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ラストケース 人柱:被害状況『山賊』

4-6、私達の戦いはこれからも続く

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 ──マルクダーマ事件における被害者十名の魂の保護に成功。
 
 ──うち八名は墜ち神、及び墜ち神予備軍。
 その内、魂の欠損が五割を超えている者が五名、八割を超えている者が二名。

 ──いずれも浄化処理の必要性がありと判断し、鎮魂課へと移送済み。以後は鎮魂課の管理下に移る。



***



「課長、どうぞ」
「……ああ、見守みかみくん。ありがとう」


 見守くんが差し出してくれたマグカップを受け取り、一口飲む。
 そして、自分が常世とこよパソコンに打ち込んだ報告書を見て、自然とため息が出た。

 毎度の事ながら、物凄く気が重い。
 けれど聞かねばならないと、傍らに立つ見守くんを見上げた。


「鎮魂課の方はどういう感じだった?」
「今纏めて第一工程を始めています。第一工程から進んだ後も、暫く白矢凪しろやなぎさんを借りれるかと物部さんから要請がありましたが」
「ああ、了解。本人もそれを望むだろうしね」
「そう言うと思って、既に許可は出しています」
「流石見守くん」


 やっぱり、出来る女は違う。
 そう褒めると見守くんは一瞬だけ嬉しそうに顔を綻ばせて──それでから、悲しげに眉を落とした。
 その気持ちは、痛い程分かる。


「毎回思うんですが、何というか……やるせないですね」
「そうだねぇ……」


 報告書に書いた通り、異世界マルクダーマから取り戻してきた魂の被害は酷かった。
 
 損傷が激しくないものはともかく、欠損が五割を超えるものに関しては、現状では魂として機能する事すら難しい状態だ。
 浄化の第一工程を終えたら、最低でも五十年以上──下手をすれば百年以上の時間を掛けて再生させる事となるだろう。



「でもさ、その気持ちがきっと一番大切だよ」
「やるせなさが、ですか?」
「そう」


 この仕事をやっていて、こういった被害を目の当たりにしたのは一度や二度の話ではないが、私達だけはそれに慣れてはいけない。
 私達にとっては『よくある事』でも、被害者達にとってはそうではないからだ。



「確かに、職務上感情的になる事はあまり良くはないね。けれど、彼らの為に感じる怒りや悔しさは決して悪いものじゃないし、むしろ大切にしなきゃいけない。……きっと、異世界対策課が一番被害者達の心に寄り添ってあげられると思うから」


 異世界の神の理不尽に一番困っているのは、攫われた被害者達だろう。
 今現在も進行形で被害に遭っている彼らの為に、落ち込んでいる暇も立ち止まっている暇もない。



「彼らと共に存分に怒り、悔しがって、その気持ちを原動力に明日の被害者を救うんだ」


 
 そう言った次の瞬間、課内にエマージェンシーコールが流れた。



「新たに一件の異世界転生被害を確認しました。再犯で被害レベルは『窃盗』。至急対応を願います」



 見守くんと思わず顔を見合わせて、それぞれ苦笑を浮かべる。
 どうやら、私達には休憩の時間すら与えてくれないようだ。



「明日どころじゃなくて、直ぐに来ちゃいましたね」
「……あー、もう。休憩する暇もないかー……。折角見守くんが美味しいお茶を淹れてくれたのに」



 もっと味わいたかったという気持ちを堪えて、マグカップの中身を一気に飲み干す。
 そんな私に、見守くんは「そんなもので良かったら、いつでも淹れますよ」と笑った。流石、出来る女神は違う。



「じゃあ行こうか、見守くん」
「はい、神田課長」



 我ら異世界対策課の戦いは、今日も続く。
 


 ───ひとりでも多くの人々を救うために。




 
***



最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!
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