上 下
11 / 26
[二巻]

四限、コミフリ戦士……1

しおりを挟む
 緊急総会から一週間が経った水曜日の放課後。
 鉄也は絶望の淵に立たされていた。
 座り込む鉄也を、舞子、丸山、そして逓信部の仲枝が囲んでいた。
 本来ならば逓信部の放課後の活動拠点は内信が収集された部室。
 にもかかわらず、部長である彼女がここにいるのには理由があった。
 机の上に束ねられた茶封筒の山を指すと彼女は忠告を始めた。
「鉄也くん。ボクもこれが活動だから運んでやるけど、この量の受取拒絶は見たことないよ」
「郵便って『この人はいません』っての以外にも返ってくるんだな」
「切手も金融商品だから、お金払ってる人には悪いとは思うけど。たださ、逓信部はあくまでも学外の本物を模倣してるだけに過ぎないし、できれば受け取ってくれるかどうかを相談してから差し出してくれないかな。その分の苦情を受けるのはボクらなんだよ?」
 実はこの束、鉄也が舞子支持者を集めるために一斉に差し出したものであった。
 舞子に「気を引き締めろ」と釘を差しておきながら、彼自らが後手に回ってしまっていたのだ。
 そのため中堅どころの部の引き込みは、既に各候補者によって目処がついていた。
 そこで少人数の部に向けて懇願書を送ったつもりだったのだが。
 これが読まれるどころか切り跡一つもない状態で送り返されてきたというわけだ。
(八方塞がりだ。やべぇぞ、日曜日ヘコんでる場合じゃなかったな)

 ――ミーンミンミンミン

 用件を済ませた仲枝が部屋を出ると、鉄也はおもむろに立ち上がった。
 熱した窓を引くなり、近辺で鳴き喚く油蝉を威嚇するように奇声をあげた。
「ミーンミンミンミンミン! ギューンガチャギューンガチャ! ギュインギュイン!」
「もー静かにしてよ!」
「殿、ご乱心なり」
「うるせぇ、殿は俺じゃねぇ!」
 丸山に羽交い締めにされると、鉄也は強制的に座席へと引きずり戻された。
 舞子は教室の出入り口を施錠すると、遮光カーテンを締めた。
 座り込む三者は一様に消沈している。
「で、西極氏。今どういう状況?」
 こう問われ、鉄也は引き出しから開封済みの封書を引っ張り出した。
 月曜日に届けられた選挙管理委員会からの速達。
 封中には最終的な概要とトーナメント表の結果が入っていた。
 鉄也がこれを広げると、丸山と舞子は覗き込むように屈んだ。
「Aブロックは入江と圭佑。ざまぁとしか言いようがねぇな。Bブロックは鈴川と小原になってる。まぁ、高鍋に期待するしかねぇ。Cブロックは譲とルーシー。初っ端から内紛って感じだ。そして、栄えあるDブロックは足立とお前だ」
「いきなりだね」
「ああ。けど、もう逃げねぇぞ。これ以上みっともねぇ姿晒してられねぇし」
 鉄也は椅子の背もたれを沿うようにして仰け反った。
「問題はそこじゃねぇ。奴ら、金曜の放課後から各部の取り込みに動いてたんだ」
「唆したのはてっちゃんじゃん」
「お前だって乗り気じゃなかったろ。それに選挙ポスターもうちが一番ショボい」
 黒板脇に目をやると、鉄也は溜め息をついた。
 フォント依存の文字の羅列に、取って付けたような舞子の写真。
 さながら履歴書を彷彿とさせる。
「完全にブーメランですな」
「どこも広報ポスターを作る能力があったんだよね。ほら、よその部活動って鈴川さん以外はみんな大会とか発表会の告知しないといけないから。私、そういうのやったことないし」
「パソコン打てただけでも大したもんさ」
 鉄也はボールペンの芯を出し入れしながら、
「ババアもババアだ。あれだけ人に入れ知恵しときながら、肝心なところは丸投げだ」
 こう言い捨てると、引き出しを探り始めた。
 すると、こつんと何かが当たった。
 引っ張り出されたのは、入江工業から納品された統領選専用端末。
 帰りのホームルームで仕様の落とし込みがあったばかりだった。
 電源を入れると、出来映えの良い高グラフィックの起動画面が『ラタス・バタリア』の文字を泳がせる。
 英梨から情報を掻い摘んだ下城が改めた缶蹴り合戦の新名称ということだった。
 そこで、鉄也はひらめいた。
「おい、丸山。これ作ったパソコン部の下城って知ってるか」
「知ってるも何も、小生西極氏の次に親しくしているのは下城氏ですし」
「えっ、ほんと?」
「パソ部ならアニ研とのコネがあるから、最低でも十人弱は集まると思われ」
 鉄也は思わず立ち上がった。
「でかしたぞ、ブタ!」
「小生みたいな二次元に生きる戦士は、三次元に興味ありませんしおすし」
 丸山のこの言葉を鉄也はもっと精査すべきだった。
 加えて言うなれば、里見の話にも耳を傾けておくべきだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺がママになるんだよ!!~母親のJK時代にタイムリープした少年の話~

