上 下
19 / 35
ケース3 勇者召喚:被害状況『窃盗』

3-6、面談室、再びです

しおりを挟む

「もー!! さっさとその指輪を渡して、仲直りしてきて下さい!!」
 

 伊邪那岐命イザナギノミコトをそう叱り飛ばして、面談室の方へと戻る。


「神田課長、おかえりなさい」
「課長、おかえりなさーい」


 小部屋に戻ると、見守みかみくんと白矢凪しろやなぎさんが出迎えてくれた。
 白矢凪さんは香山こうやま達のやり取りを見学しながら、見守くんに交渉や説得に関する手順やコツなどを教わっていたらしい。


「見守くん、どんな様子だい?」
「見ての通りのこう着状態です。話題が堂々巡りしています。そちらの方はどうでしたか?」
「こっちはいつもの痴話喧嘩。すぐに仲直り出来そうだったから……もうすぐじゃないかな?」


 その時、ピコンと音が鳴った。
 それに一番に反応したのは、ルクシオ神だ。
 


「あっ、伊邪那美イザナミちゃんから念写メールだ。……えー、『ごめん、こないだの話は無かった事にして』だって』


 約束したのに酷いなぁ、とルクシオ神はぼやいた。

 ルクシオ神のように、幾らこちらの現状を伝えても聞かない相手には、許可を出した本人から直接お断りしていただくのが一番手っ取り早い。
 
 これでもう「伊邪那美イザナミちゃんが言ったから」では済ませられない。
 今がチャンスだとばかりに、香山が攻めに転じた。


「先程から何度も言っているでしょう。その念写からも分かるように、残念ながら元来伊邪那美命イザナミノミコトは、我が国民の行く末を勝手に左右出来るような権限はありません。誤解を与えてしまったのはこちらの不手際ではありますが、どうかご理解頂きたい」
「えー、僕は良いよって言われたから、そうしただけなのに」


 何食わぬ顔をして言うルクシオ神だが、それは苦しい言い訳だ。
 思わず口を挟む。


『香山、カスタマーサポートNo.239308』
『分かってる』


 香山はすぐに察したらしく、「新堂、プロジェクター」と短く指示を出して、ルクシオ神に向き直る。
 

「おかしいですね。そもそも、そういった取引をするには、常世とこよ管理局を通す必要がある事は勿論知っていたでしょ?」


 新堂くんがパソコンをいじると、部屋の壁に画像が映し出された。
 
 それは、常世管理局へと寄せられた問い合わせを記録したものである。
 No.239308──そこには、我が国の人間に対する異世界召喚要請についての交渉の記録だ。
 問い合わせをしたのは、異世界の神……今目の前にいるルクシオ神の名が書いてある。


 これは公言されている訳ではないのだが、どうしても事情があって力を借りたいという神には、こちらの世界へ及ぼす影響が少ない異世界転生に限ってではあるが、条件付きで派遣を許可する事が稀にあったりする。
 
 その条件とは、まず異世界転生について転生する事になる本人に説明する事。
 いわゆる、冒頭で神様からの事情説明が入るようなアレである。神様的には二重丸の対応なので、褒めてあげたい。

 貸出期間を厳守し、魂を傷付ける事なく現状のまま返還する事。
 例えば、途中神やら精霊に転じてしまったり、墜ち神に堕としたならばアウトだ。
 また、本人が移住を希望するようであれば、異世界側の魂をこちらに交換移住させるというパターンも過去にはあった。
 ……色々手続きが面倒なので、出来ればやって欲しくはないけれど。

 他にも、異対課の協力要請には可能な限り応える事や、異世界転生をした事を他言しない事。
 最低でもこれらの約束をきちんと守るのであれば、こちらも検討する余地は生まれなくもない。


 しかし、資料には大きく『不許可』の赤い印が押されている。
 
 ルクシオ神が異世界転生ではなく召喚を希望し、勇者の血をルクシオに残し、また死後は眷属として召し上げたい為、こちらの世界に戻すつもりはないというのが大きな理由だ。

 既に弾かれている証拠を突き付ければ、ルクシオ神は今まで飄々とした様子から一変して、いかにも不愉快そうに顔を顰めた。


「だっておかしいじゃない。何で異世界転生は大丈夫で、異世界召喚は問答無用で駄目なの?」
「その理由も散々お話ししたと思いますけどね」
「それに、僕の世界で子々孫々まで勇者として敬われるんだよ? それに人間なんていっぱい居るでしょ? 四人ぐらい良いじゃん。何の問題があるっていうの?」
「……あぁ?」


 香山の声が一段低くなる。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした

あおアンドあお
ファンタジー
ギガン城と呼ばれる城の第一王女であるリコット王女が、他の世界に住む四人の男女を 自分の世界へと召喚した。 召喚された四人の事をリコット王女は勇者と呼び、この世界を魔王の手から救ってくれと 願いを託す。 しかしよく見ると、皆の希望の目線は、この俺...城川練矢(しろかわれんや)には、 全く向けられていなかった。 何故ならば、他の三人は若くてハリもある、十代半ばの少年と少女達であり、 将来性も期待性もバッチリであったが... この城川練矢はどう見ても、しがないただの『おっさん』だったからである。 でもさ、いくらおっさんだからっていって、これはひどくないか? だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし... 周りの兵士や神官達も蔑視の目線は勿論のこと、隠しもしない罵詈雑言な言葉を 俺に投げてくる始末。 そして挙げ句の果てには、ニヤニヤと下卑た顔をして俺の事を『ニセ勇者』と 罵って蔑ろにしてきやがる...。 元の世界に帰りたくても、ある一定の魔力が必要らしく、その魔力が貯まるまで 最低、一年はかかるとの事だ。 こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から 出ようとした瞬間... 「ぐふふふ...残念だが、そういう訳にはいかないんだよ、おっさんっ!」 ...と、蔑視し嘲笑ってくる兵士達から止められてしまうのだった。 ※小説家になろう様でも掲載しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

月白色の叙情詩~銀礫の魔女が綴るもの~

羽月明香
ファンタジー
魔女は災いを呼ぶ。 魔女は澱みから生まれし魔物を操り、更なる混沌を招く。そうして、魔物等の王が生まれる。 魔物の王が現れし時、勇者は選ばれ、勇者は魔物の王を打ち倒す事で世界から混沌を浄化し、救世へと導く。 それがこの世界で繰り返されてきた摂理だった。 そして、またも魔物の王は生まれ、勇者は魔物の王へと挑む。 勇者を選びし聖女と聖女の侍従、剣の達人である剣聖、そして、一人の魔女を仲間に迎えて。 これは、勇者が魔物の王を倒すまでの苦難と波乱に満ちた物語・・・ではなく、魔物の王を倒した後、勇者にパーティから外された魔女の物語です。 ※衝動発射の為、着地点未定。一応完結させるつもりはありますが、不定期気紛れ更新なうえ、展開に悩めば強制終了もありえます。ご了承下さい。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...