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第一章 王様と呪い
13、ラームニードの悪夢、からの……?
しおりを挟む「いだだだだだだだだ、痛い! 痛いって、勘弁して!!!」
「ええと……これはどういう状況で……??」
悲鳴を聞きつけたのか、息を切らせたリューイリーゼとアーカルドが部屋に飛び込んできた。
その視線の先には、キリクに関節技を極められて、悲鳴を上げているノイスがいる。
「見ての通りだ」
「見ての通り、と言われましても……。って、陛下!」
ふんと鼻を鳴らしたラームニードに気付いて、リューイリーゼがギョッとした顔になる。
理由は勿論、半裸だったからだ。
「気にしない方が良いと思いますよ。どうせノイスが余計な事を言ったのでしょうし」
「陛下の代わりに制裁中、です」
慣れた様子で護衛としての定位置に戻るアーカルドと、未だノイスを締め上げ続けているキリクにそう言われ、リューイリーゼは困惑しながらもラームニードに駆け寄ってくる。
その手に持っていた服を着せかけられながら、ラームニードはため息をついた。
「……疲れた。少し休む」
なんだか、とても頭が痛い。
「ちょっと! オレはずっとこのままなんですか!?」
「その煩いのは今すぐ部屋から放りだせ。今すぐにだ」
****
夢を見た。
瞬時にそれが夢だと分かったのは、目の前にもうここにいる筈のない人間がいたからだ。
『お前なんて、死ねばいいのに』
銀髪の女がそう笑う。
月の女神のようだと讃えられた美貌の持ち主ではあったが、ラームニードに言わせれば毒蛇だ。
その金色の瞳はいつも、今にも締め殺してきそうな狂気を孕んでこちらを睨みつけてきた。穏やかな微笑みなど、ついぞ覚えがない。
『私はね、お前がずっと嫌いだった。その顔も、その髪も、その声も、全部あの男と同じ。それで、私がお前を愛せると思う? あの憎くて憎くて堪らないあの男の息子である、お前を!!』
艶やかな銀色の髪を振り乱し、その瞳に浮かぶのは憎悪だ。
『お前さえ、あの男さえいなければ、あの人と一緒になれた。誰に憚る事なく、あの人を愛せた!!』
『お前など産まなければ良かった。死ねばいい! むしろ、私が殺してやれば良かった!! 殺すべきだった!!! もっと小さいうちに、くびり殺しておけば良かった!! ははは、はははは、あははははははは!!!』
女はいつもと同じ文言を言い放ち、そのまま狂ったように笑い続けた。
『私は、貴方が嫌いでした』
ふとその姿が、銀髪の少年の姿へと変わった。
『貴方は私の憧れだった。私が欲しいものを、全て持っていた。……貴方のように、なりたかった』
その顔には確かに先程の女の面影が残っているのに、その表情は大きく違った。
いつもまるで慈愛に溢れた聖人のような顔で笑っていた筈なのに、今では悲しげな顔しか思い出す事が出来ない。
『でも、私は貴方にはなれなかった。なれる筈が、なかったんです。だから……』
ああ、もう駄目なのだと悟った。
どうしても、彼と自分の道は交わることはない。
自分も曲げないし、彼も曲げない。顔も性格も同じ所なんてないくせに、こんな所だけ、同じなのだ。
それならば、やらなければならない。
他でもないラームニード自身の手で終わらせなければならない。
数年前に抱いたものとまるで同じ決意を胸に、ラームニードは彼へと手を伸ばす。
『──貴方を』
──お前をこの手で、
『──────殺すしかなかった』
──────殺すしかなかったんだ。
***
目を覚ますと、目の前に見えたのは女の顔だった。
「きゃあ!?」
思ったよりも近かったその距離に驚くよりも先に、こちらに伸ばされていたその手を掴んで寝ていたカウチに押し付け、細い首をわし掴む。
すでに彼女の命運はラームニードの手に握られていた。
女──リューイリーゼの瞳に浮かんだのは、恐怖だ。その顔は青ざめ、心なしか震えている。
ラームニードは青ざめながら震える彼女に、至極凶悪な笑みを見せた。
「……貴様ァ、とうとう馬脚をあらわしたか?」
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