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忍びでマフィアなのにパティシエになった
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後日、伊東家の会長以下主だった者たちは関係者に至るまでことごとく死亡した。突如として全ての家が全焼したのだ。焼け跡からは惨殺されたとされる遺体が多数発見され、ニュースやSNS上では様々な憶測が飛び交い騒然としたが、些細な証拠すら上がってない。組織が疑われることは微塵もなく、普段通りだ。これにより死亡したとされた僕は表から姿を消すこととなった。
あまりの苛烈さに息を飲んだが、ここまでやって痕跡も残さないのは…噂通りミアのやり口だろう。
伊東ホールディングスの社員たちが路頭に迷うことになったのではと考えないでもないが、そんな甘い考えは捨てるべきことくらい覚悟は出来ている。
組織に正式に加入した僕は、履歴書に気まぐれに書いたF国留学中のショコラコンテスト最優秀賞という経歴が決め手となり、親分の専属パティシエという謎の位置付で直属の配下となった。親分からの初めての指令は妹のシャオリンに菓子を振る舞うことだった。
「美味しい!」
幸せそうに食べるシャオリンを親分は穏やかな目で見ていた。
その後は意外にも菓子作りが得意な親分の調理補助に付く。これが本業だと言われると不思議なものだが、親分にとっては重要なことのようだ。さすがにこの情報はなかった。
スパイ活動は副業との位置付けらしい。
果心一族の活躍により十分な情報を得られるようになったミアもまた、親分直属の正式な配下となった。僕と行動を共にすることが増え、その影響からか、近頃スイーツ…のような物体作りにハマっている。なぜか付き合わされるので、危険防止にゴーグルと高性能マスクは必須だ。
普通のレシピから得体の知れない物体が次々と作られ、食わせられるシウが泡を吹いて倒れることもある。ちなみに親分は食べない。
「上手く出来たらあたしもシャオリンに食べさせてあげたい!」
確かにシャオリンは可愛い。普段殺伐とした空気を醸し出しているミアでさえ溺愛しているほどだ。
だからこそ止めるのはパティシエの勤めだろう。…何かが違う気もするが。
「毒薬作りの方が向いていますよ。」
嬉々として楽しそうに作っている姿はとても暗殺者には見えず、どこにでもいる普通の女性だ。それにしては美し過ぎるが。
表の事業の経験を活かし、シウを手伝うことも増えた。
「あんた、組織乗っ取りたいの?」
ある時、おもむろにそんなことを聞かれた。こんな組織にいるのに彼は諍いに関心が薄い。不思議な人物だ。
「そんなことが出来たら面白そうですね。」
伊東家からの指令など親分は見透かしていたのだろう。僕の存在を表から消すだけの為にあんな大それたことをするとは思えなかった。
僕はと言えば、実のところどちらに付くのが得策か見定めるつもりだった。親分との会合によりほとんど心は決まっていたが。
「ま、そんなのもいーんじゃね?短い人生楽しまねーとな。でもさ、あんた来た頃より楽しそうだぜ。」
古めかしい伝統に縛られ生きてきた私には、この組織の斬新さが楽しくてたまらない。
「そう見えます?実は飼い慣らされるのも案外良いものだと思い始めていました。」
「そりゃ同感だ。ここっておもしれーよな!」
ニカッと笑うシウ。部下達が組織に馴染めるように密かに気を配ってくれていることは聞いている。頭の下がる思いだ。
相変わらず荒事や命の危険のある忙しい日々。足を洗ってしまえば簡単だったのかもしれない。
が、僕は今とても充実している。
𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹
───妹が大好きなマフィアの親分さんはお菓子作りが趣味、はその後の物語
あまりの苛烈さに息を飲んだが、ここまでやって痕跡も残さないのは…噂通りミアのやり口だろう。
伊東ホールディングスの社員たちが路頭に迷うことになったのではと考えないでもないが、そんな甘い考えは捨てるべきことくらい覚悟は出来ている。
組織に正式に加入した僕は、履歴書に気まぐれに書いたF国留学中のショコラコンテスト最優秀賞という経歴が決め手となり、親分の専属パティシエという謎の位置付で直属の配下となった。親分からの初めての指令は妹のシャオリンに菓子を振る舞うことだった。
「美味しい!」
幸せそうに食べるシャオリンを親分は穏やかな目で見ていた。
その後は意外にも菓子作りが得意な親分の調理補助に付く。これが本業だと言われると不思議なものだが、親分にとっては重要なことのようだ。さすがにこの情報はなかった。
スパイ活動は副業との位置付けらしい。
果心一族の活躍により十分な情報を得られるようになったミアもまた、親分直属の正式な配下となった。僕と行動を共にすることが増え、その影響からか、近頃スイーツ…のような物体作りにハマっている。なぜか付き合わされるので、危険防止にゴーグルと高性能マスクは必須だ。
普通のレシピから得体の知れない物体が次々と作られ、食わせられるシウが泡を吹いて倒れることもある。ちなみに親分は食べない。
「上手く出来たらあたしもシャオリンに食べさせてあげたい!」
確かにシャオリンは可愛い。普段殺伐とした空気を醸し出しているミアでさえ溺愛しているほどだ。
だからこそ止めるのはパティシエの勤めだろう。…何かが違う気もするが。
「毒薬作りの方が向いていますよ。」
嬉々として楽しそうに作っている姿はとても暗殺者には見えず、どこにでもいる普通の女性だ。それにしては美し過ぎるが。
表の事業の経験を活かし、シウを手伝うことも増えた。
「あんた、組織乗っ取りたいの?」
ある時、おもむろにそんなことを聞かれた。こんな組織にいるのに彼は諍いに関心が薄い。不思議な人物だ。
「そんなことが出来たら面白そうですね。」
伊東家からの指令など親分は見透かしていたのだろう。僕の存在を表から消すだけの為にあんな大それたことをするとは思えなかった。
僕はと言えば、実のところどちらに付くのが得策か見定めるつもりだった。親分との会合によりほとんど心は決まっていたが。
「ま、そんなのもいーんじゃね?短い人生楽しまねーとな。でもさ、あんた来た頃より楽しそうだぜ。」
古めかしい伝統に縛られ生きてきた私には、この組織の斬新さが楽しくてたまらない。
「そう見えます?実は飼い慣らされるのも案外良いものだと思い始めていました。」
「そりゃ同感だ。ここっておもしれーよな!」
ニカッと笑うシウ。部下達が組織に馴染めるように密かに気を配ってくれていることは聞いている。頭の下がる思いだ。
相変わらず荒事や命の危険のある忙しい日々。足を洗ってしまえば簡単だったのかもしれない。
が、僕は今とても充実している。
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