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これまでの裏話
ケース2裏 side アルバータ神2 聖女は生贄となった
しおりを挟む「刑の執行だ!」
人々の歓声が上がった。
壇上に引き摺るように上げられた魔女に、石や腐った卵が投げられる。
「ねえ、誰か助けて! マーたん、ミルちー! 皆、誰か助けて!!」
汚れ、傷付く彼女の呼び掛けに応える者は誰もいない。
当然だ。
既に彼らは魔女を生贄とする事に決めた。
──真なる聖女の愛の力で呪いが解けた王子が、悪の魔女を打ち倒した。
そんな誰もが夢見るような英雄譚を作る事で、たった一人の少女に国の中枢部が揃いも揃って良いようにされたという事実から目を逸らさせる。
魔女に全ての罪を擦り付ける事で、自分達の名誉を守るのだ。
その為には、魔女は絶対悪でなければならない。
慈悲も同情もしてはならない。
だからこそ、彼らは声を上げた。
「黒き魔女に鉄槌を!」
「「鉄槌を!!!」」
まるで大地が揺れるかのような歓声だ。
助けてくれる者は誰もいない。皆が己の死を望んでいる。
その事実が、彼女を絶望のどん底に突き落とした。
「……私じゃない」
掠れた声で、彼女は呟く。
「私じゃない! 私は悪くない! 何で、何で───ッ!!!」
跪かされた彼女の首に、処刑用の大斧が振り下ろされる。
邪悪な魔女の死に、観衆が大いに沸いた。──その時だった。
『──────許サナイ』
次の瞬間、おどろおどろしい呪詛の言葉と共に、その屍から黒い瘴気が勢い良く吹き出した。
「な、何だこれは!?」
「瘴気だ!」
「きゃあ、誰か助けて!!」
「聖女様!!」
広場は大混乱に陥った。
あちらこちらから悲鳴が上がり、瘴気に当てられた民衆がバタバタとその場に倒れていく。
──最期までロクな事をしない娘だ!
そう舌打ちをして、先程まで魔女だったモノを結界で包み、拾い上げた。
墜ち神は、存在するだけで瘴気を生む。
私自身はそこまで浄化が得意な訳ではないし、このままコレをこの世界に置いておいても良い事は一つもない。
そうだ、さっさと返品してしまえば良いんだ。
「ミルリア、瘴気を頼んだよ」
浄化の力を使って瘴気と懸命に戦うミルリアに後を任せ、私は異世界への門を潜った。
***
「──文句を言いたいのは、こちらの方ですよ」
墜ち神と化した魔女の魂を返還し、簡単に堕ちてしまった事への苦言を呈せば、異世界の神──異世界対策課のカンダと名乗る男はそうため息を吐いた。
「勝手に我が子を攫われて、徹底的に痛めつけられて、最期には堕とされて帰された。……『どうして』? それはこちらの台詞です。彼女が何をしたというのですか」
その声音は、こちらが驚く程静かだ。
しかし、その目に浮かぶ確かな批難に、何だか据わりが悪いような心地になる。
「……あの娘が聖女として相応しい振る舞いをすれば、良かっただけの事じゃないか」
「それはそちらの都合でしょう? 彼女が自ら聖女になる事を望みましたか?」
言われて、思わず言葉に詰まる。
確かに、それは違う。
聖女の才能を持った人間を見つけたから丁度良いと思って、それで……。
しかし、こちらが望んでやったのだ。
何より、アルバータの危機だ。それに相応しい働きをするのは当然だろう?
「……多分、あなたなら今の私の気持ちをご理解頂けると思いますよ」
そんな私の考えが透けて見えたのか、カンダはバッサリと言い捨てた。
「そちらの世界の事情なんて、こちらには知ったこっちゃないですね。あなた方は、可愛い我が子を傷付けた。……それだけが全てです」
自分が感じていた憤りをそっくりそのまま返されて呆然とする私に、もう用は無いとばかりにカンダは立ち上がった。
「ともあれ堕ちてしまったとはいえ、彼女を帰して頂けた事は感謝しますよ。……さあ、ご自分の世界にお帰り下さい」
「待ってくれ、代わりの聖女を……」
「聖女なら、もうあなたの世界にいるでしょう? ……それに、早く帰った方が良いんじゃないですか?」
「え?」
何を言われているか分からず、キョトンと目を瞬く。
そんな私に、逆に驚いたとばかりにカンダは目を丸くした。
「驚いた。……別に破滅願望がある訳ではなかったんですね」
「……どういう、事だ?」
「どういう事も何も、瘴気の根源を絶つ気が無さそうだから、てっきりそういうつもりなのかと……。それに彼女……白矢凪さんが聖女になってから、少し感覚が鈍ってるんじゃないですか?」
静かな部屋の中で、カンダの声がやけに大きく聞こえた。
背中を嫌な汗が流れていく。
知りたくない。気付きたくない。
そんな私の願いなど知りもせず、カンダは私に現実を突き付けた。
「──覚醒したばかりの聖女が、そこまで強い力を行使出来る訳ないでしょう。片や天才、片や凡才。元々それ程までに差があるというのに」
弾ける様に立ち上がり、私の世界へと戻る。
転移する瞬間、カンダの「二度とお会いする機会がありませんように」という言葉がやけに耳に残った。
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