【本編完】呪いで服がハジけ飛ぶ王様の話 〜全裸王の溺愛侍女〜

依智川ゆかり

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第三章 カーテンコールまで駆け抜けろ

73、歴史の裏に隠された真実

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「そんな馬鹿な!」


 ニーダ侯爵が叫んだ。


「聖女様がそのように命に関わるかもしれない争いに従軍するなど……それも、あの慈愛の聖女様が!!」
「聖国での聖女様の扱いなど、こちらが知る訳無いでしょう。それに、聖国側が公式に聖女様の従軍を認めた訳ではありません。……ですが、そうであると判断するに値する記録が残されているのですよ」


 そう言って、宰相が騎士団長の方へと視線を向けた。
 騎士団長は頷き、騎士の礼を取る。


「我がレイブンフット辺境伯家には『ネルティエの戦い』について、こんな話が代々伝えられております。『とある日に物見が北の方角に白い光を見た。聖国の軍勢が目視出来たのは、それから程なくしての事である。それ故、北に白い光を見た際は即座に戦の準備をせよ』と」
「なっ……!?」
「また、斥候が残した報告書も残っております。『軍勢の中に、白い衣を身に纏った女性の姿を確認した』と」


 聖国では、白は聖王家と聖教会関係者にしか許されない色だ。
 それに加えて、先程パーティー会場でも見られたように、白い光は聖女の祈りを発現する際のものだ。
 それを合わせて考えれば、その白い服の女性が誰であったのか、想像に難くない。

 他ならぬ、レイブンフット辺境伯家の次男として生を受けた騎士団長の言葉だ。
 ユーレイアとニーダ公爵は反論しようとして、出来なくて口を引き結ぶ。

 それをする為の材料がないのだ。
 自分達が同じ事を目論見、そしてつい先程まで成功していると確信していたからこそ、『そんな事を
していない』と断言する事が出来ない。


「そして、聖女がいたのにも関わらず、聖国軍は三日で軍を退きました。王国内に攻め込む事が出来た事で兵の士気は高く、辺境伯軍を押し始めていたというのにも関わらず。さて、どうしてだと思います?」


 ニコニコと宰相が笑い、聖国側の人間の顔色がどんどん悪くなっていく。漸く状況を理解したのだろう。

 聖国側は聖女の力に自信を持っていた。
 実際ラームニードの呪いを防いだのだから、聖女の力には魔法を防ぐ力があるのだろう。
 しかし、日が経つ毎に聖国側の人間の態度は徐々に横柄さを増していった。
 
『聖国側に明らかな過失がある状況を作る』。

 それが、守護の結界が聖国側に齎した魔法効果だとするのならば、つまり……。


 
「王国内では、聖女の力の効果が徐々に弱まっていく。聖女達はそれに気が付いた。こうは考えられませんか?」



 聖女の力では『守護の結界』はどうにも出来ない事を悟った。
 その結果の、平和条約だ。


「な……そんな……」
「だが、聖国としてはそんな記録を公に残す事は出来なかったのだろうな。聖女の威信に関わることだ。聖女が魔女に負けたなどと、認める訳にはいかないものなぁ」


『慈愛の聖女』が当時の聖王と縁付いたのは、ある意味口封じのようなものだったのだろうか。
 余計な事を口にしないように、聖王の目の届く場所へと置いたのか。

 その本当の経緯を知っている者は、恐らく誰も居ない。
 歴史は既に闇の中だ。



「……本当に、馬鹿な事をしたものだ」



 嘲るのではなく、心底憐れむような声音でラームニードが呟いた。

 ──愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。

 先人達が辿った多くの苦悩や失敗、成功への道筋を綴った歴史は、未来で行き当たった困難を解決する為の足掛かりとなり得る、貴重な情報の山だ。
 しかし、そうとして扱うには、人の手でただ華美に装飾した英雄譚にしてしまっては意味がない。
 
 魔女に敵わなかったと言う事実を隠蔽し、無きものとして扱った時点で負けは決まっていたのだ。
 せめて、聖王家や聖教会内だけでも正確な記録を残していたなら、このような無様を晒す事は無かっただろうに。




***

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