【本編完】呪いで服がハジけ飛ぶ王様の話 〜全裸王の溺愛侍女〜

依智川ゆかり

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第三章 カーテンコールまで駆け抜けろ

69、半裸のエスコートは流石に勘弁ですので

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「もう、逃げられないのね……」
「最初から逃げ道は塞がれてたじゃない。何言っているの」


 呆れたようなアリーテに、リューイリーゼはガクッと肩を落とす。

 式典が終わった直後、リューイリーゼはパーティーの為にアリーテを筆頭とした衣装班に半ば拉致されるように風呂へと連れて行かれ、肌も髪も徹底的に磨き上げられた。
 
 そしてその次はドレスの着付けだ。
 例の先々代の王妃のドレスはマダム・サリサの手によって、伝統的なデザインは残しつつも新しさを感じられるよう上手くリメイクされている。
 
 化粧をして艶々になった髪をアップに纏め上げ、ラームニードの瞳とよく似たルビーのネックレスとイヤリングを付けられて完成だ。


「ちなみに、このネックレスの提供元はロンドルフ公爵家ですって」
「知ってる……」
「家宝を貸してくれるだなんて、太っ腹よねー」
「知ってる……ッ……!!!」


 ロンドルフ公爵が後ろ盾である事を強調するためだとはいえ、恐れ多すぎて本当に泣きたい。

 鏡に映る姿は、何処からどう見てもラームニードのお相手の令嬢だ。
 最早逃げ道など何処にもない。こうなれば突き進むしかないのだ。



「そういえば、あなたダンスは大丈夫なの? もしかしたら踊るかもしれないでしょう?」



 鏡を見て、若干情けない顔をしたリューイリーゼに、アリーテはそう尋ねた。
 リューイリーゼは気不味げに視線を逸らせながら、答える。


「……大分前から、侍女長の講習でやってくれていたから」
「講習ってそんな事までやってくれていたの?」
「最初はそうでもなかったのだけど、どんどん範囲が広がって、こういうイベント事で采配を振るう上での注意点だったり、周辺国に関係する事だったり、ダンスだったり……」
「……あなた、何も疑問には思わなかったの?」


 アリーテは相当に呆れている様子だ。

 リューイリーゼだって、少しは変だなとは思っていたのだ。
 イベント事での采配や周辺国とのだったりはまだ分かる。けれど、本来裏方に回るべき王付き侍女がダンスを踊る必要はない。

  
「だって、侍女長が『今後何かに使う機会があるかもしれないでしょう』って……」
「何かに使う機会、ねぇ……」
「それに、学ぶのが楽しくて」
「あなた、それってある意味自業自得じゃないの」


 相当前から狙われてたって事よ、と言われて、思わず小さくなる。
 

 こういう状況に追い込まれてから、リューイリーゼも察してはいた。
 
 侍女長が教えてくれた範囲は広いようで狭かったり、知識に若干の偏りがあるように見えた。最近は専らダンスの練習や立ち振る舞いや作法の総復習に力を入れていた。
 
 付け焼き刃ではあるが……リューイリーゼが今のような状況に陥っても困らないよう、少しでも取り繕えるよう、予め準備をしていたのではないか。

 そして、それと同時に、彼女が自分にどういう立場になる事を期待していたかも何となく察している。
 察してはいるのだが、それが本当に自分で良いのかという戸惑いと躊躇いが未だ消える事はなかった。
 それに……。


(そういう事は、ちゃんと言葉にして欲しい。……そうすれば)



「──準備は出来たか」



 背後から聞き覚えのある声が聞こえ、物思いに耽っていたリューイリーゼはピャッと飛び上がった。
 慌てて振り返れば、いつの間にかラームニードが居た。
 
 パーティー用の衣装は短い期間だった筈なのに良く用意したなと思える程に、リューイリーゼのドレスと装飾を合わせたもので、ラームニードの美しさを存分に引き立てるようなものだった。
 
 そのシャツにリューイリーゼの瞳と同じ色のエメラルドのカフスボタンがあるのを見て、思わず赤面してしまう。

 しかし、それはラームニードの方も同じようだった。


「……」
「……」


 互いに互いを真っ赤な顔で見つめ、何も言う事が出来ない。
 何とももどかしい様な、むず痒い空気に声を上げたのはノイスだ。


「陛下……綺麗に着飾ったリューイリーゼ嬢に見惚れちゃうのは分かりますが、色々と言う事あるでしょ」


 ラームニードはキッとノイスを睨むが、「半裸でリューイリーゼさんをエスコートするおつもりですか?」とキリクに冷静に言われて言葉を飲んだ。
 流石のリューイリーゼも、半裸のエスコートは嫌だ。



「その……あれだ」
「は、はい……」
「よ、良く似合っている!」
「はい! 光栄です!!」

「何これ、騎士団の上官と部下か何か?」
「い、色気がない……」


 ノイスとアーカルドが微妙な顔をしているが、そんな事を気にしている余裕は互いに無い。一杯一杯だ。
 そもそも、プロポーズの際にまるで叩き売りの如く、自分をプレゼンしたアーカルドにだけはそんな事を言われる筋合いはない。
 
 差し出されたラームニードの手を取り、会場へと向かう。
 
 気分は戦場にでも赴くかのようだ。
 あながち、間違っていないかもしれない。



 


 
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