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第二章 その感情の名を知る
46、水面下で何かが始まっているような、あらゆる違和感
しおりを挟む妻と再開してから、複写で今までの出来事や行った場所を見せたり、魔法の練習をしたり、皆でワイワイやったりで、10日ほど経ちました。
「ジョニー達は職業【冒険者】なのよね」
夕食後ののんびりくつろぎタイムに、妻が編み物をしながら話しかけて来ました。
「そうですね、他にも色々やっていますけど、一番最初に冒険者ギルドで登録したから、冒険者ですね」
「でもジョニーの場合は、冒険者と言うより【商人】だよね」
コニーが言うと、ブルースも続けます。
「色々な物を開発する【発明家】でもあるな」
「僕は【料理人】を推すよ!
父ちゃんのご飯美味しいもん!
あ、母ちゃんのご飯も美味しいよ」
シナトラがアワアワしています。
妻の料理が美味しいのは当然ですよ。
「町長でもありますしね」
珍しくアインも乗って来ます。
「要するに【何でも屋】じゃないの?」
チャックの突っ込みに、皆が大きく頷きます。
確かに、冒険者活動は殆どしていないような……。
発明と言うより、前の世界の物を再現しているだけなのですから、パクリ屋でしょう。
町長は、国王と呼ばれるよりは全然マシです。
やはりここは、何でも屋が一番しっくりきますよね。
「兼業されている方は多いですから、一番初めに登録した職業を名乗る方が殆どですよ。
冒険者として登録したけれど、事情により引退されて、ギルドカードを返却されたら、流石に名乗れませんけど」
へー、そうなのですね。
ん?それならば、
「ギルドで登録していない方…例えば農家の方や漁業の方は、どうなるのです?」
「え?農業ギルドと漁業ギルドが有るに決まってるじゃん。
ジョニー知らなかったの?」
「父ちゃん、僕でも知ってるよ」
チャックとシナトラに可哀想な子を見る目で見られてしまいました。
冒険者ギルド、商業ギルド、薬師ギルド、生産ギルドの四つだけなんじゃあ無いんですね。
「あー、四つって、提携している四つの事?
あれは協賛と言うか、お互いのメリットで手を組んでるんだよ。
農業と漁業は全国津々浦々とはいかないからね。
農業の盛んな土地、海辺の街などにしか無いから、冒険者ギルドとかとは提携していないの」
「支店数が大幅に違いますからね。
提携している四つのギルドは、殆どの町にありますから、持ちつ持たれつの関係なんですよ」
コニーの説明に、アインが捕捉してくれました。
「だからそろそろこの町にも、生産ギルドを誘致した方が良いと思いますよ」
なんとか安定生産出来そうなガラスやコルク、シルク(擬き)、ボタン(それを使用した服)などを、商標登録?特許?
とにかく登録した方が良いそうです。
「皆さん冒険者なのですか?」
「いえ、私とコニーは冒険者登録していませんので、違いますね。
私達の職業は【魔王】になります。
因みにヨルゼルや、コニーの片割れの職業は【国王】です」
魔王は種族名ではなく、職業なのですね、知りませんでした。
「白雪は流石に空欄ですね。
リリーさん、職を探しているのですか?)
アインに問われ、頷く妻。
「まだこの世界に来たばかりなのですから、のんびりしていればいいじゃ無いですか。
家の事をやってくれているのですし、こちらの世界では、私そこそこ稼ぎは有りますよ」
妻の一人や二人……いえ、一人だけですけど、養うのに全く問題有りません。
「収入だけの事じゃなくて、何か仕事をしていないと落ち着かないんですよ」
これは【日本人あるある】ですかねえ、貧乏性と言いますか、【仕事】をしていないと、何か落ち着かないと言いますか、不安になってくると言いますか。
「気持ちはわかります。
なら、何かやりたい事をゆっくり探してみますか?
それとも、得意な分野で、食堂でも開きますか?」
そうねぇ…と言いつつ、手元は編み物を続けています。
「お料理も良いけど、私、薬の調合をやってみたいですね」
薬の調合…確か妻の姉が薬剤師で、妻もその道に進むはずが、受験に失敗して……。
「ジョニー、そんな顔しないで。
この世界では薬草と綺麗な水と、調合のスキルが有れば、体力回復の薬が作れるのでしょう?
私にもそのスキルが有りますし」
確かに、自分で作ったことはありませんが、すり潰した薬草を綺麗な水…魔法で出した水で煮出して濾すと、ポーションが出来る事は知っています。
すり潰すコツとか、煮出しのタイミングやなんかは、調合のスキルが無いと上手くいかないそうです。
ほかの薬も、材料が有って、スキルさえ持っていれば、一通り作れるそうです。
しかも妻の調合スキルの熟練度は【中】ですから、そこそこの品質の薬が出来るはずです。
「実は昼間にね、薬師ギルドへ相談に行って、一つ作ってみたの」
と言って妻は、毛糸の入っているカゴから、陶器の小瓶を取り出し、目の前のテーブルに乗せます。
妻に断り鑑定してみましたら、高品質のポーションでした。
「昼に出掛けていたのはギルドだったのですね。
普通に買い物へ出掛けていたと思っていました」
「隠す気は無かったのですけど…、ごめんなさい」
妻が頭を下げるので、慌ててしまいました。
「別に謝る必要はありませんよ。
やりたい事をやれば良いのですから」
魔法のあるこの世界では、やりたいと思った事は、ほぼ実現可能です。
他人に迷惑をかける事でないのなら、好きな事をすれば良いと思います。
「ええ、やりたい事を仕事にしたいと思ったの。
だから、前には出来なかった事を……人の助けになる事をしたいの」
前世では、妻は一度の受験の失敗で、全ての夢を諦めなければいけませんでした。
この世界で、その夢を叶える事が出来るのなら、やれば良いと思います。
私も全面的に協力をしましょう。
「リリーさんは、薬師になりたいの?」
「そうね、チャックくん。
私は以前薬剤師……薬の専門家になりたかったの。
でも、頭が悪かったからなれなかったのよね」
塾も通わず、家庭教師もつけて貰えず、独学で医大に一発合格なんて、結構無茶な条件を出したもんだよな、あのクソ親………思い出しムカつきはやめておきましょう。
「この世界ならその夢、叶えられるの?」
ニッコリ微笑んで頷く妻。
「母ちゃんがお薬作るなら、僕が薬草取って来てやるよ!」
「白雪もお手伝いする~」
「まあ、薬草ダンジョンもあるしな、薬師になるには都合の良い町だと思うぞ」
シナトラ達に肯定され、妻は私に視線を向けて来ます。
「作業部屋を作らなければなりませんね」
頷きながら言うと、妻は嬉しそうに微笑みした。
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