを見渡すと、想定した通り、会場にはクラスの連中がいた。
『おい、保。俺ら腹減ってんだわ。何か食うもん取ってこいよ』
「うん。わかった」
いつものことだ。彼らにパシらされる。
料理を取りに行って戻る。
『これ、さっき食ったやつじゃん。違うやつにしろよ』
『俺ら今腹いっぱいだから、それ全部お前食えよ』
結局保は連中に振り回されてばかりだった。
そんな時、まだ小学生の桃が近寄って来て一言言った。
「お兄ちゃんたち、そんなことしてかっこ悪いね。何が楽しいの?」
保と連中のやり取りを一部始終見ていたのだった。
周りの大人がこちらを見る。
何事かと人が集まってきた。
保をいじっていた連中は親に首根っこを掴まれて保に謝罪後帰宅の途に着いた。
桃はどこかに行っていて、パーティー会場にいなかった。
辺りを探していると、外の薔薇の垣根に隠れていた。
近づくと桃は泣いていた。
保ですらまともに言い返せない相手を相手にしたのだ。
怖くないはずがない。こんな小さな女の子が。
そっと近づくと桃は泣き腫らした目で振り返った。
「あっ、……さっきのお兄ちゃん」
「さっきは助けてくれて、ありがとう。怖かったね。ごめんね」
優しく抱きしめると、桃は安心したように身を預けてきて泣きじゃくった。
しばらく抱きしめていると、規則正しい呼吸が聞こえてきた。
ふと桃の顔を覗くと、寝ていた。泣き疲れてしまったのだろう。
静かに抱き上げて、桜井家の執事に引き渡した。
『桃お嬢様がお世話になりました』
少女が『桃』と言う名前であること、勇気があり、勇敢な行動を取ってしまうが、人がいる前では泣くこともできない意地っ張りなこと。
短い時間ではあったが、保は本能的にこの少女に惹かれていることに気付いた。
保は絶対にこの少女を守ると心に決めた。
それからずっと少女と一緒にいられることを考え、学校でなら一緒にいられる時間があると思い、教師になることにした。

なぜ養護教諭なのかはご想像にお任せしよう。
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