【本編完】呪いで服がハジけ飛ぶ王様の話 〜全裸王の溺愛侍女〜

依智川ゆかり

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第一章 王様と呪い

15、思い切って疑問をぶつけてみる

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「…………どうして、陛下は敢えて厳しい言い回しを選ぶのかと思いまして」 



 ラームニードに仕えて、リューイリーゼも多少なりとも彼の性格や考えを知った。
 だからこそ、疑問が浮かぶ。


「どう考えても、呪いが発動しなくても良い場面でも呪いが発動しているように思えるのです。それがどうにも不思議で」


 怒りが原因で呪いが発動したのなら、まだ分かるのだ。しかし、臣下の報告を聞く時、あるいは臣下を労う時など、そうでない部分が多々あるから気になる訳で。
 
 首を傾げたリューイリーゼに、ラームニードは眉を顰めた。
 その表情は、少し呆れたようだ。


「それならば、普通に聞けば良かっただろう」


 ラームニードの指摘も尤もだが、リューイリーゼだって色々と思うところがあったのだ。
 

「……だって、仮にも一国を統べる立場のお方に『露出癖があるのですか?』とは聞きにくいではないですか……」
「もっと他に言いようってものがあるだろうが!」
「率直な物言いがお好きと伺ってはいたのですが、どの程度までの率直ならば大丈夫なのかを図りかねてまして」


 もはや無礼なのか、そうではないのかの度胸試し状態だ。
 いくら思い切りが良いと言われるリューイリーゼでも、流石にそこまでの勢いの良さは持てなかった。
 下手に調子に乗って軽口を叩いて処刑になるよりも、様子を見て距離感を測りたかったというのが本音である。



「こんな馬鹿を警戒した俺が馬鹿だった……」



 ラームニードは頭痛がするとでも言わんばかりに頭を抱えている。
 

「この際なのでお尋ねしますが、どの程度までの率直ならお許し頂けますか」
「……この俺に対して、一番率直に物を言うのは宰相だ。後は察しろ」
「……成程?」


 確かに、その発言でラームニードを怒らせる事も多い宰相ではあるが、それでも最低限の節度は保っているように見えた。
 礼儀を忘れずに時と場所にさえ気を付ければ、ある程度までは許容してくれるという事だろう。そう納得して、リューイリーゼはホッと胸を撫で下ろした。
 


「……とにかく、だ」



 ラームニードは、話題を戻した。
 

「露出癖などある訳ないが、たとえ呪いが発動しようと俺は気にはせぬし、言いたい事は言いたい時に言う性分だ。……呪いが発動しなくてもいい場面だったというのは、貴様のただの思い違いだ」


 貴様ごときが、俺の何を知っているという。
 ラームニードの視線が、そう強く主張している。

 リューイリーゼは、ううんと考えた。
 確かに、本人がそう言うのならそうかもしれないけれど。
 


「……ですが、実際怒ってらっしゃらない時があるではないですか」
「何?」


 そう断言すれば、ラームニードは虚をつかれたような顔をした。


「例えば、本日ハーリ財務大臣様が報告にいらっしゃった時に呪いが発動しました。ハーリ財務大臣様は物腰も低く、真面目で誠実な方です。私が見ていた限りでは陛下の気分を害するような言動をしていたようには思いませんでしたし、陛下も彼に対し、特に悪感情を抱いたようには思えませんでした」


 侍女であるリューイリーゼに対してですら、「スミマセンスミマセン」と頭を下げるような人だ。
 へり下りすぎて腹が立つ、と言われたらそれまでだが、あの時ラームニードが苛立ったり、腹を立てた様子は微塵も感じなかった。
 
 ただ、まるで普通の挨拶のようにこう告げたのだ。
 ──「ご苦労だった、このゴミムシ野郎」と。

 当然ラームニードの服はハジけ飛び、ハーリ財務大臣は突然半裸になった国王に動転し「ゴミムシでスミマセンスミマセン」とコメツキバッタのように頭を下げていた。普通に可哀想である。

 リューイリーゼの指摘を黙って聞いていたラームニードは、そっと視線を逸らした。
 この反応は図星だろう、と判断したリューイリーゼは更に追求する。


「もう一度確認しますが、別に陛下には露出へ……」
「ああ?」


 まるでゴロツキのような物凄い目で睨まれたので、言い直す。


「……いえ、服を自ら脱ぎたい欲求などはないのでしょう?」
「そんな欲求あってたまるか」
「それでは、何故でしょうか?」


 リューイリーゼがじっと見つめれば、ラームニードは視線を泳がせる。いつも堂々とした彼に珍しい、バツの悪そうな顔だ。
 

「……い」
「はい?」
「…………別に、あれは罵倒してはいない」


 予想外の答えに、リューイリーゼは目を丸くした。


「ええと……つまり、あれは陛下にとっては褒め言葉だったと?」
「……そういう事になる」
「ゴミムシ野郎、がですか」
「…………」


 ラームニードは渋い顔で黙り込む。すなわち、肯定だった。
 
 どうして褒め言葉が罵倒へと変化してしまうのだろうか。
 リューイリーゼの疑問は、深まるばかりだ。

 
「陛下、お尋ねしても?」
「……何だ」
「たとえば、ハーリ財務大臣様が何か失敗したとしましょう。その時、陛下でしたら何と声を掛けられますか?」
「『無様だな、このゴミムシ野郎』」


 パァンと服がハジけた。
 困惑しながらも、リューイリーゼはすぐさまラームニードに服を着せかける。


「罵倒とほぼ同じではないですか。『ゴミムシ野郎』を愛称のように使うのは、如何なものかと存じますが……」
「知らん。あいつの顔を見たら、それしか頭に浮かばなかった」
「それはそれで、ハーリ財務大臣様がお可哀想ですよ……」


 リューイリーゼは何とも言えない気分になった。
 まさか、この人は素直に褒め言葉を言えないという呪いにでも掛けられているのではないだろうか。前例があるだけに、そんな疑念が過ぎってしまう。 
 

 
「どっちにしろ、俺は言いたい事を曲げるつもりはない。たとえその結果、全裸になろうが些末な事だ」


 
(……些末……? 全裸を本当に些末で済ませて良いの……??)


 胸を張るラームニードを見て、リューイリーゼは自分の中の常識が合っているのか、段々不安になってきた。

 ラームニード自身がそう思うのであれば『些末』なのかもしれないが、彼を仰ぐ国民からすれば決して『些末』な問題ではない。むしろ、全力で隠すべき恥部ではないだろうか。全裸なだけに。
 

 ……それに、だ。



「でも、それでは陛下の脱ぎ損ではありませんか」
 







 
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