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第三章 カーテンコールまで駆け抜けろ
74、お仕置きは全裸のフルコースで
しおりを挟むこの場で敢えて言及するつもりはない事ではあるが、王国側がネルティエの戦いの真実に気付いたのは、もう一つ理由があった。
王国内で広く扱われている魔道具は、他国に持ち出す事を禁じられている。というよりも、現状ではそう出来ないからだ。
魔法具とは非常に繊細で、魔法師による定期的な整備が欠かせない。
つまり魔法師の居ない国外では、その効果は長続きしないのだ。
それでは魔法師を一緒に連れて行けば良いかというと、それも不可能に近い。
何故なら、国を長く離れた魔法師は『王国の人間ではない』と見做され、ピーリカの祝福を失う──つまり、魔法を使えなくなるのだ。
それ故に魔法師は国を離れる事を殊更嫌がるし、国としても国の大きな財産である魔法師を失いたくはない。
だからこそ幾ら他国からの要望があろうとも、魔法師も魔道具も他国に出す事はしていなかった。
国を離れた魔法師は、魔法の力を失う。
もしかすると、それは魔道具でも同様なのではないか。
事実と過去の歴史からその事を推測したラームニード達は『聖女が来国する』という知らせを受けてすぐに、諜報部の人間に魔道具を持たせて、密かに聖国へと向かわせた。
結果は予想通りだ。
王国内で七日間は確実に作動するであろう魔道具は、聖国では日を追う毎に調子が悪くなっていき、三日目には確実に沈黙したという。
神の領域で魔女の力が弱まるのであれば、逆もまた然り。
そういう事だ。
続いて、魔法師団長が口を開く。
「聖女の祈りが『異常を正常に戻す力』であるのなら、魔女の魔法は言うなれば『正常を異常にする力』です。だからこそ、この二つの力は拮抗して打ち消し合う。ですが、相手の陣地内では、話は別です。王国は魔女ピーリカが創った王国民を守る為の領域──初めは拮抗していたとしても、この領域内で魔女に勝てる者は誰もいないのでしょう」
「そんなの嘘よ!」
ユーレイアが叫んだ。
「ピーリカは聖女だわ! 同じく神の奇跡を操る者である以上、聖女の力が負ける訳がない!」
恐らく、ユーレイアも気付いてはいるのだろう。
魔女と聖女は決して同じ存在ではない。
神ではない『何か』の力を借りた未知の存在。
それに気付いていながら、認めたくないと叫んでいる。それを認めてしまったら、彼女が今まで信じていたものが崩れ去っていってしまうからだ。
「それならば、試すか?」
「え……」
頑なに魔女を否定するユーレイアに、ラームニードがそう提案した。
「聖女の力と魔女の力、……どちらが強いか、今一度試してみようではないか」
一瞬呆けたユーレイアは覚悟を決めたように唇を引き結び、両手を組んでラームニードに祈りを捧げる。
ユーレイアがその勝負を飲んだ事を理解したラームニードは、周囲の側近達へと目配せをした。
その意図を汲んだキリクとナイラが白いシーツの両端をそれぞれ持ち、ラームニードの体──特に胸から下辺りがユーレイア達から隠れるように広げる。
アリーテは部屋の外から、うず高く積まれた適当な布類を運んできた。
その山をラームニードの近くへと置き、周囲に控えていた騎士達と同様にその中の一枚を手に取って待機した。
これまでラームニードの隣でただ座って状況を見守っていたリューイリーゼも、布を持ってゴクリと唾を飲み込む。
──準備は万端だ。いつでも来い。
王国の面々は死んだ目を通り越して、悟ったような目をしていた。
全員の事前準備が終わったのを見て、ラームニードが口を開く。
「今日までよくも好き放題してくれたな、どこが聖なる乙女だ、この女狐が!!」
「きゃあ!」
「うわあ!」
パァン、と高らかに破裂音が鳴り、服がハジけ飛ぶ。
聖女は悲鳴を上げた。
その他の聖国一同も悲鳴を上げた。
王国側の人間だけが顔色一つ変えていない。 通常運転だった。
「言うに事欠いて結婚しろ? リューイリーゼを事もあろうに女の色香に惑わされたタダの阿呆に嫁がせろ? 巫山戯るのも大概にしろよ、心得違いのエセ聖女め! 貴様の国ではどうか知らんが、ここは王国だ! 貴様の我儘が全て通ると思ったか! 阿呆を他人に押し付けるな! 嫁ぎたくないなら聖国内でどうにか決着付けろ! お綺麗なフリをして汚い策略ばかり企てる腹黒教会が!!」
「きゃあ、きゃあ、きゃあ!!!」
服がハジけ、周囲に待機した王付きの面々が次々とラームニードに布類を被せ、その服もまたハジける。
時折真っ当な批判に対しては発動しなかったが、呪いの永久機関の完成だ。
大事な下半身の辺りは予めシーツで隠されているものの、布の向こうで半裸のラームニードがチラチラと見え隠れする事に、ユーレイアはとにかく悲鳴を上げ続けている。
ニーダ公爵を含めた残りの聖国の人間はただただ唖然としていて、王国の人間は『これはどういう状況なのだろう』と遠い目をしながらも、無心で自分の仕事をこなしている。
室内はとても混沌としていた。
生き生きとしているのは、ラームニードだけだ。
「大体ピーリカは聖女だと抜かしたならば、やってみろ! この戯けた呪いを! 出来たとしても、このように破廉恥な術を使う者はお綺麗な聖教会には相応しくないとされるだろうがな!!!」
「出来ません! すみません!!」
「奴らはな、楽しければそれで良いのだ。人の尊厳を面白半分に弄ぶような変態愉快犯だ! 俺と結婚したらこの呪いは日常だぞ! なんせ頼みの綱の聖女様の祈りすら効き目が無い様だからな!」
「しないです! わたくしには無理です! すみません!!」
「この呪いの事を公にしようとしても無駄だぞ! こちらこそ公言してやっても良いのだ! 全裸の呪いに負けた雑魚聖女として笑い者になるのは貴様の方だァ!!!」
「ごめんなさい! ごめんなさいぃいぃぃぃぃ!!!」
ラームニードの呪いでのお仕置きは、事前に用意しておいた布類が全て消費し終わるまで続いた。
終わった頃にはユーレイアは号泣しながら、小さく「ごめんなさい」と繰り返し呟いていた。
どうやら聖女様にトラウマを与えてしまったらしい。
リューイリーゼ含めた王国一同は彼女を少し不憫に思い、ラームニードはこれまでの鬱憤を晴らせたようでスッキリとした表情をしていた。
ある意味、いつもの王国である。
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