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第一章 王様と呪い
28、嵐到来
しおりを挟む初めから、嫌な予感はしていたのだ。
「あ、ああ! リューイリーゼじゃない」
王宮内の各部屋置きのラームニード用の衣類や布類を補充中、前の職場である王妃宮での先輩であるノアラに出会した。
「ノアラ先輩、お久し振りです」
「元気だった? あなたが王付きになってから、話す機会なんて無かったものね」
暫く互いの近況について話していると、突然ノアラが「あ!」と何かに気付いたような声を出す。
「そ、そういえばね、ついこの間、あなたの落とし物を見つけたのだけど」
聞けば、王妃宮の庭園で、リューイリーゼの物と思われるハンカチを見つけたらしい。
大分前に無くした事は事実だったし、リューイリーゼがそのハンカチに刺していた刺繍の事にまで言及されては、信じる他ない。
しかし、そこで妙な違和感を感じた。
「今度会えた時に渡そうと思って、休憩室に置いてあるの。丁度良いから、持って行ってくれるかしら?」
いつもの彼女とは、どことなく様子が違うような気がしたのだ。
妙な胸騒ぎはしたものの、休憩室ならば執務室へと戻る道すがらにある。
下手に断って後日呼び出されるよりは良いかと思い、そのまま一緒に休憩室の方へと向かい──その道中の小部屋に引き摺り込まれた。
「お久しぶりね、リューイリーゼ・カルム」
そこに待ち構えていたのは、イシュレアだった。
逃げ場を塞ぐように、小部屋にリューイリーゼを押し込んだノアラが、部屋の外から扉を閉められる。
──嵌められた。
閉まる瞬間「ごめんね」と謝ったノアラの申し訳なさそうな顔を見て、リューイリーゼはそう悟った。
(やばい、リンチされる!?)
知らない人に付いて行ってはいけないのは分かっていたが、知っている人に付いて行っても駄目だった。これは、多分後で叱られる案件だ。
ラームニード達の教えを思い出して、すぐさま室内を確認すると、いつの間にか一人のメイドが閉じた扉の前に立ち塞がっている。
(……二対一ってリンチの範囲に入る? それともセーフ?)
イシュレアを警戒して身構えると、そんなリューイリーゼを見て、彼女はクスクスと笑いを零した。
「そんな顔をしないで。私はただお話がしたくて、あなたのお友達に協力をお願いしただけなんだから」
あの様子を見ると、協力じゃなくて脅迫でしょうが。
思わず、そう毒付きたい気持ちになる。
「何のご用でしょうか、『見知らぬお方』」
「イシュレア・エルランダよ。これで見知らぬ人ではなくなったでしょう?」
「……何のご用でしょうか、エルランダ侯爵令嬢」
親しくなるつもりはない。
そう主張するように堅い口調で問えば、イシュレアの赤い瞳がスッと細まった。
「単刀直入に言うわ。───あなた、私に協力なさい」
何とも尊大な命令だった。
自分の要求が通らないとは思っていないような言い方に、思わず眉を顰めてしまう。
「協力とは?」
「私はね、陛下が欲しいのよ」
予想していた通りの要求だった。
「政変の影響で、国内情勢は著しく変化したわ。前王妃やロンドルフ公爵を仰いでいた家の多くは没落し、その力を失った。その混乱が今だに続いているの」
口ではラームニードへの支持を表明してはいるが、前王妃やロンドルフ公爵派寄りだった家の中には、己らの地位を危うくした原因であるラームニードに理不尽な恨みを持ってたり、前王妃らの被害者ともいうべきラームニードとの距離感を図りかねていたりする者もいるという。
宰相を始めとして、心から彼の支えになろうとする者も少なからずいるが、過去のあれこれが影響して、水面下では未だに緊張状態が続いていた。
「陛下には、力のある味方が必要だとは思わない? あのお方には支えが必要なのよ」
「……あなたには、それが出来ると?」
「私はエルランダ侯爵家の娘ですもの。国内の貴族を纏め上げる事も、造作ないわ。それに、ふふ、男の方は皆『美しい花』がお好きでしょう? 慰められるもの」
その言い様に嫌悪感を覚えたリューイリーゼが顔を顰めると、イシュレアはその自信を示すように、その赤い唇をニイと釣り上げた。
「協力してくれるならば、いくらでも報酬は出すわ。あなたの家を援助してもいいし、婚約相手を見繕う事も出来る。どうかしら? 悪い話ではないでしょう?」
彼女が出す条件は、リューイリーゼにとって都合が良過ぎるものばかりだった。
恐らくは、リューイリーゼの事情も何も全てを調べ尽くした上で提示しているのだろう。
──それでも、リューイリーゼはこう告げた。
「お断りします」
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