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ケース1 異世界転生:被害状況『借りパク』
3、異世界転生・召喚が禁止されている理由がちゃんとあるのです
しおりを挟む「──鬼小折さん」
表情を引き締めて、彼女の名前を呼んだ。
鬼小折さんは先程までとは空気が変わった事に気付いたのか、キョトンとした顔をしている。
「我が国の神々の間でも、一応規則というものが存在していまして。明確に文面で残しておけば良いのに暗黙の了解なんかにしちゃうから、新しく生まれた神々には周知されてないなんて事が多々あったりするのですよ」
我が国には「言わなくても分かるでしょ?」といったような同調圧力が存在するのはご存知の通りだ。
しかし、新しく生まれた神や日本国外の神──異国の神や異世界の神には通じない事が多々ある。
そもそも常識や考え方が違う相手に「遺憾の意」と湾曲表現で伝えても、互いの言い分を擦り合わせる事はほぼ不可能に等しいのだ。
……だから、こうしてハッキリと伝えなければならない。
「まず、我が国で神が人を攫う事……一般的に『神隠し』と呼ばれる行為を行うのは禁じられています。そして、異世界転生も、人の魂を神が己の異世界領域へと攫う。……つまり『神隠し』と同様の行為として、同じく禁じられています」
「へ……?」
鬼瓦さんはポカンと口を開けた。
まさか、異世界転生が禁じられている事だとは思ってもみなかったのだろう。
「な、何で……!?」
「確かに、昔はそう珍しい事じゃありませんでしたけどね」
──神は人の敬いによりて威を増し、人は神の徳によりて運を添う。
この言葉は鎌倉幕府の基本法典である『御成敗式目』の中にある一文であるが、つまりは『人間の敬う心によって神の力が増し、人間はその力の恩恵を受け、運を切り開いて行く事が出来る』といったような言葉だ。
その言葉からも分かるように、神々にとって人間達の崇敬は大きな意味を持っている。
「昔は、生贄として捧げられた人間を神嫁として召し上げたり、気に入った人間を神の領域に引き入れ、神の存在を人間達に示したのです。人間達もその頃は信心深く、神の仕業だと直ぐに察し、畏れ敬った。そうする事によって、神の威光を増す事が出来たのですから。……ですが、今の時代には、全くと言って良い程までに合っていない」
「……どうして?」
恐る恐る問われて、どう答えるべきか一瞬考える。
だが、彼女も国内の神の一柱だ。多分この伝え方で分かるだろう。
「今の時代、一人の人間が行方不明になって、『神隠しにあったんだ』と信じる人間がどれくらい居ると思いますか?」
私の言葉に鬼小折さんはハッと目を見開き、口を噤んだ。
そう。
今の時代にそれを行ったとしても、それを神々の仕業だと考える人間はまず居ない。
まず疑われるのは、何かしらの事件だろう。
誘拐、事故、殺人、失踪……。
どう転んでも、その人間の家族や友人・知人を心配させ、悲しませ、更には警察に無駄な仕事を増やし、世間を大いに賑わせる事となる。
「現在は基本的に神々は余程の事が無い限り、現世の事柄には介入しないようにしています。また、現世に混乱を齎すなど以ての外であり、神隠し──特に生きている人間を攫う場合は最悪ですね。ありとあらゆる神々が尻拭いをしなければならなくなるので」
一人の人間の運命を歪めるのだ。
その結果、あちらこちらに歪みが生まれるのは当然といえば当然である。
人々の信仰心によって神々の力が高まっていた時代ならば、力技で何とか出来た。
しかし、人間達が「イベントだし、楽しければそれで良くない?」的な軽いノリで宗教的行事を楽しんでいる現状では、強引に解決出来る程の力を持った神々の方が少なくなってきている。
つまり、それをやったら最後、他の神々にボコボコにされても文句は言えない暴挙だ。
私だって、きっとその神隠しを行った神へと詰め寄る筈だ。
───あの後処理、滅茶苦茶面倒な上、絶対臨時処理班としてうちの部署も巻き込まれるんですけど! 残業代はあなたが出してくれるんですか!?
……と。
「だから、いつしか『神隠し』は禁じられるようになったんです」
鬼小折さんは死後の魂を攫う『転生』だったからまだ良かったし、右も左も分からぬ新神だから「まーしょーがないよね」と、多少の目溢しがされている。
しかし、これがもし被害の大きい『召喚』だったなら、様々な神にもっととんでもない迷惑を掛けるところだった。
いつしか、鬼小折さんの顔は紙よりも白くなっている。
状況は大体理解してくれたようだ。
しかし、もう一つだけ言っておかねばならない事がある。
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