美作美琴
キャラ文芸
高校生の早乙女有紀(さおとめゆき)は名前にコンプレックスのある高校生男子だ。 母親の真紀はシングルマザーで有紀を育て、彼は父親を知らないまま成長する。 しかし真紀は急逝し、葬儀が終わった晩に眠ってしまった有紀は目覚めるとそこは授業中の教室、しかも姿は真紀になり彼女の高校時代に来てしまった。 「あなたの父さんを探しなさい」という真紀の遺言を実行するため、有紀は母の親友の美沙と共に自分の父親捜しを始めるのだった。 果たして有紀は無事父親を探し出し元の身体に戻ることが出来るのだろうか?

放生会のタコすくい

東郷しのぶ
キャラ文芸
「F県N市で毎年9月に行われている祭りは、非常にユニークだ」……そんな情報を耳にした私は、さっそく現地へ向かう。敏腕雑誌記者(自称)私が、その祭りで目にしたものとは!? ※ますこ様の「イラストのススメ」企画参加作品です。プロのアニメーターである、ますこ様のイラストを挿絵として使わせていただきました(イラストをもとに、お話を考えました)。ありがとうございます!

迷家で居候始めませんか?

だっ。
キャラ文芸
私、佐原蓬(さはらよもぎ)は、京都の不動産屋で働く22歳会社員!だったのに、会社が倒産して寮を追い出され、行くあてなくさまよっていた所、見つけた家はあやかしが住む迷家!?ドタバタハートフルコメディ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

REN~性悪王子と夏色の推理室(アトリエ)~

天那 光汰
キャラ文芸
主人公の佐藤梨香は友人に連れられて行った美術展で一枚の絵に一目惚れする。その絵を描いた画家のRENは、日本人である以外は性別も年齢も非公開という謎の人物だった。 謎の天才画家に思いを馳せる中、ある日梨香は同じ学年のイケメン速水蓮太郎と廊下でぶつかってしまう。しかしこの速水、顔こそいいものの性格が最悪なとんでもない男で……そんな速水から、なぜか梨香は「お前、美しいな」と猛烈アプローチを受けるのだった。 「――脱げ」 「へ?」 なし崩し的に部屋に連れ込まれた梨香は、そこで速水の意外な一面を知ることになる。 性悪イケメンの速水と平凡な女子高生の梨香が送る、青春ドタバタ学園事変。お暇つぶしどうぞお読みください。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

つくもむすめは公務員-法律違反は見逃して-

halsan
キャラ文芸
超限界集落の村役場に一人務める木野虚(キノコ)玄墨(ゲンボク)は、ある夏の日に、宇宙から飛来した地球外生命体を股間に受けてしまった。 その結果、彼は地球外生命体が惑星を支配するための「胞子力エネルギー」を「三つ目のきんたま」として宿してしまう。 その能力は「無から有」。 最初に付喪としてゲンボクの前に現れたのは、彼愛用の大人のお人形さんから生まれた「アリス」 さあ、限界集落から発信だ!

処理中です...