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これまでの裏話
ケース2裏 side アルバータ神3 全てがもう遅い
しおりを挟むアルバータに帰った私は、呆然とその光景を見つめていた。
魔女が死の瞬間放った瘴気は、王都を丸ごと飲み込んでいた。
瘴気に毒された民衆は病に倒れ、また心を蝕まれて正気を失ったり、命を落とす者も徐々に増えてきている。
聖女ミルリアも必死に浄化の力でそれに対抗しようとしてはいるが、状況は芳しくない。
カンダの言った通りだ。
ミルリアは魔女──チエミ程の聖女としての才はない。
チエミ程の力の出力を、彼女に求めてはいけないのだ。
ミルリアも頑張ってはいるが限界も近く、浄化の力も徐々に弱まってきていた。
このまま力を行使し続ければ、いずれミルリアは力尽きてしまう。
そうすれば、命を落とす民衆が一気に急増するだろう。
そして、その民衆の亡骸から再び瘴気が湧き、いずれ国を──そして世界を飲み込む。
別の国で新たな聖女を探す事も考えた。
しかし、居ても一人か二人、ミルリアと同等程度の力の者しかいない。
その程度の力しか持たない聖女に、ひとつの国を飲み込む程の瘴気を浄化を求めるなど荷が重すぎる。焼石に水でしかないからだ。
慌てて異世界に戻って、チエミの代わりの聖女を見繕うしたが、それも無理だった。
例の異世界へと続く門が、どう足掻いても開かないのだ。
『──二度とお会いする機会がありませんように』
カンダが最後に残した言葉を思い出す。
あの男は、あれでも神の一柱だ。奴が何かをしたのだ。
そう確信すると同時に、もう打つ手が無いと絶望的な気持ちになる。
──どうしてこんな事になってしまったんだろう。
壊れかけた世界で、私はそう呟いた。
異世界から聖女を召喚したから?
その聖女が殺されるのを、黙って見過ごしたから?
墜ち神に堕ちてしまう程、聖女に絶望を与えたから?
……いいや、違う。
もう、理解している。
そもそも、瘴気が生まれた時点で止めなければならなかったのだ。
全ては、聖女から始まった訳ではない。
戦争の道具として使う為に行われた魔獣を使った非道な実験と、そこから生まれた瘴気から全てが始まったのだ。
幾ら愛し子らの仕業だったとしても、ちゃんと諌めなければならなかった。
その尻拭いを、何の関係もない異世界の聖女に押し付けるべきではなかった。
聖女が瘴気を浄化してくれるからと、実験を再開させた子らを止めるべきだった。
もし、初期段階で止められていたならば。
もし、聖女に魅了の力なんて与えなければ。
もし、聖女をちゃんと大事に扱っていたならば。
……そう気付いても、もう遅い。
幾ら神とはいえ、私にこの状態を打破する力などないのだ。
──────本当に、どうしてこんな事になってしまったのだろう。
私は嘆きながら、愛した世界の終わりを見守り続ける。
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