こちら、異世界対策課です 〜転生?召喚?こちらを巻き込まないでくれ!〜

依智川ゆかり

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ケース2 聖女召喚:被害状況『墜ち神』

2-3、飲み会ではありません、浄化作業です

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 鎮魂課浄化作業室。
 ここは墜ち神の浄化作業を行う場所であり、通称『カウンセリング室』──またの名を『愚痴部屋』とも呼ばれている部屋でもある。



「だって、おかしいじゃない!!!」



 黒いモヤ──穢れを纏った少女がテーブルに突っ伏し、叫んだ。



「私だって色々頑張ったもん! 何で断罪とかされなきゃいけない訳!? 意味分かんない!!」
「そうだよねぇ、白矢凪しろやなぎさんも頑張ったよねぇ」



 今回の墜ち神……一応被害者の括りに入れておこうか。
 被害者の名前は白矢凪チエミさん。加害者はアルバータと呼ばれる異世界の神だ。

 事の始まりは、アルバータのとある国が滅亡の危機に瀕していた事にある。
 国のとある場所に瘴気の溜まりが生まれ、その影響で人々は病に倒れていった。
 国を挙げて何とか解決を図ろうと様々な手段を講じてはみたものの効果はなく、瘴気は広がっていくばかり。
 このままでは、国が瘴気に飲み込まれてしまう。

 困ったアルバータ神は、噂に聞く異世界召喚で聖女を召喚してみる事にした。
 そうして喚ばれたのが、この白矢凪さんである。


『聖女様、私達をお助け下さい』


 当時ごく普通の大学生だった白矢凪さんは、突如国を救う聖女として祭り上げられ、チヤホヤと煽てられた。
 それでつい調子に乗ってしまい、我儘がエスカレート。その結果、断罪されてしまったのだ。

 白矢凪さんの母方の家系は、代々神社の神主を務めていたという。
 その血を引く白矢凪さんも浄化や守護に関する力が相当に強く、まさしく『聖女』と呼ばれるに相応しい素晴らしい才能を秘めていた。
 
 そんな強い力を持った彼女が怨嗟の念を残して処刑された結果、墜ち神となってしまったという訳だ。


 ……というか、そもそも召喚自体出来ればしないで欲しいし、折角召喚した人を墜ち神にして返すのはもっとどうかしている。
 例えるならば、借りた物を壊す寸前で返したようなものだ。正直、神経を疑う。

 白矢凪さん受け渡しの際に『墜ち神こんなのになっちゃったから返すね』と悪びれず言い放ったアルバータ神は、普段比較的温厚な私を始めとする異世界対策課一同から酷い顰蹙を買っていた。当然である。

 
「私だって行きたくて行った訳じゃないのに!!」
「勝手に連れて行かれたのにねぇ」
「神様ももうちょっと手助けしてくれて良かったんじゃないの!? ちゃんと聖女が出来るようにさぁ!」
「ほらほら、呑もう。色々吐き出しちゃおう!」


 憤る白矢凪さんに相槌を打ちながら、こちらも酒を煽る。
 念の為に言っておくが、これはただの酔っ払いの愚痴を聞く為の飲み会ではない。間違いなく神事の一種だ。


 浄化の第二工程は墜ち神の心の奥底から溢れ出す穢れを抑え込み、自身で自身で昇華出来るように導く事である。

 第一工程を終えて多少穢れが抑えられたとはいえ、白矢凪さんはまだ正気を取り戻してはいない。
 一見言葉を交わせているように見えるかもしれないが、会話は成立していないし、こちらの声が届いていないような状態なのだ。

 日本では古来より酒は神事に欠かせないものであり、飲んでる御神酒は鎮魂課で祈祷され、浄化を助ける作用がある。
 これによって墜ち神の浄化を促進し、私達に及ぼされる穢れの影響をも抑える事が出来る。


 今彼女に出来るのは、とにかく酒を飲ませて少しでも穢れを中和する事であり、墜ち神の穢れの元……鬱憤を吐き出させ、彼女の心を開く事だ。
 
 つまり、必要なのは需要と共感、全てを包み込むが如き慈愛の精神と寛容な心である。

 ──決して、ただの飲み会ではないのだ。
 それだけは強く主張させていただきたい。


「どんどん呑んで下さいね! おつまみもまだまだありますから!」


 新堂くんはといえばグラスに酒を注いだり、空いた酒瓶やおつまみの皿を下げたりと、せっせと細かい気配りを見せている。


 ……本当に良い子だなぁ。私泣いちゃいそう。


 まるで太陽のような笑顔の新堂くんにほのぼのとした──その時だった。



「お兄さん、そっちのきんぴら美味しかった。もっとちょうだい!」



 ……おや?
 思わず、新堂くんと顔を見合わせる。

 驚いたように白矢凪さんを見つめていた新堂くんは、すぐに「ちょっと待ってくださいね!」と笑顔できんぴらごぼうを皿に取り分けて差し出した。
 すると、白矢凪さんは「ありがと!」と一言礼を言ってから、きんぴらをモリモリと食べている。


 どうやら、白矢凪さんはちゃんと私達を認識出来るようになっているようだ。
 この様子ならば、次の段階へ進んでも大丈夫だろう。

 
 チラリとこちらを窺う新堂くんに頷いてみせて、私は口を開いた。


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