【本編完】呪いで服がハジけ飛ぶ王様の話 〜全裸王の溺愛侍女〜

依智川ゆかり

文字の大きさ
上 下
45 / 84
第二章 その感情の名を知る

44、おもしれー男とおもしれー女が惹かれ合わない道理はない

しおりを挟む
 

 追加で注文するのはどのケーキにするか。
 そんな事を話し合うリューイリーゼ達姉弟の声を聞きながら、ノイスは魔道具の起動を終えた。


 
「「……ふぅ」」



 とりあえず、キリクと共にそんな息を吐いてしまう。
 それは安堵なのか、聞くのを憚られる家族の会話を聞いてしまった気不味さ故なのか、微妙な所だった。



「……弟だったな」



 ノイスがポツリと零した。


「確かに言われてみれば、リューイリーゼさんと目がそっくりでしたね」
「オレら、完全に無駄足だったな」
「無駄足でしたし、ただのお邪魔虫でしたね。しかも、それに女装や盗聴器まで使う念の入れよう」
「止めてくれ、オレ達馬鹿みたいじゃないか」


 冷静に状況を思い返して、頭を抱える。
 今まさに女装しているキリクに言う事ではないかもしれないが、相当に間抜けだ。

 そう言い合って、沈黙する。
 
 罪悪感が物凄かった。
 会話の内容が気になりすぎて、切るに切れずに結局は最後まで聞いてしまったが、家族の聞いてはいけない会話を聞いてしまった。そんな後悔で一杯だ。

 ヤケクソのような気分で、口の中にパイを放り込んだ。
 木苺の甘酸っぱさとパイ生地のバターの風味が口に広がる。確かに評判になるのも頷ける美味しさだった。


 ──それにしても、だ。



「『本当は私じゃなくても良いのかもしれない』か……。無自覚って怖いなー……」



 ポツリとそう呟く。

 他者の感情の機微に聡い方であるノイスからしてみれば、ラームニードがリューイリーゼへと向ける感情は『特別』だという事は明白だ。

 初めに「おや」と思ったのは、あのイシュレア・エルランダの事件の時だ。
 ノアラという侍女がリューイリーゼの危機を知らせに来た時、ラームニードは自ら現場に駆け付け、思わず扉を蹴破る程の焦りを見せていた。
 既にキリクをリューイリーゼの護衛に付けていたにも関わらず、あの焦りようだ。
 
 もしリューイリーゼではなく、ノイス達が似たような目に遭ったとして、あそこまで必死になるだろうか。


(ま、性別違うし、曲がりなりにも騎士だから自分でどうとでも出来るから、前提自体違うけどさー)



 キリクは、せっせと口の中にフォークで木苺パイを運びながら言う。


「……陛下はそもそも、どうでもいいと思ってる人間のデートなんかに興味は持たない方です」
「だよな。……リューイリーゼ嬢の方も割と満更でもなさそうなんだけどなぁ」
「え?」

 
 キリクが、意外そうに目を丸くした。


「二人が話してるの思い出してみろよ。あんなに楽しそうなリューイリーゼ嬢、他で見た事ないし」


 ラームニードはリューイリーゼの事を『面白い女』だと思って見ているが、恐らくはリューイリーゼの方もラームニードの事を『面白い男』だとして見ている。
 互いに相手の事に対して強い興味を抱いている男女が、惹かれ合わない道理はない。
 ノイスは確信めいた予感を感じていた。


 何だか、とっても甘酸っぱい。
 木苺よりも微かに感じるそれに、ソワソワと浮き足立つような気持ちにさせられる。


 そこで、ふとした疑問が湧いた。



「……ていうか、あの人、本当にリューイリーゼ嬢がデートだったら、どうするつもりだったんだろう」



 全てを飲み込んで祝福出来るのか。



(それとも、先王陛下達みたいに泥沼展開? うわ、怖っ……)


 
 そうはならないと信じたいが、想像してしまった未来に思わず顔を引き攣らせる。
 キリクも同じような事を考えたのか、フォークの手を止めて無言だ。
 
 いや、違う。その視線は空っぽになった皿に向かっている。いつも冷静な瞳がどことなくしょぼんとしているような気さえする。
 美味しいパイを食べ終えてしまい、どこか物足りないような気持ちになっているのかもしれなかった。



「──────あーもう、止めた止めた!」

 

 途端に、考えるのが馬鹿らしくなった。
 何故、自分がここまで真面目に考えなければならないのか。

 ただでさえ取り扱いが難しい恋愛沙汰だ。
 二人の関係がどうなるかなんて、ただの第三者であるノイスがぐだぐだと考えていても仕方がない。
 

「もうヤケだ。軍資金まだ余ってるんだろ? 何か追加注文しようぜ。折角流行りの店に来たんだし」
「……良いんですか?」
「いーのいーの。宰相閣下だってじゃんじゃん使えって言ってたんだろ。今日の特別手当みたいなものでしょ」

 
 経費だから問題なし、と手を振ってみせれば、少し迷いを見せていた様子のキリクは結局、木苺のパイを選ぶ。
 いつもラームニードに忠実なキリクだが、今回は流石に思うところがある上、パイを余程気に入ったようだ。


「……あと、個人的にリューイリーゼさんには菓子折りでも持って行きたいです」
「良いな! どうせなら皆にも何か土産でも買ってくか!」


 この程度の金額でラームニードの懐が痛まないのは重々承知だが、こんな馬鹿みたいな任務に対してのせめてもの抗議と、正当な報酬だ。
 せめて少しでも良い思いをしなければ、やってられない。



***


 後日、リューイリーゼには王都で評判の有名店の菓子を贈った。
 

「ほんっとーにごめん」
「すいませんでした」
「……何の話です??」

 
 そう真摯に頭を下げる二人の男に対し、リューイリーゼは終始困惑し切った様子だったのは言うまでもない。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。 ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結】呪われ令嬢、王妃になる

八重
恋愛
「エリゼ、お前とは婚約破棄させてもらう」 「はい、承知しました」 「い、いいのか……?」 「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」 エリゼ・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される19歳の侯爵令嬢。 家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。 「ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」 「え……」 若き25歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うエリゼ。 だがそんな国王にも何やら思惑があるようで──。 自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくエリゼは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか? 一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。 ※小説家になろう様が先行公開です ※以前とうこうしておりました作品の一部設定変更、展開変更などのリメイク版です

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。 ※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。 ※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、 どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。

処理中です...