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新たな生活へ

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シルフェルに送られ帰郷したエミリオ達は、村に戻ると驚かれた。館に行ったままもどらず悪魔に攫われたと思われ、調査まで入ったらしい。
ティエポロに礼を言い別れ、マリアとペスを連れて家に帰った。しばらく留守にしていた家はやや埃が積もっており、ペスが大層嫌がったため三人で掃除した。

帰国前、エミリオ達はアディラに呼ばれた。
「神父殿、大変お待たせした。帰国しても問題は起きないよう万全に取り計らったゆえ、安心してバチカンの上司の元へ報告に行くとよいだろう。短い間だったが楽しかった。またいつか機会があれば会いたいものだ。マリアとペスと共に、な」
シルフェルが話を繋ぐ。
「こっちもガブリエーレに頼んどいたから大丈夫だよ。エミリオ、君は本当に興味深い人だ。また遊びに行く時にどうなっているか楽しみだよ。じゃあ帰ろっか」
エミリオは2人に深く感謝し、帰郷した。

(とは言われたものの、2人を信じていないわけではないが、不安は持ってしまうな)
急いでいたようだったのであまり説明を聞けなかったのも不安要素だが、2人から上司に会えばわかると言われてしまえば、もうやってみるしかない。
いずれにしても任務完了の報告はしなければならない。



次の日、エミリオはオルランド司教へ報告に行った。

コンコン

「エミリオ・ピカードです」
『入りなさい』
「失礼します」
エミリオとマリア(ペスはぬいぐるみのフリをしている)はオルランド司教の私室へ進んだ。
オルランド司教は窓を見たまま振り返らない。
「幽霊屋敷及び自動機械人形オートマータの任務報告に参りました」
少しの沈黙の後、オルランド司教は背を向けたまま口を開いた。
「君自身の見解で述べたまえ」
エミリオはオルランド司教の態度に任務前とは異なった柔らかさを感じた。任務においてありのままを伝えることはあっても、始めから自分の見解など求められたことがなかったからだ。
「かしこまりました。それではまず、私が屋敷で見た出来事全てをお伝え致します。」
あの母の霊が取り憑いたティエポロに誘われ屋敷に閉じ込められたこと、母の器となって操られていたマリア、悪魔が現れ契約することによって生前のマリアと同レベルの知識を得た自動機械人形オートマータマリアにより母の霊を鎮めあるべき所へ送ったこと。契約したはずの悪魔が清浄な存在になったこと。
「以上が私が見てきた出来事です。結論から言いますと、自動機械人形オートマータは存在します。しかし、思い描いていたものとは違い、慈悲の心深い存在です。私はマリアがいなければ母親の霊を祓うどころか命を落としていたと思います。悪魔との契約行為に至ったことは申し訳ございませんでした。」
いったん話を切る。オルランド司教は未だ黙ったまま背を向け窓を見ている。エミリオはアディラとシルフェルを信じ意を決し、背筋を伸ばして発言した。
「ここからは私見とお考え下さい。自動機械人形オートマータマリアと接した私は彼女は決して神を冒涜する様な存在ではなく、むしろ聖なる者として無限の可能性を感じました。我が曽祖父もそう願って作ったのだと今は信じています。そして、同時に人形ではなく普通の少女であると思っております。私はこの子に人として生きてもらいたい」
オルランド司教は固く閉じていた口を開いた。
「それは回収には反対する、と言う意味かね」
「若輩者が出過ぎたことを申しますが、そう強く願っております。彼女は物ではありません。純粋に人の心を持った少女にすぎません」
オルランド司教は窓からこちらを振り返る。複雑な顔をしてマリアを眺めている。
「なんだよじーさん。マリアいじめんな」
ぬいぐるみのフリをしていたペスが勝手に口を挟んだ。エミリオは焦ったが、オルランド司教は軽くため息を吐くだけだった。
「どうやら上から来た話は本当のようだな。」
司教は呟くように言うとマリアに近付くと、緊張している様子のマリアに目線を合わせるように腰をかがめ、穏やかに話しかけ始めた。
「初めましてお嬢さん。私はオルランド。エミリオの師匠のような者だと思ってください」
オルランド司教の柔らかい様子に安心したマリアも挨拶を返す。
「初めまして、オルランドさん。私はマリアです。ペスが失礼なことを言ってすみません」
「そうか、そのうさぎさんはペスというのか。君もよろしく」
「ふん…」
「もー、ペス!ちゃんとご挨拶して!」
「だってこのじーさん、マリアいじめようと…」
ワイワイ話す2人にオルランド司教は目を細め、よっこらしょと立ち上がり、エミリオの方を向いた。
「エミリオ、自動機械人形オートマータの捜索及び回収は打ち切られた。ゆえにそのようなものは存在しない。君の今回の任務は屋敷の浄霊だった。そういうことだ。これからも励みなさい」
何があったのかエミリオは何となく察した。シルフェルとアディラの尽力の賜物だろう。
ただ、オルランド司教も実際にマリア達を見るまでは判断を保留にしていたのかもしれない。この清浄さと陰謀が共存するバチカンにおいて、気を抜けない立場である司教の苦労はエミリオの想像以上なのだろう。
「ありがとうございます…」
「君は任務を無事やり遂げた。礼を言うのは私の方だ。よくやってくれた」
柔和なオルランド司教の目にエミリオは報われた気がして涙がこぼれた。司教はポンと肩を叩いてエミリオを労った。

エミリオ達が部屋を出た後、扉をしばし見つめる。
「人ならざるものとの共存、か。神よ、彼らの前途に大いなる祝福を。」
オルランド司教は十字を切り祈った。



報告から数日後、エミリオはバチカンからほど近くの村の教会で働くよう通達が来た。学校も開いているその教会ではマリアも生徒として学び、友達ができた。3人がゆったり暮らせる家も与えられ、賑やかな毎日を過ごしている。
そして祓魔師エクソシストとしての任務がある場合、バチカンのオルランド司教に呼ばれ、相変わらず様々な場所へ派遣される。今までと違うのはそこにマリアとペスがいることだ。

「マリア、ペス、任務だ。出かけよう」
「はーい!」
「しかたねーなー」

人と機械の少女と元悪魔。
彼らの前途は明るい。
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