【本編完】呪いで服がハジけ飛ぶ王様の話 〜全裸王の溺愛侍女〜

依智川ゆかり

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第三章 カーテンコールまで駆け抜けろ

58、自分の全裸を人質に取る王様は他には居ない。居てはならない。

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「俺は──リューイリーゼを妻にする」



 ラームニードの宣言に、その場に居た全員の動きが一瞬止まった。
 ……一瞬だけだった。



「「おめでとうございます!!!」」



 全員がそう声を揃え、部屋の中に拍手が響いた。
 まるで誕生日か何かのような有様にラームニードは一瞬呆気に取られ、遅れて渋い顔になる。


「ご自分のお気持ちに気付かれたようで何よりです」
「意外と早かったですね」
「流石リューイリーゼ嬢。陛下へのアシストに定評がある」
「もっと時間が掛かると思ってました」
「年単位で掛かるかと思ってましたぁ……」
「お前らは俺を何だと思っているんだ」


 流石に心外である。
 云々と頷き合う面々に憮然としていると、黙って状況を見守っていたキリクが大きく頷いて親指を立てた。
 
 キリク、お前までそんな……。
 ラームニードは大きく肩を落としながらも、少々拍子抜けしていた。



「……反対はしないのか」



 いや、ラームニードが気持ちに気付くのを見守っていた時点で、そんな気は更々無かったのは分かっている。
 けれど、もう少し説得やら何やらと様々な工程を経る覚悟をしていたというのに、いきなりの歓迎ムードだ。
 皆、物分かりが良すぎる。話が早くて助かるけれど。

 念の為確認するように問えば、宰相は何を馬鹿な事を、とでも言わんばかりの顔をした。



「正直、陛下がお妃様を迎えようと思った事自体が奇跡のようなものですし。そんな逸材逃せる訳がないでしょう。これを逃したら、多分絶対一生独り身ですよ」
「正直過ぎるだろう。お前、俺が主君だってちゃんと分かってるか?」


 クソジジイ、と毒を吐きかけて、慌てて言葉を飲んだ。
 懐に忍ばせたリューイリーゼのハンカチがボロ切れになってしまう。それだけは何としても死守せねばならない。

 鋭く睨むラームニードに、分かっておりますよ、と宰相は肩を竦めた。


「ですが、このままでは次代の継承で混乱が起こる事は目に見えておりました。王国の安寧を考えるならば、陛下ご自身の御子に継がせる以上の最良がありましょうか」
「……分かっている」


 これまで、ラームニードは次代の王を継がせるのは、自分の子ではない方が良いと思っていた。
 自分は望まれずに玉座についた王であり、王としての資質も器もない。
 何より、何百年もの間王国を守ってきた【守護の結界】に異常を来たす程の混乱を齎した両親を思えば、その血を残す気にはなれなかったのだ。

 だが、それもただの逃げでしかない。
 王家の血を受け継ぐ者の中から世継ぎを選ぶにも、混乱は避けられないだろう。
 
 過大な権力は容易に人を狂わす。
 元々その資格が無かった者ならば、余計にその甘い汁を吸いたいと熱望するものだ。

 誰が次代の王になるかで揉め、内戦状態になる事も考えられる。



「馬鹿な事を言った。王として、国が荒れるのは本意ではない」



 ラームニードはもう決めた。
 亡き弟が望んだような、この国に相応しい王となる。 
 その為には、もう後ろを振り返る暇はない。



「それはそれとして、リューイリーゼは妃にする。別の女をあてがおうものなら、全裸も辞さないつもりでいるので心しておくように」



 王になる決心はしたが、好きなものを妥協する気はなかった。
 むしろ国の為に一生を捧げるのだから、どうしても手放せないものを傍に置くくらいは許して欲しい。

 全力で駄々を捏ねるつもりである事を宣言すれば、宰相は困惑するよりも感心するように頷いた。


「うーん、自分の全裸を人質に取る君主は他には居ないでしょうねぇ……」
「そこらに居たら、それこそ、この世の終わりだろう」


 自分でも、この脅し文句で良いのだろうかと思ってはいる。


「その自覚もちゃんとおありとは……。陛下のそういうブレない所、私は嫌いじゃないですよ」


 ラームニードだって、宰相のこういう何事にも寛容な部分は割と嫌いではなかった。
 絶対に言ってはやらないけれど。



「まあ、それは良いのですが、ここで一つ問題が」
「何だ、言ってみろ」



 ここにいる面々はすんなりと受け入れてしまったが、リューイリーゼの身分が低い事を問題にする輩は少なからずいるだろう事は予想が付く。
 その対応も既に検討済みだ。
 ラームニードは望みを叶える為ならば、手段を選ぶ気は無い。

 しかし宰相が口にしたのは、ラームニードの予想していた問題とは全く違ったものだった。



「アルタレス聖国から、式典の参加者について変更があるとの知らせが届きました」
「……は? 今になって?」
「今になって、です」



 何だか、物凄く嫌な予感がする。
 あからさまに顔を顰めたラームニードに、宰相は告げた。




「────聖国から、がやって来ます」




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