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あの日あなたに出会えたことを、私は後悔していない
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例の事件から一か月がたち、学校が始まった。
私の斜め前には、友達と話す彼の姿があった。
私とは一言も話さず、目も合わない。今朝は気まずくて挨拶することができなかった。
そんな彼が声をかけてきたのは、放課後だった。
「あの日はごめん」
一か月ぶりの最初の言葉は謝罪だった。
「別に謝ってほしいわけじゃないんだけど。それに私もごめん。殴って」
「あれは本当にびっくりした」
彼は軽く笑った。私は少し安心する。
「それと、悩みを適当だなんて言葉で片付けてごめん。私も、覚えてないけど、些細な理由で死のうとしたことがあったんだ。悩みの大きい小さいなんて、周りが勝手に決めて良いものじゃなかった。ごめん」
私は深く頭をさげた。彼は慌てて、
「いいよ。大丈夫だから。気にしないで」
と言って、両手を胸の前で振った。
「あれから、親にいじめの話がいって。学校行かなくてもいいよって言われたけど、横山さんが言ってたこと思い出して、学校に行ってもいいなって思えた。別に学校が嫌いなわけでも、この人生が嫌いなわけでもなかった。友達と話したりふざけあったりするのは、青春て感じがして。それが俺にはまぶしすぎるくらい楽しかったんだってことを思い出したんだ」
彼は窓から海を見ながら言った。
「だから、ありがとう。今はまだ」
私の方を、透き通った目で見ながら言う声には力がこもっていた。
「死にたくない」
「そっか。良かった」
私もその目を見てにこっとほほ笑む。ほほ笑んだつもりだったけど、うまく笑えたか分からない。ずっと彼が死ぬんじゃないかとか、もう話せないんじゃないかという不安でこっちが死にそうだったから、安心して泣きそうだ。
それを隠したくて、私も窓の外を見た。
9月なのにまだまだ暑くて、入道雲が山から顔を出している。山は大きな影を作っていて、あの下では大雨が降っているんだろうと思ったら、こちらは雲一つない青空と容赦なく照り付ける燃える太陽が見えているのに不思議な気分がする。ソーダみたいに青く透明な海は、あの日とは違って何もなくて、砂浜にも誰もいない。ただそこにあるだけなのに、大きな安心感がある。私は深呼吸をして、生きていることを実感する。生きているっていうのは、こういう何気ない光景を、幸せだと思えることなんだ。安心して生きられる世界があるというのは、この世界で生きていくのに必要不可欠な条件なのかもしれない。
「横山さん。俺あの日言い忘れたことがあって」
私は彼の目を見つめる。彼は深呼吸を1つして、手汗を白いワイシャツで拭くと、私の前に手を差し出した。
「あの日俺と話すのが楽しいって言ってくれたけど、俺も横山さんと話すときは自然体でいられるっていうか。思っていることが言えて。だからこれからも、俺の話を聞いてほしいし、俺も横山さんの話を聞きたい。横山さんは前に俺たちの関係は平行線のまま続いて欲しいって言ってたけど、俺は平行じゃなくていいと思ってる。数十度俺が曲がってて。いつかどこかで交わって欲しいと思う。自殺願望があったやつなんて嫌かもしれないけど、そんなやつでもいいと思ってくれたら。もし良かったら、俺と……」
私は右手で涙をぬぐうと、彼の前に、その手を差し出した。
私の斜め前には、友達と話す彼の姿があった。
私とは一言も話さず、目も合わない。今朝は気まずくて挨拶することができなかった。
そんな彼が声をかけてきたのは、放課後だった。
「あの日はごめん」
一か月ぶりの最初の言葉は謝罪だった。
「別に謝ってほしいわけじゃないんだけど。それに私もごめん。殴って」
「あれは本当にびっくりした」
彼は軽く笑った。私は少し安心する。
「それと、悩みを適当だなんて言葉で片付けてごめん。私も、覚えてないけど、些細な理由で死のうとしたことがあったんだ。悩みの大きい小さいなんて、周りが勝手に決めて良いものじゃなかった。ごめん」
私は深く頭をさげた。彼は慌てて、
「いいよ。大丈夫だから。気にしないで」
と言って、両手を胸の前で振った。
「あれから、親にいじめの話がいって。学校行かなくてもいいよって言われたけど、横山さんが言ってたこと思い出して、学校に行ってもいいなって思えた。別に学校が嫌いなわけでも、この人生が嫌いなわけでもなかった。友達と話したりふざけあったりするのは、青春て感じがして。それが俺にはまぶしすぎるくらい楽しかったんだってことを思い出したんだ」
彼は窓から海を見ながら言った。
「だから、ありがとう。今はまだ」
私の方を、透き通った目で見ながら言う声には力がこもっていた。
「死にたくない」
「そっか。良かった」
私もその目を見てにこっとほほ笑む。ほほ笑んだつもりだったけど、うまく笑えたか分からない。ずっと彼が死ぬんじゃないかとか、もう話せないんじゃないかという不安でこっちが死にそうだったから、安心して泣きそうだ。
それを隠したくて、私も窓の外を見た。
9月なのにまだまだ暑くて、入道雲が山から顔を出している。山は大きな影を作っていて、あの下では大雨が降っているんだろうと思ったら、こちらは雲一つない青空と容赦なく照り付ける燃える太陽が見えているのに不思議な気分がする。ソーダみたいに青く透明な海は、あの日とは違って何もなくて、砂浜にも誰もいない。ただそこにあるだけなのに、大きな安心感がある。私は深呼吸をして、生きていることを実感する。生きているっていうのは、こういう何気ない光景を、幸せだと思えることなんだ。安心して生きられる世界があるというのは、この世界で生きていくのに必要不可欠な条件なのかもしれない。
「横山さん。俺あの日言い忘れたことがあって」
私は彼の目を見つめる。彼は深呼吸を1つして、手汗を白いワイシャツで拭くと、私の前に手を差し出した。
「あの日俺と話すのが楽しいって言ってくれたけど、俺も横山さんと話すときは自然体でいられるっていうか。思っていることが言えて。だからこれからも、俺の話を聞いてほしいし、俺も横山さんの話を聞きたい。横山さんは前に俺たちの関係は平行線のまま続いて欲しいって言ってたけど、俺は平行じゃなくていいと思ってる。数十度俺が曲がってて。いつかどこかで交わって欲しいと思う。自殺願望があったやつなんて嫌かもしれないけど、そんなやつでもいいと思ってくれたら。もし良かったら、俺と……」
私は右手で涙をぬぐうと、彼の前に、その手を差し出した。
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