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これまでの裏話
ケース3裏 side 勇者タツヤ3 最終決戦に臨む前に
しおりを挟むそれから、俺達はいくつかの決まり事を作った。
一向に誘いに乗らないこちらに焦れて、既成事実を作ろうとしたり、稀少な魔道遺産を使ってこちらを意のままに操る強硬手段に出る人間が出ないとも限らない。
その為、なるべく一人では行動しない事。そして、力と魔法のどちらに対しても対抗出来るように、出来れば男女でペアを組む事。この二つだ。
それが正解だったと、直ぐに分かった。
俺とミオは小中学から同じの幼馴染で、リョウタとアヤハは同じクラスでそれぞれ気安い相手だったから、自然とその組み合わせになる事が多かった。
これまでそんな素振りは無かったのに決まった男女二人での行動が増えたという事で、どうやら傍目からは勇者パーティー内でカップルが二組誕生したと思われたらしい。
そして、それはどうやらこの世界の人達にとっては想定外だったようだ。
四人を四カ国で分け合うつもりだったのに、俺達同士で結婚してしまったらその内の二国が諦めなければならない可能性が浮上して来たからなのではないかと思う。
どうにかして別れさせようと干渉してくる者。
ハニートラップに更に力を入れる者。
魔王を倒した後は自国に来るようにとの圧を強める者。
自国のライバルとなる国へ牽制を仕掛けたり、追い落とそうとする者。
囲い込もうとしている事を隠さなくなった彼らに、流石に呆れてしまう。
「ここまであからさまだと、流石に笑えないな」
「ね」
いつもの聖教会からの呼び出しに付き合った帰りに、ミオと二人でため息を吐いた。
……というかあのイケメン司教、ミオを口説く為に行く先々の教会に現れるけど、暇なのかな。転移魔法もそんなにポンポン使えるものじゃないと思うんだけど。
「まだ魔王も倒してないのに、気が早すぎるよね……」
「相手にするのも面倒だな。……そんな余計な事に時間を取られてる暇はないのに」
魔王を倒す旅を始めてから、もう直ぐで一年が経つ。
元の世界と時間の流れが同じかは定かではないが、学生にとって一年は長く、貴重だ。年内に帰れるのなら帰りたいと、魔王城へ向けてラストスパートを掛けている最中だ。
命を懸けた最終決戦に挑む緊張感でピリピリとしている所に水を差されて、リョウタなどはあからさまに機嫌を悪くしていたし、流石に俺だって気分が悪い。
そもそも、誰の為に俺達がこんな苦労をしていると思っているんだ。
頭の中が花畑な人達に構ってやる義理はない。
「ミオは絶対に単独行動はしちゃ駄目だからな。それと、聖教会の人からは物を受け取らない事。食べ物なんて以ての外だからな」
「ふふ、大丈夫だよ、分かってる。タツヤくん、心配性なのは昔から変わらないね」
クスクスとミオは楽しげに笑った。
「こうやって二人で歩いてると、学校の帰りを思い出すね」
「ハンバーガー食べたり、アイス食べたり?」
「ふふ、そうそう!」
俺とミオは家も近く、帰る方向はほぼ同じだ。
いつもという訳ではないが、偶然居合わせた時にはこうして一緒に並んで帰る事もあった。
「……懐かしいね」
故郷を思い返すように目を細めたミオは、平静を装ってはいるもののどことなく不安そうに見える。
その気持ちは、俺にも痛いほど理解出来た。
魔王に勝てるだろうか。
四人とも生きて戻って来れるだろうか。
本当にあの世界に帰れるだろうか。
旅の終わりが見えてくると同時に、今までがむしゃらに走り続けて考えないようにしていた不安が頭を過ぎって仕方がない。
……でも、だからこそ。
「ミオはさ」
「え?」
「元の世界に帰ったら、一番何を食べたい?」
ミオは一瞬キョトンとして、そうだなぁと考え込んだ。
「うーん、……美味しいケーキ、かな」
「じゃあ、帰ったら一緒に美味しいケーキを食べに行こう」
『もしも』ではない。『絶対に』帰るのだ。
そんな決意を込めて提案すれば、その目を大きく丸くしていたミオがくしゃりと笑んだ。
嬉しそうな、それでいて少し泣き出しそうなその笑みがやけに綺麗に思えて、思わず息を呑んでしまう。
「……二人で?」
「え?」
「リョウタくんやアヤハにはちょっと悪いけど……私、タツヤくんと二人で行きたい」
それなら頑張れる気がする、と仄かに赤らんだ顔で、ミオは言う。
──その熱が含まれた視線の意味に、気付かざるを得なかった。
え。
──────え!!!?
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